
一つ前にUPした、トゥルマレ峠を駆け上がるアマチュアレースの物語(前半)に続く、後半部分です。
[ここから]
GodefroyはBagneres出の少年に礼を告げ、立ち上がった。 スタートラインでは、既に悪餓鬼どもが肘を張って少しでも良いポジションを確保しようとしたり、慣れた感じの参加者がトゥーストラップを締めたりして、今や遅しと待ち構えていた。
スタートの笛が鳴った。...ついに始まった。
次の瞬間、Godefroyは、ひとかたまりですっ飛んで行って曲がり角の向こうへ消えてしまった競争相手をみて唖然とした。 スタートであんなにダッシュしたら早々にバテて脱落してしまうのにと心配し、ちょっとがっかりした気分になったが、マイヨ・ジョーヌはさっさと頭を切換えて自分のペースで漕ぎ始めた。 息切れしないように、滑らかに、そして極力ダンシングしないように心がけて。 そして、1つ目の砂糖片を食べた!
Baregesの集落(*1)の入口で、さっきまで孤独を強いられていたGodefroyの目に、集団からちぎれた幾人かの競争相手が見えた。 彼は孤独から解放されたうれしさで、早く追いつこうと加速したくなる誘惑に駆られた。 しかし、うれしそうに彼らに追いつくのは癪なので、その代わりに、もっと失望と屈辱を味わわせる意地の悪い方法を思いついた!
(*1) 註: 左端の画像は、Baregesの集落からゴールを見上げた景色です。
それはベテランの技だった。(18歳の若手にして、40歳の狡猾さ) Godefroyは、あたかも当然だと言わんばかりに彼らに追いつき、優越するそぶりなど一切見せず、何でもないかのように、しかし無慈悲に置き去りにした。
そう、マイヨ・ジョーヌは、もはやビリではなくなった。 そればかりか、Baragesの集落を横切っている荒れた坂を、彼は44×24Tで滞ることなく快適に通過できた。
1ダースほどの砂糖片を口にいれ、さあいよいよと気を引き締めた。 そして遂に、道がBastan川と並行するあたりに差し掛かった所で、数百メートル先に集団を見つけた! よし、彼らだ。 しかし、全員じゃないぞ。 先頭はまだ先のようだ。 この集団は今のところまとまっているが、スタートで過剰なダッシュをしているので、そのうち酸欠と足の攣りでばらけてしまって、坂道に沿っていくつかの残骸となってしまうだろう。
時に楽しそうに、時に冷酷に、Godefroyはリズムを崩すことなく、苦しみという意味では仲間であるはずの彼らを一人一人抜き始めた。 彼らの一人が、あと数メートルに迫った時に振り返って、信じられないという様子で言った。”若僧じゃないか!”
ルートは広い枝谷であるGaubie谷(*2)の側に誘導されていて、Godefroyは、その枝谷の低くなったあたりを走っているフロントトリプルの見覚えのある自転車を見つけた。 そして、朝食べた物を吐きそうになりながら頑張っていたフロントトリプルの持ち主を、川へと戻るカーブで捕らえた。
(*2) 註: 左から2番目画像において、右側に延びていく谷です。たぶん。
突然、Godefroyは新しい砂糖片を口にした。 ますます力が湧いてきた。 フロントトリプルと抜きつ抜かれつを繰り返し、表面上穏やかに、偽善的に互いを励ましながら牽制し合った。
頂上まであと4kmの地点、渓谷を見渡す坂のさらに遥か向こう(*3)、今までカスクに遮られて気付かなかったが、ハンドルバーやホイールの鈍い反射が集まっている地点が見えた。 10か、15か、それとも20だろうか。 ”小さすぎて判らない”と「Seguin氏の羊」(*4)のように思い、近づいてくる山の頂をじっと見た。 もう前にはそんなに人はいない。 でも、Bagneres出のかわいい少年をまだ見ていないなと、ふと気付いた。
(*3) 註: 左から3番目の画像のような景色でしょう。
(*4) 註: 短編小説集「Moulinの手紙」(Alphonse Daudet作)の中のひとつ だそうです。
でも中身が判らないので、何の喩えなのか私には解読できません。
ゴールまであと数分となる最後のカーブにまで来ていた。 さあ、ここからが最後の難関だ。 フロントトリプルは頻繁に振り返り、差を維持して、絶対抜かれないぞと言うようにダンシングし始めた。 一方、Godefroyは疲れを感じ始めていた。 さらに靴紐が解けてきていたので少しパニックになりかけていた。 呼吸が荒く、心拍数も上がってきたのがわかった。 彼は、いつもとは違う量の砂糖片を手にし口へ持っていった。 彼の頬には、入りきらない砂糖片が、羊とそれを追う黒い小さな家畜犬のように点々と付いた。
ついに、タフだった相手が突然足を付き、短い息の後、長々と吐いた。 Godefroyは言葉をかけることもできず彼の横を通り過ぎ、最後の力を振り絞って、高く、冷たい風が波打つことでよく知られた頂に到着した。
Lourdesのクラブ代表が笑顔で出迎え、こう言った。 「おめでとう。 堂々の第3位だ。 さあ早く風除けへ。」
Godefroyにとっては、この峠を征服できただけでも十分過ぎるほどうれしかったので、この好成績は言う事がなかった。 そういえば誰が優勝なのかと尋ねたところ、クラブのスタッフが、風をよけて陽だまりに座っているスエットスーツの一人を指差した。 なんと、Robicの倍もここを知り尽くしたBagneres出の少年じゃないか。 すごい!
まだ額が火照ったままのGodefroyだったが、スタート前の時とは逆に、今度は自分がそのVainqueur(勝利者)の横に行き、腰をおろした。 遠く、登ってきた坂のふもと、Baregesの集落とBastan川が見える。 稜線には、主峰として君臨するVignemaleと、空に突き上げるBalaitousが聳える。(*5)
一陣の風が土埃りを巻き上げて通り過ぎた。 Godefroyは思わず目をつむった。
[おわり]
(*5) 註: 左から4番目画像は、おそらく彼らがみただろう風景です。
|
おお〜感動のゴール!!素晴らしい!素晴らしいドラマにちょっと感動です!!・・・ところでいつ頃の話なのでしょうか?
2009/4/8(水) 午前 1:10
katoさん 物語は1950年7月28日です。 半世紀近く時を経て、日本の読者に感動していただいて、著者のPierre ROQUESさんもきっと喜んでいることでしょうね。
[ AncienneBicyclette ]
2009/4/8(水) 午後 10:02