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水音
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「 青春は 甘美な狂気に 満ち溢れ 」 虚空 「 水音 」 ー エピローグ − 9 琵琶湖 冬の朝、湖畔に男の姿が あった。 男は、街路樹の並びの下、積み石の上に座っている。 冷たい風が吹き、風波が岸へと寄せる。 男は、コートの襟を立てた。 日が射している。 男は、荒っぽく立ち上がり、落ちていた石を無雑作に手に握る。 岸辺まで歩き、男はゆっくりと大きな動作で、石を湖に向かって 思いっ切り 高く、遠くへ投げた。 そして、「よーし!」と大きな声を出し、石が湖面に落ちるのを 待たずに 街の方へと、大股で歩き出した。 比叡の山は 白雪で 煌めいていた。 ー 完 ー
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「 水音 」 8 幻住庵 三人の若者たちが、談笑しながら石段を登っている。 「 秋の初めは いいなあ、朝の空気はひんやりとして、ちょうどいい 気候だね 」 幻住庵の石段は緩やかである。 「 幻住庵って、もっと高い所にあると思っていたのに、もう門が見えてき たわ 」 三人は、周りを見ながら登って行く。 「 ここに俳句の書いた短冊が木にぶら下がっているよ、小学校の生徒 たちが書いたのだろうね 」 石段を登り終えると、小さな山門がある。 若者達は、その門を潜って境内に入った。 自然石の句碑が立てられている。 「 「 先づ頼む 椎の木も有り 夏木立 」 か 」 「 どういう意味かしら 」 「 芭蕉は、ここにしばらく住む気になって、自然に対して よろしく頼み ますと挨拶したのだろう 」 若者達は、幻住庵跡を通り抜け、小高い所に移された庵へと向かって 登って行った。 石段の下の方から、親子連れが登って着た。 細身の男が、赤い服を着た小さな女の子の手を引きながら、ゆっくりと 歩いている。 蝉が鳴き出した。 女の子は、すかさず 蝉の鳴き真似をし始める。 親子は、静かに庵へと向かった。 若者達はもう居ない。 男は、幻住庵の濡れ縁に腰掛けた。 女の子も、敷石に上がってから、同じように縁に腰掛けた。 日が少しずつ高くなり、蝉の声はだんだんと多くなってきた。 山一面へと、広がってきた。 ところどころ紅葉化した、もみじが美しい。 幻住庵は いかにも 静かである。 ただ 蝉の声が 山となっている。 |
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「 水音 」 7 中田島砂丘 砂丘に、娘が立っている。 娘は、暫く前方を見詰め、息を調えた。 走り高跳び の 練習を していた。 真夏の真昼の太陽が 娘の影を小さく砂の上に映している。 娘は、右手を一杯上げ、「はい!」と声を出した後、走り出した。 前方には、防砂柵がそそり立つ。 その僅か手前には、踏み切り板が置かれている。 加速度の付いた時、娘は左足に力を込めて、踏み切り 跳び上がった。 海の音は 微かに しているようだ。 娘は、胸を下にして防砂柵の真上で回転して跳び越し、右の手を着き ながら、砂浜に落ちた。 娘は、胸を膨らませ、大きく息をした。 次いで 防砂柵の破れた所を潜り元の位置に帰ってきた娘は、次の跳躍 に入るため、身構えた。 娘はただ、防砂柵を飛び越えることだけを 考えていた。 海の音は、娘には聞えていなかった。 走り始めた。 娘は、踏み切り足を板から僅かに外し、失敗した。 娘の身体は高くは上がらず、防砂柵の上部に内脚が触れた。 痛みが、脚を走った。 娘は、脚の内側を見た。 血が、流れている。 娘は、立ったまま屈んで、血の出ている所を、手の平で押さえた。 でも 娘は 懲りず、踏み切り板を柵の方へと、少しだけ移動させた。 次の跳躍は、娘を十分満足させるものであった。 娘の息と、波の音とが調和している。 娘は、休息するために、柵の日陰になっている砂浜の上に座り、柵に もたれた。 汗にまみれた脚には、砂がくっついている。 娘は、緊張を解いた。 波の音が、急に大きく聞えてきた。 髪の毛が、額と首筋に、貼りついている。 娘は、まだ荒い息を弾ませながら、砂浜の上に座り続ける。 海からの涼しい風が、娘の額に当たり 汗を乾かせている。 |
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「 水音 」 5 比叡山 元三大師堂に 雪が降る。 空を灰色にして 絶え間なく 降る。 音がする。 さらさら さらさら 音が ささやく。 雪が 木の枝の葉に 絶え間なく 降り積る。 木の枝は 絶えられるだけの雪を乗せ、大きく垂れ下がり、雪を落とし す。 雪は 次から次へと 宙を駆け下りて 一粉一粉 それぞれの所に舞い 降りている。 雪が風に舞い、元三大師堂の縁先に振り込んで、座禅する男の肩に乗っ た。 6 竜安寺 石庭は、雨の音を聞いていた。 春の、早朝である。 雨は、今しがた、降り出したばかりのようである。 誰もいない。 雨は、砂を濡らし、苔に滲み込んでいく。 白い砂は、灰色に変わっていく。 苔は、水を吸って、ふんわりと膨らんでいく。 誰もいない。 何ごともない。 石庭は、ただ 雨の音を聞いている。 |








