石の思い

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幸田文

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「哀しくて、だけどなんてすがすがしい男」

                  幸田文 「大工と私」


小川三夫『不揃いの木を組む』、西岡常一『木に学べ』

棟梁たちの本を読んでいいなあ、すごいなあ、と嵌っているきょうこのごろ。

『幸田文全集 第23巻 雑纂1』の講演記録を読んでいたら。

棟梁でない、若い大工さんたちのお話がありました。

忘れがたい文章だったので抜き書き。

講演記録「大工と私」より。

奈良・法輪寺の三重塔にたずさわった若い大工さんたちの話。

塔がだんだん仕上がって、別れが来る。みんなだんだんにちりぢりになってゆく。

「既に木造の部分の仕事を終えた若い大工さんは、手をあけていることができないからほかの土地へ移って行かなくちゃならないんです。残る者が送り出すんです。寂しい別れがそこにあるんですね。男なら食っていかなくっちゃならない。そして出発するんです。」

古代建築って、稼げないんですってね。意外でした。第一に仕事がない。

大きな仕事がおわったあと、若い大工たちは、次の仕事の口がほとんどないのが実情だそうで。

棟梁は、若い大工たちの次の仕事の口をみつけてやれない、と、気に病んでいます。

だから若いやつらに古代建築は勧められないんだ、といいます。

「これだから古代建築は、俺は、どんなに言われても、文化財なんだと言われても、人に勧められないんだよ。」

「この次の満足な仕事の口を若いもんにやるからこそ棟梁の力があるんだけれど、私にはそれがない。どこを捜してもいい古建築の新築はない。」

「あとはどうするかな」


・・・・

「皆どうするの」

幸田さんが問います。

すると若いひとは応えます。

「うん、いいよ」

「いよいよせっぱ詰まってくりゃ、日雇いに出るから・・・。」

「だって、あんた、ここでこんな大きな檜材使って仕事したものが日雇いになるの?」

「道路工夫してもいい、しょうがないじゃないか、俺生きていくよりほかねえもん」

「ここでしたことが果てれば、俺はそれでいいと思っているんだよ。

俺、一生恵まれなければ、人夫で終わっちゃうかも知れない。

だけども、子供ができても、俺はひとつだけ言えるんだよ。

<こういうところに、こういう塔があって、そこの西側を俺がやったんだ>ってね。」

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   「もう解っていた。ここまでやって母さん疲れたんだ。」

                              「裁ちかけの浴衣」

相変わらず幸田文祭りをひっそり続けいている。

青木玉さんの随筆。青木玉さんは幸田文の娘さんです。
幸田さんが所有していた着物とそれにまつわる思い出を鮮やかに描いた回顧録。
幸田さんの事なら何でも知りたい私としては、ずっと狙っていた一冊☆

さて、玉さん。上品でやさしげな文章を書く方ですね^^
お写真を拝見すると、うなじがなよやかで少女めいています。(おばあさんなんですけどね)
お母さんが正面突貫型とするなら、玉さんはそっと脇へよけてしみじみ見送る型。
子供ながらそういうやさしさでお母さんを労っておられたのでしょうか^^
憧れます。

着物のカラー写真が満載で、色・柄にうっとりしつつ読みました♪
いいなー、こんなのを着こなしてみたい…。

といいながらも、着物に関しては全く知識がないもので。感想はいつもどおりに^^;

こんな感じ。

・・・・・

「あじさいの庭」

「うん、一生、どぎついことや嫌なこと、悪いものに逢わないで来た女って感じだった」

鎌倉のあじさい寺で出会った美しい女の人のお話し。
うす紫の着物で、それより紅の入った濃紫の帯をしめた人の話。
あんまり好きすぎて立止まって凝視したあげく、親しげに黙礼されてはしゃいで帰ってきた母。
興奮して娘にしゃべりまくる母。ああ、佳い人だった。あんな佳い人みたことないッ。

塔の再建の為に訪れた斑鳩での思いがけない再会。

「あんな佳い人、逢ったこと無い。今日は佳い人に逢って、ほんとに仕合せだった」

あじさいの色が繋いだ美しい縁。

人間は穢れのないものに対しては信仰に近い想いを寄せるものなのかな?



