
ミロワール・ド・シクリズムは、1960年代から90年代にかけて発行された、フランスの自転車雑誌(月刊誌)です。 この雑誌について詳しく紹介されていて、同年代の追憶のカタログ類も多数公開されている日本の有名なサイトがあり、私はそこでこの雑誌の存在を知りました。 オークションで1967年のものを入手してみたところ、大半はツールドフランスをはじめとする自転車レースの記事で構成されていますが、巻末に1ページだけシクロツーリズムに関する文章と写真が、Huretの広告とともに掲載されていましたので、興味を持ち解読を試みました。
タイトルは、CYCLO−MULETIERSです。 MULETIERSとは「運搬」や「キャリア」という意味ですので、てっきりフロントキャリア、リアキャリアに象徴されるランドナーやスポルティフ、キャンピングはいいよ という事が書かれているのだろうと舐めてかかったのですが、これが大違い。 正しくは「自転車担ぎ」、 最近の用語で言うなら「山サイ」とも言えるものでした。 そんな見込み違いもあって、たった1ページの解読に3ヶ月近くかかってしまいました。
上の画像は、スペースの関係上その1ページを切り貼りしたものですが、実際には写真に隠れてしまっている部分にもほぼ全面に文章が書かれています。 なお、私の訳が、元の文章の雰囲気をぶち壊しにしてしまっている恐れもありますが、そこはご容赦のほどお願いします。
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本誌の読者全てがツーリング事情に詳しいわけではなかろう。 大抵の場合は、自転車と言えばロードレース車、そう、真のスポーツ、あるいはスポーツの王様(*1)と言われるロードレースのための自転車を思い浮かべると思う。 それは無駄を一切省いて、記録、勝利、そしてマイヨジョーヌを追い続けるプロのためのマシンである。 でも今は、ドロヨケや軽量のフロントキャリアを装備し、土地から土地へ移動するためというような曖昧なカテゴリーの自転車であるルート車を思い浮かべてほしい。
(*1) 拙註: 原文では« Petite Reine »、直訳すると「小さな女王」ですが、これではピンとこないので「王様」としました。
このルート車という奴は、ロードレース車と同じくスティールでできていようが、同じ軽合パーツを使っていようが、アンクィティルが使えるくらい精度よく組み立てられていようが、そういう問題ではなく、ロードレース車とは別物なのだ。 何が違うって、こいつのフロントダブルやトリプルで28T、30T、32Tといった小さなフロントホイールをみると、驚き、笑ってしまい、皮肉を言いたくなる。
「こんな小さなフロントホイールはいったい何だ? コーヒーミルかミキサーじゃないか。 俺たちは料理人か? それともこれを使って壁登りでもやれと言うのか?...」
しかし、この夏の朝の強烈な出来事以来、Godefroyは本当の壁登りとは何なのかはっきりと判った。 もちろん煉瓦や石積みによる垂直壁ではなく、ツーリングの範疇で言う壁、すなわち猛烈な傾斜で、荒れて石だらけで、埋まった石が車輪の下から突き上げてくるような坂のことである。
その日、遠くはなれたCouserans地方のAriegeoise谷を目指してコール峠へ(*2)進んでいた。 タール敷きの道はとうに終わっていて、行く先の石畳の道は空っぽの羊小屋へと迂回していた。 一番小さな”ミル”を回し、ギヤ28×26でいよいよ”お祭り”が始まった。
(*2) 拙註: コール峠(col de la Core)はフランス南西部スペインとの国境近くの山岳にある峠。
コール峠はロバ運搬の峠で、過酷なレースはもう充分と思っているようなサイクリストならツーリングには選ばないような場所だ。 回りには中世の城壁を思わせる岩塊が点々と続き、霧をしたがえている。 クラシックなアプローチはなかなか悪くないが、たいていこんな道の向こうには険しい悪路が待っているものだ。 予想を裏切らない悪路をなんとか過ぎると、道は心細い踏み跡になり、ついには自転車を肩に担がないと進めないようになってしまった。 回りは草叢や石屑、時折夏の日差しに抗うように固まった雪塊があるばかりだ。 雪塊の解けまいとする涙ぐましい抵抗と、今自分のやっている事が重なり、なんだか同じ喜びである事のように思えて、ようやく楽しめるようになった頃、下りが始まった。
この時が、車輪が空回りするような地面やとても漕ぎ上がれないような坂を目の当たりにし、自転車を担いだ始めての経験だった。 今では、この道はお気に入りコースとなっていて、先日シクロクロスの合宿で登ったときには、それほど苦労を感じなかった。
このようなルートでは、レース用のチューブラタイヤやホイールでは、長くは続かない。 軽量な上に、頑丈であることが求められるからだ。 頑丈さは、揺れや衝撃に耐えるために必要だし、軽さは、滑りやすい草地や地すべり跡を通るときに、肩に担いだまま足場を探したりするのに必要で、重いマシンでは困る。
コール峠が見える所まで来たら、もう雪塊は見当たらなかった。 彼は険しく石だらけの道を後にして、満足だった。 小さなギアを笑ったことを反省し、感謝した。
しかし、進行方向に踏み跡は全く無く、自分自身だけが頼りになった。 自転車は肩に担ぐほか無いところへ持ってきて、羊歯が手足に無数の傷を付けるだけでなく、ペダルやスポークに絡みついた。
そのような苦労も、峠の脇の大きな苔むした岩のところで終わりとなった。 彼は遊園地の馬車のように草が絡まった自転車を、やっと肩からおろすことができた。
峠で一息付き、少し汗ばんだ足を風をあてるために伸ばした。 灰色の岩の向こうは、真っ青な空、まぶしい日差し、大きな白い雲、眩しくて眼を閉じてしまう。 放牧のかすかなカウベルの音を聞きながら、彼が越えてきた峠の反対側を見やると、放牧用の柵が、Bethmale谷の地形に沿って教会の鐘塔がある谷底の集落まで、川を跨いでのびていた。
Godefroyは、ツーリングのすばらしさを再確認した。 彼はここ、来たかったコール峠に来れたことに単純に満足していた。 もちろん、自転車を担いで越えてきたからである。 多少の痛い思い、時には大変痛い思いを伴うが。
コール峠越えには栄光も記録も無関係だ。 もし、TourmaletやGalibierに自転車で登ったのなら、その体力や精神力を皆が称賛してくれる。 でも、コール峠やCrouzette峠、ましてやParpaillon(*3)であればどうだ? 称賛どころか怪訝な顔で聞かれるだけだ。 舗装された走りやすい峠がこんなにあるのに、なぜそんな迷いやすい羊の道を行くんだ? なぜ困難で、時々消えてしまって、なにより自転車を担がなければならないような道なのか?
