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「憧れ」が大事ではないかと思う。
僕は子供の頃から南国的な風景や音楽が大好きで、とくに南国の風景の象徴であるところのヤシの木にはとても惹かれていた。
ヤシの種類にもいろんなものがあって、大きく二つに分けると「ココヤシ系」と「ナツメヤシ系」がある。ココヤシ系は、葉が逆V字型で、幹がまっすぐではなく曲がっていて、実は大きく、赤道に近くて水の豊富なところにしか生えない。珊瑚礁のビーチで見るヤシはこれだ。ナツメヤシ系は、葉がV字型で、幹はまっすぐで、実は小さく、わりと高緯度(地中海沿岸など)でも、水の少ない砂漠地帯のオアシスなんかにも生える。日本で南国風を装うヤシは、このナツメヤシ系のカナリーヤシ(フェニックス)だ。
そんなことはどうでもいい。とにかくそれだけ研究するほどヤシの木が好きだったということだ。その中でも一番の憧れはやはりココヤシである。日本では温室以外では育つことができないヤシの中のヤシ、南国の楽園の象徴、まさにキング・オブ・トロピカルパラダイス植物だ!
そんな南国志向、ココヤシ志向が高じて、新婚旅行ではモルジブに行き、真ん中にココヤシの林が茂っているその名もずばりパームツリー・アイランドという小ぢんまりした島のコテージに一週間滞在したのである。珊瑚礁の真っ白な砂浜に風になびくヤシの葉陰!なんと夢のようなひとときか!
しかし‥‥
南国ではヤシは日常なのであった。日常はけっしてワクワクしない。ワクワクというのは非日常の感覚、ここではないどこかに対する憧れ、ロマンティシズムであり、エキゾティシズムなのだ。ヤシの葉が普通に茂っているような場所にいては、もうそこには「異国情緒」などない。異国ではないからだ。
現地に行ったり、本物を見たりせずに、遠くで「憧れ」ていること、このことのほうが、よっぽどワクワクしたりするのである。だから、白浜温泉の「なんちゃってトロピカル」的雰囲気、宮崎などの海岸沿いのフェニックス並木「なんちゃってヤシ並木」を見ているほうが、南国気分、トロピカルパラダイス気分を刺激してくれるというおかしな現象が起こる。
昔の人は言いました「ふるさとは遠きにありて想うもの」と。
この言葉がまさに「憧れ」ということを言い当てている。
僕の友達に、沖縄民謡、ウチナーグチなど沖縄文化をマニアックに愛するO氏というのがいるが、彼はまだ一度も沖縄に行ったことがない。行かないほうがいいのだろうか‥‥
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