「色ちがい」

「満ち足りている人は乏しいことから生じる悲しみを知ることはないものと私は思っていた。
その人がそんな悲しみを今までに持っていたとは考えられない。
では満ち足りた人は悲しみまでを受けずに知るものなのだろうか」


太物問屋のご主人。織物を商いちょくちょくと家に顔を出す偉丈夫。
帆をいっぱいに張った船のように商売も家庭も順調な彼が見せた意外ないたわり。

『流れる』の芸術院賞受賞の祝賀会でのお話し。
ふるまわれた酒はなつかしい味。嫁いで辞したかつての婚家の商う酒。
なつかしい顔がちらほら。皆、笑っている。祝いを陳べたがっている。この人たちをおいて、出てしまった。お互いに悲しいことだらけだった。

「よーい、よいよいよいこら、よいよいよいこらよーめでたい。御繁盛めでたい」

活気めいた新川じめ。拍子は身体がおぼえていた。手を打った。7・5・3のリズム。
一度つないだ縁は、離婚という区切りをしても悲しみも苦しみも楽しさも込みにして、続くのだろう。

それを見ていた人がいた。

「辛い想いがあったでしょうが、あの晩、先生はそれを超えられてこだわりなくあちらの人達と
笑っていられた。よかったですねえ、私はそのことがとても嬉しかった」

悲しみを察しられ、いたわられるという事のしみじみとしたうれしさ。おどろき。
言い置いて去ってゆく彼の後ろすがたを見送りながら、男という生き物の持つ強さと優しさを知る。

たのしいばかりでは済まされない人生。辛いものを乗り越えた人達を、見守りいたわる人がいるという事は嬉しいことだ。


「取りかえっこ」

祖父・露伴の一周忌の記念講演。娘に島田を結えと命じた母だったが…。

玉さんが髪結いの先生にお礼を言おうと頭を下げたら、代わりにぴしりと注意を受けたというお話。

 「それ以上頭をお下げになってはいけません。重みで根がゆるみます」

美しく造った形を崩さないのが、施されたものの礼儀だろう。


しかし島田ってすごい髪型ですね^^;地毛で結ったものを初めて写真で見ました。
りっぱ過ぎる。こりゃおののくわー。


「すがれの菜の花」

「私はあの菜の花の着物をきてお嫁に行きたいんです。
秋だろうと冬だろうとそんなこと構いません。新しい着物も欲しくない、私はあれが」

お手伝いさんのお話し。
女の一生って本当にどうなるか判らないな、と甘苦い気持ちで読んだ。
だから、日々の小競合いをくりかえして、もう、ほとほとうんざりしてしまっても、
女の味方はやっぱり女なんだな、とおもう。

若くして縁付き仕合せな結婚生活を送っていた女が、夫と子供を急病で亡くした。
実家にも婚家にも居たくなく、母の元に転がり込んだ。
がんらい明るく働き者だからせっせとよく働く。でも、人の仕合せがひどく癇に障る。

「ただ難は、仕合せそうな若い人を見ると、気が荒れて、むうっと不機嫌になり、
母であれ、来合わせた郵便屋さんであれ相手かまわず突っかかる」

幸田一族っていうのは、こういう人をもてあまして遠ざけることが出来ない性分らしい^^;
どうしても、近くに引寄せて後の始末がつくまで、次の算段ができるまで、受け入れてしまう。
(私なら嫌だー^^;)

この人の再出発に、菜の花のきものをもって送りだすお話。

どうしても、幸田さんの菜の花の着物が欲しい。たくましいあの花畑を貰い受けたい。
彼女は乞う。

 「土に鋤込まれても、油を絞られたあとまでも、たくましく物を育てる力になるこの花に、
 彼女の心は引かれて止まないのであろう」

笑うも、ひがむも、ゆがむも、泣くも、幸も不幸もその人を作る欠き難い要素なのだろう。
捨てたいと泣きながら願い、結局一生付き合うことになる嫉妬心すら、我が血肉なのだ。


