三条通日記

新聞記者の極私的日記、映画評、アルバイトの日本語講座レジュメなど

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映画評、劇評、時評などもろもろ。とりあえずは過去に書いたもの。最新の文章も少しずつ、増やしていきます。
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映画「バベル」

 天に届かんばかりのバベルの塔を建てようとした人々が神の怒りに触れ、バラバラの異なる言葉を与えられて世界に散っていった−−。この映画はその末裔たちの物語で、モロッコとアメリカ、メキシコ、日本という四つの場所で展開する。モロッコ編にはアラブ系もベルベル人も登場し、フランス語も使われる。アメリカとメキシコでは英語、スペイン語。四つ以上の言語が飛び交う“混乱”ぶりだ。しかし旧約聖書の物語とは逆に、ここで意思疎通を欠くのは同じ言語を話す人間同士なのだ。

 モロッコ旅行のアメリカ人夫婦(ブラッド・ピットとケイト・ブランシェット)を乗せて砂漠を走るバスが突然、銃撃を受け、窓際に座っていた妻が被弾。出血多量だが周辺に医者がいない。この少し後、夫婦の留守宅で二人の幼い息子と娘の面倒をみているメキシコ人ベビーシッター(アドリアナ・バラーザ)は、息子の結婚式に出席しようとしている。代わりのベビーシッターがみつからないまま、やむえず二人を連れて、甥(ガエル・ガルシア・ベルナル)の運転する車でメキシコへ向かう。場面が東京に切り替わり、東京に住む聾者の女子高生(菊地凛子)はマンションに二人の刑事の訪問を受けていた。モロッコで銃撃に使われたライフルは、父(役所広司)が現地ガイドに譲り渡したものだという。

 時間が少しずつずれながら、話がリンクしていく。人ともの、言葉、情報は世界を行き来するが、気持ちが行き違うのはアメリカ人夫婦の間のことであり、メキシコ人ベビーシッターと周囲のアメリカ社会であり、日本人の父娘である。同じ言葉こそが障害のもとのようにみえるのだ。

 モロッコは大半が砂漠であり、アメリカとメキシコの間も砂漠だ。しかし、砂漠=荒野に散った人々が必ずしも不幸だというわけではない、と映画は見ている。作中、唯一の都会である東京の、それも超高層マンションの最上階に父娘は暮らしているのだが、その、いわば現代のバベルの塔でこそ、人は言葉を同じくしながら意思が通じないという、まるで神の呪いをかけられたかのような存在として描かれる。なんとも皮肉なまなざしの映画だ。監督はアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。

 −−4月28日、公開

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 原作は藤田宜永の同名小説(元は「キッドナップ」だったが、映画に合わせ改題=写真)。小説の原題が示す通り、これは元々ネタバレなのだが、これは主人公の男女が幼児誘拐によって知り合ってから18年後の物語で、再会した男女の限りなく母子相姦に近い関係を描く。ファンタジーのオブラートに包む、その手際がなかなかいい。

 東京の、かなり裕福に見える家庭で暮らす高校3年生の真人(柄本佑)がある日突然、母親を床に突き転がし、母親が一番大事にしていた熱帯魚の水槽を金属バットでたたき割って、バイクにまたがり家出する。列島を南へ走り、フェリーに乗って着いた先は沖縄だ。

 と、ここまでの出来事がいちいち性的な隠喩に、いや、時に直接的な行為で満ちていて、真人は床に倒した母親の乳房をわしづかみにする。金属バットとバイクは勃起した男根を、露骨なまでに示している。割られた水槽は母親の性的な表現だろう。

 さて沖縄に降り立った真人は、生後3日の自分を産院から誘拐し、逮捕されるまで45日間、育児をしていた愛子(松雪泰子)が営む海辺の食堂を訪れ、正体を隠したまま住み込みのアルバイトとして一緒に生活を始める。

 若松節朗監督は東京と沖縄の、光の固さと柔らかさ、時間の流れの早さと緩やかさ、コンクリートの乾燥と海辺の湿り気といった対比をくどいまでに重ね、母子関係をリアルからファンタジーへと転換してみせる。東京がリアルならば、どうしても沖縄はファンタジーと受け止めざるをえないよう、観客を誘導するのだ。

 したがって柄本と松雪がうらぶれた食堂の奥の畳の部屋で添い寝し、さらには抱き合うことがあっても、それは男女の関係にならない。男が女を「心の母」に擬している、という観客は了解済みの背景があるのだが、やはりそれはファンタジーだからだ。

 これがファンタジーである以上、真人の正体がばれた時、物語は終わりを告げ、真人は元いた場所、東京に帰らざるをえない。帰ってみたら本当の母親が死んでいた、というオチは「浅茅が宿」など日本や、その元となった中国のファンタジーの締めくくり方を連想させる。

