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赤頭巾ちゃんと青い空
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小道が切れて、広い山道に出る。 比叡山が、遠くに見える。 雪だ。 「 あの山、白くて、きれいだね 」 「 ウン、ユキガ、チュモッテ、イルノ 」 一瞬、びっくりする。 誰だ、こんな難しい言葉を、教えたのは。 大体、この辺の目星は付いているが。 「 リカちゃん、お山はいいね 」 「 ノコニ、オヤマガ、アルノ? 」 一度、間違えて覚えた言葉は、なかなか直らない。 「 ここが、お山だよ 」 「 ノコガ? 」 山中に入りて、山を見ずか。 どうせ、家に帰ったら、お姉ちゃんに、 「 パパト、オヤマニ、イッテ キタノ 」 と 言うのに、決まっているくせに。 そろそろ帰ることにする。 元 来た道を、そのまま引き返す。 「 パパ、ダッコ 」 うん、そうだな、大分 歩いたもんね。 抱いてやる。 気のせいか、微かにミルクの匂いがする。 身体が柔らかい、眠たくなって来たのであろう。 唄う。 「 貴方、変わりはないですか、日ごと寒さが 〜 」 「 〜 チュノリマス 」 歌も取られてしまった。 ウグイスが、まだ藪のなかで、相変わらず飛び回っているようだ。 家にたどり着く。 赤頭巾ちゃんは、私の肩に頬を埋めて、静かな寝息をたてて眠っている。 屋根の上では、スズメが井戸端会議をしているかのように、
陽気に 鳴き交わしていた。
ー 完 ー |
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一際かん高い、「 ピュー 、ピュー 」という ヒヨドリの鳴き声を合図に、 起き上がる。 更に足を延ばし、以前に 鮒釣りに夢中になっていた頃に山中で見つけ よく釣れた秘密の野池へと向かう。 しかしながら、その池の真ん中には、新しくバイパス道路をを造るための 橋杭が、突き刺さるように立っていて、池は死んでいた。 さらに見渡せば、その付近の丘は、ゴルフ用の用地として、丸裸にされ、 整地されつつあった。 一瞬、「ゴルフ場のような、緑のきれいな自然」 という言葉が、 頭の中を よぎる。 やめよう、今日は幼児だ。 「 パパ、 オシッコ 」 それきた。 反射的に、「自分でしなさい!」と 言いかけて、赤頭巾ちゃんの姿を 見る。 着ぶくれたと言っても、いいところである。 無理だなあ〜。 抱きかかえて、ズボンを剥がして おしっこをさしてやる。 枯葉に、軽い水音がして、やむ。 抱いたままで、二三度、上下に揺すってやる。 この行為に、どれ程の作用効果があるのかは 定かではないが、 これをやらないと、どうも自分の方の気持が、何故かよく収まらない。 そろそろ家へと うながす まだ蕾しか付けていない 山ツツジの枝が、狭い林道を挟む ように、伸び出して来ている。 「パパ、コノホネ、モッテテ」と、赤頭巾ちゃんは、枯れ枝を拾って は、私に手渡す。 私は 受け取っては、後ろ手で、どんどん捨ててやる。 後で、怒っても、こちらには抱き上げるという、奥の手があるし。 |
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遠くの高い山々が目の前に映るような、すばらしく見晴らしのよい 丘に出る。 芝生のように柔らかな草が、一面に生えている。 腰を掛けてみる。 雪解けの水も吸っていない。 赤頭巾ちゃんも、直ぐに真似をする。 やゝ冷たい風が、頬を撫でる。 寝っころがってみる。 微かに、枯れ草の匂いが漂う。 赤頭巾ちゃんも、直ぐに真似をする。 「 太陽は、誰のもん? 」 「 リカ ノ〜 ! 」 「 パパに、呉れる ? 」 「 ダメ ! 」 「 じゃ、貸してくれる? 」 「 アカンノ 〜 !、パパニハ、オヒサマガ、アルデショウ 」 太陽が好きで好きでたまらない女の子。 何故か、自分のことを、「太陽の男の子」だと言い張り、太陽は、自分 のものだと言う。 そんな時、「お日さま」と言えば、許して貰えることになっているので ある。 「 お空、きれいだね 」 「 ウン、ママガ、アラッテ、クレタノ 」 「 お空、誰のもん?」 「 リカ ノ〜 !」 「 パパに、半分くれる? 」 「 ウン 」 今日は、気前が良い。 きれいな、山の空気のなせる技であろう。 わーい、貰っちゃった。 大きな青い空を、半分も。 開放感が、身にしみる。 |
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山道を抜けて、目の前が開けて来ると、橋の下を新幹線が走る陸橋と 出会うことになる。 赤頭巾ちゃん、それを見つけるやいなや、矢庭に駆け出し、鉄柵 につかまって、その隙間から大阪の方向を見つめている。 ゴー と音がして、ヒカリ号がやって来て、陸橋をくぐり、東京 の方へと走り去る。 赤頭巾ちゃんは、振り向くことをせず、何時までも大阪の方向を 眺めている。 仕方ないね、後ろには目が付いていないもんね。 「 新幹線、なんて言って。行った? 」 「 バババ ト、イッテ、イッタ 」 以前来て聞いた時は、「 テラテラ ト、イッテ、イッタ 」 と、しゃべっていたのに。 メジロが、「 チュジーン 」と鳴きながら、陸橋を越え、 五羽、六羽飛んで来た。 別の方向から飛んで来たもう一羽のメジロは、「 キリキリ 」 と相手のメジロを探るような鳴き声をしながら、群れのメジロに 近づいている。 「 そろそろ 行こうか 」と、促す。 ここで立ち止まっていたら、きりがないもんね。 松林の中の細い道を、ゆっくりと歩いて行く。 シジュウカラであろう。 松の木の高い小枝に留まって、「 チッチ、チッチ 」と鳴き ながら、せわしなく動いて、虫をついば んでいるようだ。 更に歩き続けると、畑に出っくわす。 畦(あぜ)道の中に入って見ることにする。 赤頭巾ちゃんは、勢い込んで 畑に入り 畝(うね)に登ろうとする。 キジバトが、黙って飛び去る。 「 駄目だよ入っては、ここには、大根や人参を植えてあるだから」 「 ウン、サラダモ、アルノネ 」 畑のあぜ道から降り、山道にもどり、また歩き始める。
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