幸あれ、幸あれ、幸あれ、きものに託して声にならないエールをおくる。


「ネコ染衛門」

猫がドボンと金盥で染められるお話し。パープル猫の誕生。
ブー公、災難だったね^^;
ごめんね、びっくりしたけど、ちょっと笑っちゃった^^;

※冒頭の引用は「裁ちかけの浴衣」より。
残された裁ちかけの浴衣を眺めるお話し。
ひとりの人間の、母の、<持ち時間>が終ったのだという事を「ああ」と気付くシーン。
使い果たした命数の名残り。形見。
読みながら鼻の奥がツーンとしてしまった(;;)

☆☆☆

『幸田文の箪笥の引き出し』 青木玉 著 (新潮文庫 税抜・552円)

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せっかくの休日だというのに明け方から枕もとで猫がにゃあにゃあと催促。

仕方なしに起き上がり、庭に出す。

晴れた冬の日の関東平野はいつもそうだが、風が強い。

ごうごうと鳴る。横にふきなぐる。非常に明るい。

外出の予定があるときはかなりげんなりするが、猫はあんまり構わないらしい。

引き戸を開けてやったらさっさと敷石を踏んで出て行ってしまった。

はい、遊んでらっしゃい。

御役御免になって部屋に引き返す。

二度寝するのも何なので、お茶をいれて甘いものをつまむ。

さくら餅。美味。誰が買ってきたかは知らない。食べたもの勝ち、が我が家の鉄の掟。

掟に従う。すなおで従順で気のいい奴なのだ、私は。

さて、今日はこれといった予定もなし。何をしようかなー。

・・・・・

本棚を漁る。

幸田文『動物のぞき』(絶版)を発見。こんなところに。
だらしなくも買った途端に行方不明にしていたのだ。

動物園の探訪記。<見てある記>。土門拳のモノクロ写真がそえられている。

きりん、ぞう、カバ、虎、ライオン、ゴリラ、馬、鷹、とんび。

いじらしく、おそろしく、いたましく、かわいい動物たちの記録。そして飼育の人の話。


「かわいく思うこととは酷(むご)いということと、じつに紙の裏表である。」


ぱらぱらめくっていると、動物たちの描写のかわいらしいことといったら(涙)

象君のおならはいっぱいするから臭くない、とか。犀の血塗れの結婚式とか。

ちょこんと、ちいっぽけな猿がしずかに座っている様子とか。

ごはんを食べ終えても、いつまでいつまでも係の人を放さない人なつこいオラウータンとか。


「愛し乙女(めぐしおとめ)などという【めぐし】ということばは、
  かなしい、いたましい、せつないなどという一連のことばと通じているのである。」


「【めぐし】は【むごし】だというのだ。」


筆者はそれをひっくるめて「かわいくおもう」という一言を使う。

いいなあ、と思う。言葉をたいせつにする人の文章を読むと、無性に嬉しくなる。


飼育の人の深い深い愛情。それでも分かり合えない「異種」たちが暮す人工の王国。


かわいらしさと同量のむごさ。どちがが優位というわけでもなく、同質だ。

それを忘れたくないあまり、またぞろこの人の文章に戻ってくる。私のもう一つのふるさとだ。



 「ものの一生懸命な姿で美しくないものはないのだ。」

「きりん」の章。なぜか馬の話。
ダービーで誰にも顧みられない、きゃしゃで弱い馬を買って雨の中どろんこレースを見る老女。
弱くて、どろんこで、みじめな走りだった。案の定スタートから遅れた。一生懸命だった。