 さらに数年後、真人は思い立って沖縄に愛子を訪ねるのだが、お決まりの通り、食堂は廃屋となっている。沖縄の青い海にあおむけに浮かぶ愛子のショットが入るが、これは真人の幻想だろう。愛子の服は数年前、真人と別れた時と同じものだから。海は記憶のゆりかごであり、直截な比喩としては子宮ということになる。

 −−東京は公開終了。大阪など巡回中

YEBI大王

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 劇団「新宿梁山泊」(http://www5a.biglobe.ne.jp/~s-ryo/index.html)が取り上げた「YEBI大王」は韓国の作家、洪元基(ホン・ウォンギ)の作品で、4年前にソウル芸術祭で戯曲賞と作品賞を受けたという。今回の公演は韓国に引き続き東京、大阪をまわってきた。うたい文句に「アジア版リア王ともいうべき叙事詩」とあるが、いい意味でも悪い意味でも、これは現代劇だと思った。 

 古代アジアのある国で、王、エビは世継ぎの男子に恵まれず、娘ばかり7人も産まれたことに腹を立て、最後に産まれた7番目の王女を川に捨ててしまう。そこへ3人の死神が現れ、「おまえの寿命は尽きた」と告げるのだが、王は「息子が産まれるまで死ねない」と巧みな弁術で死神たちを丸め込む。

 子作りに専念し、国政を娘たちに預けるのだが、権力争いの果てに国は分断、民は戦と疫病で死んでいく。一方、捨てられた王女は船頭に救われ、自らの素性を知らずに成長。運命のいたずらで父親であるエビ王と再会する。

 娘たちに裏切られてさまようエビ王の姿は確かに「リア王」だ。そして分断国家、朝鮮の現実も映している。

 一番気になったのがリズムだ。神話的な物語であるなら、神話のリズムで、と思うのだが、ここにあるのは国家分断の戦争、あるいは権力簒奪の革命物語にふさわしい、きわめて現代的な時間の流れなのだ。

 これを是とするか非とするかで、この公演の評価は大きく変わってくる。

 −−9月30日、大阪・ウルトラマーケット

映画「武士の一分」

 「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」に続く山田洋次監督の藤沢周平時代劇第3弾(http://www.ichibun.jp/)。3作とも主人公は下級武士で、封建的身分制という運命に抗いながら生きる様を描く。しかし今回、3作続けるのはなかなか大変だと感じた。かつて黒澤明が「用心棒」に続いて「椿三十郎」を撮ったことがあるが、それ以上続けなかった。

 山田3部作はだんだんまずくなっているように見える。今作は木村拓哉が三十石取りの毒見役を演じ、役目から盲目となってしまう。これが物語を飛躍させるバネなのだが、物語を面白くする方向に働かず、かえって障害になっているようだ。

 まず殺陣が貧弱だ。「たそがれ清兵衛」の真田広之と比較するのは酷だが、すごみがない。いや、なにも座頭市級のスーパーマンをやれとは言わないが、やはりこのような娯楽時代劇では、ヒーローは一瞬でも現実離れした強さを見せてほしい。そのために前2作には「秘剣」が用意されていたではないか。ここでも原作のタイトル(「盲目剣谺返し」)通り、思いもよらない剣さばきが見られると期待したのだが、肩透かしを食った。ラストの決闘シーンも緊張の持続がない。問題は俳優にあるのか、それとも今回、時代劇に熟練したスタッフを抱える京都を離れて東京の撮影所を使ったことに原因があるのか。おそらくは、その両方なのだろう。

 それと敵役の坂東三津五郎が、歌舞伎の舞台ではもっと憎憎しいのに、ここではあまり悪役らしくない。下僚の妻にほれて悪さをする、今でもその辺にいそうな女好きの中年男といった風情だ。これは小市民劇ではないはず。悪は度外れであってほしい。そしてヒーローが虐げられてこそ、カタルシスが大きくなるのではないか。

 やはりこれは黒澤流の時代アクションよりも、松竹伝統の小市民劇に近い、という印象を持った。3作も作ってきて、山田洋次らしさが出てきたということか。

 −−12月1日、松竹系で公開

マドンナ

 13年ぶりになるマドンナの来日公演は、切れのいいダンスが心地よく、この人の肉体はどんな風に年齢を重ねているのか、と、もっと近寄って確かめたくなるほどだった。モスクワ公演で物議をかもしたという十字架に架けられるシーンもあった。SMプレイを思わす演出や、男性のダンサーたちによる映画「ヤマカシ」ばりのパフォーマンスも。4つのパートから成り、別のパートでは、諸宗教の共存と対話を訴える映像が流れ、ああそうか、マドンナの求めてきたものが今、こういう形で結実しているのだと考えたのだった。

 「愛」、それも性的な結合こそが諸「世界」をつなぐと言うと、陳腐化もしれないが、まあ、そういうことなのだろう。舞台脇に掲げられたマドンナの大股開きのポスターを見ながら、この災厄に満ちた世界がこの股の間から生まれたのか、あるいはこの股の間に吸い込まれていくのか、たぶんその両方なんだろうなと思ったのだった。

 −−9月17日、京セラドーム大阪

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