(*3) 原作者の註釈: 熟練の自転車担ぎ屋が頻繁に訪れる、Basses-Alpes越えの主要峠
理解できない人には疑問な行動なのかも知れないが、ツーリング愛好者にとっては、自転車担ぎをするような道は、静かで、時々は走れて、とても長くて、人に気兼ねせずにゆっくり進めるからという理由で理解してもらえる。 似たような行動として、車の洪水から離れて山を散策したり、時にはレースで汗をかいたり、また人波から離れて写真を撮りに行くことなどは、疑う余地もなく単純に素晴らしいではないか。
もちろん、それでも多少の不都合は我慢して、走りやすい舗装路を使うという考え方もある。 しかし、あくまで自分が最高だと納得できることを求め続ける事も大切なのだ。
さあ、山を行くツーリング愛好者よ、National Geographicバリの写真を見せ、道なき道を行く自転車担ぎを仲間広げよう。 そして仲間と出発しよう。(とても遠い道のりは、一人ではない方が良い)。 ツーリングバッグからスニーカーを引っ張りだせ。 サイクリングシューズは滑ってしまう。 日程は長めに取っておこう。 そしてできるだけ朝早く出発しよう。 これが登山と自転車担ぎの黄金則なのだ。 絶対後悔しないから。
Pierre ROQUES
[ここまで]ああ疲れました。
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世界の自転車史として、貴重な資料が盛りだくさんですネ!!
更新楽しみにしています♪
2009/2/1(日) 午後 7:57
当ブログ最初のコメント、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
[ AncienneBicyclette ]
2009/2/3(火) 午後 10:23
こんばんは! ファンポチ有難うございます
古い自転車は全くわかりません ご教授お願いします
ファンポチお願い致します。
2009/2/5(木) 午後 11:38
ご訪問ありがとうございます。
あきぼーさんこそ、名車のレストア、すごいですね。
こちらこそよろしくお願いします。
[ AncienneBicyclette ]
2009/2/7(土) 午前 10:51
懐かしいです。
丁度1966〜7年頃にホルクスやエバに入り浸っていた私はこのころのミロワール誌を横尾さんで買って居ました。
頭が悪い癖に仏語の辞書を買い込んで訳そうとしましたが全然理解出来ませんでした^^;。
未だアンクティルなんかの記事が出ていた頃ですよネ。
[ east_bred ]
2009/2/20(金) 午前 9:55
east bredさん。コメントありがとうございます。 相当お詳しい方とお見受けしました。ご明察の通り、この号の表紙はアンクイティルとB.GUYOT(読み方が判りません)です。画像を追加UPします。 懐かしさを感じていただけて逆に光栄です。
[ AncienneBicyclette ]
2009/2/20(金) 午後 9:14
残念ながら全然詳しくは無いんです^^;。
でもB.GUYOTって東京オリンピックにも来ていたフランスのギュイヨじゃ無いでしょうか?。
個人ロードレースに出ましたが途中棄権になっていますネ。
[ east_bred ]
2009/2/20(金) 午後 10:44
east_bredさん。ギュイヨっていうんですか。勉強になります。
[ AncienneBicyclette ]
2009/2/21(土) 午前 0:10
はじめまして、INTER8と申します。
にほんブログ村で古いツールドフランスの雑誌を翻訳しているのを見かけて、こちらへ入ってきました。
そして「担ぎ」というリンクをクリックしたら、この「CYCLO−MULETIERS」という記事に行き着き、とても興味がわきました。
これを読む限り、行動形態や精神的な部分が日本の「パスハンティング」と同じだと思いました。
パスハンティングは日本固有の楽しみ(車種)だと思ってきましたが、先代のパイオニア諸氏がこの記事を読んで楽しみ始めたのか、それとも国は違えども同じような趣向に進んだのか、しばし想いをはせました。
写真の自転車は前三角にボトルが装備されていないことから、少なからず担ぎを前提とした自転車に見受けられます。ハンドルがドロップなのは山道を下ることは、まだそれほど力を入れていなかったのでしょうか。記事中でギヤは前ダブルの28x26Tとありますので、かつてのALPSクライマーのような自転車に仕上がっていたのでしょうね。
楽しい記事を読ませていただき、ありがとうございました。
[ INTER8 ]
2017/4/13(木) 午前 0:24
INTER8さん ご訪問、コメントありがとうございます。
前三角にボトルケージが無いことは、言われて初めて気づきました。観察力がすごい! フランスは日本と同じように山岳地が多いようなので、国は違えど同じような趣向に進んだのではないでしょうか?
INTER8さんのブログへお邪魔させていただきました。自転車が映える写真の数々、楽しそう! 今後ともよろしくお願いします。
[ AncienneBicyclette ]
2017/4/14(金) 午後 9:58