 「なんとすらりとした馬か。弱々しくて、きっとあいつは震えているだろう」

 「あいつが走っているんなら、こっちも濡れて見てやるのである。」


 「ごめんなさいごめんなさいと人の脇腹をくぐって、私は柵の裾にしゃがんだ。
 『ばばあにゃかなわねえ』といわれた。」


 「負ける馬はたくさんいる。しかしこんないじらしく、立派な負けはほめなければうそである」

 「かわいくて、かわいそうで歯をかみしめなくてはいられなかった。
 ---あいつは大した勉強をしたんだ。ぎりぎりいっぱいの自分の限度というものを知ることができたんだ。
 へたばるか助かるかの境まで追いつめて、自分の限度を試み、承知することの出来た奴は、
 一ト財産持ったと同じことなのだ。」


かわいいと、かわいそうというのは、たぶん同じ事だ。


「ばばあにゃかなわねえ」

風の強い日曜の朝に、そう思うのだ。

☆☆☆

『動物のぞき』 幸田文著 (新潮文庫 税抜324円) ※絶版

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メモ

  「もうどこへ行く処もないし、何をすることもないのだ。」


       
                      「濡れた男」 幸田文



忘れないうちにメモ、メモ。

「マイナス・ゼロ」の到着を待ちながら、電車で一編だけ読む^^

そのつもりが「あだな」まで読んでしまう。…これは、にがい。(でも、好き)

・・・・・


無口な漁師たちのお話し。


<ほっちゃれ>のお話し。


いのちのお終いのお話し。



ノサップ。ハボマイ。濃霧。灯台。岬のさき。


ロシア船が見える。


北の土。冬の海。日本の北限。


「覚悟のないものには辛い土地でしょうね」


車を走らせて、土地の人はいう。老女は黙って聞いている。そして思う。



<あらゆることに北の国は強さを要求しているもののごとくである>



―――馬は鬣に吹く風をさびしく思わないだろうか、牛は背に降る雨を哀しくは思わないだろうか。―――


<私は自分の感傷を邪魔っけに思う>



そして羅臼(ラウス)。その漁場。


町にあるのは活気。声高ではない。華やがない。だが、力づよい、不愛想な生命力。


<活気だってせわしいままに、男たちは不愛想にさえ見える>


<波と風と魚しかいない海の上に、濡れることなど気にもしていない男が、行儀を守って働いている。>


―――百か!―――

―――はいってないね―――

―――しけあとでまだちょっと早い時間だ―――



船上での短い会話。それきりですぐに網に向う。

吐く息は凍って白い。鼻が赤い。

しけで、漁はかんばしくない。波ばかりが荒い。だが苛立たない。動じないのである。


―――ほいしょ―――

―――オーシュイヤ―――


音頭をとる。網を引く。平らかな心。無駄口はない。



<特別気負ってもいず、格別に主張もせず、平らかな心で働く老若の男の人!>

これは、獲るひとの姿。



ならば、獲られるものの姿は。

そのお終いは。

いのちを終える最後の最後のさかなの姿は。


<ほっちゃれ>


産卵を終えた鮭の、最期の姿をそう呼ぶ。



「夫妻ともに精根尽きて、ひどいのになればからだじゅう傷だらけで、しっぽも鰭も大概は形をなしていない。あとに残されているのは、自然の休息の時が来ることばかりである。」

「もうどこへ行く処もないし、何をすることもないのだ。すべて終って、惜しくない生命の果てるのを待つのだ。」

「美しかった銀鱗もいまはない。黒ずんだり白茶けたり、剥けて肉のただれたからだに、山川の秋深き水はあまりに冷たかろう。魚は喘いで、深沈とした夜の風を聴き、昼の雨にうたれる。」

「この精根尽きて死を待つ鮭を、<ほっちゃれ>とよぶ。その語感のきびしさに私はたじろぐのである。」



いのちが終わるのだ。それを看とる人がいる。


「あれはたしか正月休みだったかね。深い雪だった。一人でスキー持って出かけて、あの沢へ滑って来て休んだんだ。そうするとしんとしたなかで、いきなりがさっというんだ。何もいないんだねえ。雪の落ちたようすでもなし、枝の折れたんでもないんだ。それからふと気がついて、もしやと思って谷へ降りてみると、いたね。大きな<ほっちゃれ>がさ、からだじゅう腐って、みじめとも哀れとも、―――おすなんだ。普通はそんなに遅くまで生きちゃいないんだけど、よっぽど強いやつだったんだね。なんだかしみじみしちゃって、りっぱなやつだなあという気もするし、かわいそうでたまらないし。何日、人気も何もない処でそんなになって生きていたんだが、おれが来たんで跳ねたんだ。縁というようなものを感じだよ。それで、どうせもうだめなんだから、手に取ってやったよ。おれの手の上で、それでおしまいになったんだ。静かなもんだったよ。びくりともしないで寝ちゃったんだ。」


<ほっちゃれ>は、こうやってお終いになる。



☆☆☆

「濡れた男」  幸田文 著 …『ふるさと隅田川』所収 (ちくま文庫 税抜 640円)

メモ

  「私は、ただ美しくだけ訴えてきた、鯨の血のことを考える。
   
    殺りくとこれをいうのだろうか」

    
                                  幸田文 「鯨とり」 


(忘れてしまわぬうちに、メモ。)


捕鯨のお話。


鯨をとる人たちと、鯨とのお話。

ほふられる鯨のお話。かれらへの手向け。


舵を切る人、発砲する人、伝令する人、大鉈をふるう人、血抜きする人、陸で事務をとる人。彼らの仕事はいきものの血に寄り添っている。よって彼らの感動には翳がある。


  <かげは、人の品格を育てる。>


九州五島のはずれ。荒川捕鯨基地。開いて3年のまだ新しい漁場。抜けて東シナ海へ。

午前二時。夜の海。真っ暗闇。捕鯨船。はしけからキャッチャーへ渡る。350トン、1350馬力。黒い海へ出る。夜目は利かない。だが水を感じる。


翌日、晴天。
沖が見えない。ぐるりと波ばかり。ひたすらの海。静かだ。今は。


午後二時、船中が素早く引き締まった。

二頭連れの鯨の出現。近い。舵を切り、船は追う。追われる鯨は、逃げる。


  <鯨は知恵の限りに遁走し、船は技術の限り追う。>


14ノット。へさきには砲座。砲手がひとり。彼だけだ。ほかの者は彼の気を散らさぬよう、みな身をひそめている。



発砲。そして捕縛。



  「泡だった白波があかく裂けた。天日が赫々として、生けるものの流した血は、
   まさにただ美しさだけをもって目を奪った。感情がおくれてから動いた。
   ロープをひいて右に左に鯨が走り出してからである。」


伝声管からの命令。舵手は復誦操舵する。


  「その復誦の声に、職業や商売を超えて、
   傷ついたものをかばういたわりの感情がこめられていて、懸命なのである」


もう一弾。



  「まだやるんですか」



そういって鯨がこちらを見る気がする。砲手はいう。


絶命。



鯨の柔和な目は閉じられ、規則正しい畝をもった白い腹を上にして、水の底に静止する。

水はすきとおっている。ひたすらに碧い。


  「鯨は手足がなく、悲鳴もあげず、潜行遊泳するだけだ。それを撃つのだ。
   割り切れないものがだれの胸にもあるのだろう。」



  「水の仕事だけに完全にドライとは行かないようである。

   が、行かないそこが、実は支柱になっていると私は見る。」





  「捕鯨船員はぶっ殺し専門で、人非人みたいに言われ勝だが、違う。」



☆☆☆

「鯨とり」…幸田文 著 『ふるさと隅田川』所収 金井景子 編 (ちくま文庫 税抜640円)

捕鯨問題はまだいろいろ難しいところがあると思いますが、それはとりあえず置いておいて、こういう世界があるんだなあ〜と。

漁師(猟師)という、殺生を生業にする人たちの、生きものや自然への畏敬というのは、ものすごく強いものなのだろう。


忘れないうちにメモメモ。

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