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真壁昭夫(信州大学教授)【第86回】 2009年07月21日


7月初旬、6月の米国雇用統計(非農業部門の雇用者数増減)が発表されて以降、一時盛り上がっていた
景気の回復期待はやや後退している。

その背景には、6月の米国の非農業部門雇用者数が前月対比マイナス46万7000人となり、
5ヵ月ぶりに雇用者数が大幅マイナスとなったことがある。
「米国の雇用状況の悪化に歯止めがかからず、米国経済の回復が遅れる」との懸念が出ているのだ。

「今年1〜3月期の最悪期に続く景気の“二番底”が訪れるのではないか」と懸念する専門家も、少なくない。

足元の世界経済を概括すると、米国や欧州の経済は依然として下落傾向から抜け出せず、
経済に元気があるのは、中国を中心とした一部の新興国だけという状況になっている。

その中国も、一国だけで世界経済を牽引するほどの実力はない。世界経済が本格的に回復するためには、
どうしても世界のGDPの約25%を占める米国経済が立ち直ることが必要なのだ。

米国経済の構造は、基本的に国内消費の主導型である。
GDPの約7割を占める個人消費が盛り上がれば、景気の先行きには明るさが見えて来る。
米国の家計部門の消費ムードが盛り上るためには、
雇用・所得環境の改善が不可欠になることは言うまでもない。
雇用や所得に不安が残っていると、家計部門の消費意欲が盛り上がりにくいからだ。

今後、米国の労働市場の悪化に歯止めがかからず、失業率が一段と上昇すれば、
家計部門の所得が増えるはずもない。住宅ローンの返済に終われる米国の家計部門にとって、
雇用・所得環境の悪化は決定的なマイナス要素となる。

つまり、米国の雇用状況が改善しないと、景気の本格的な回復を見込むことは難しいのだ。
突き詰めて考えると、「世界経済の行方は、米国の労働市場の動向にかかっている」といっても
過言ではない。当分、毎月初に発表される米国の雇用統計から目が離せない状況が続くだろう。


世界経済の先行きを占う米国経済が抱える「3つのリスク」


では、その労働市場が改善に向かうための要素は何か? 

米国の労働市場が改善するためには、基本的には景気に明確な明るさが見えて来ることが必要だ。
しかし、その米国経済の先行きには、景気回復を阻害する3つの大きなリスクが潜んでいる。

そのリスクを潜り抜け、米国経済が本格的な回復過程に戻ることは、容易なことではないだろう。

リスクの1つは、「信用収縮の再発」だ。足元で、大手金融会社であるCITの破綻が懸念されてい。
同社は100年を超える歴史を持ち、全米に90万社以上の取引先を抱える大手金融会社だ。

CITの破綻が現実のものになると、米国のクレジット市場に対する影響は小さくない。
金融専門家の中には、「信用収縮の再発」を懸念する声もある。

また2つ目のリスクは、米国の「財政状況の急速な悪化」だ。
現在、オバマ政権はバブルの後始末として、民間企業の債務の肩代わりを進めている。

それは、破綻懸念の大きな民間企業を救済するためには必須の対応なのだが、
その結果、米国の財政赤字は史上初となる1兆ドルを超える水準まで悪化している。

今のところ、増発分の国債は取りあえず順調に消化されているものの、今後さらに財政状況が悪化すると、
国債消化に問題が発生する可能性は否定できない。それが現実のものになると、
金利が上昇し、企業業績の悪化などのパスを通して、景気の足を引っ張ることも懸念される。

そして3つ目は、「株式市場の動向が不安定化すること」だ。
最近の米国株式市場の動向を見ると、振れ幅の大きい不安定な展開になっている。

今後、株価の動きが不安定さを増すようだと、
“負の資産効果”を通して、家計部門にマイナスの影響を与えることになる。

短期的には、雇用・所得環境の目立った改善を見込めない状況下、保有する株式の価格が下落すると、
心理的にマイナスの影響が及ぶことは避けられない。家計部門の消費マインドを冷え込ませることも
考えられる。それは、米国経済の本格的な回復を遅らせることが懸念される。


米国経済に代わり期待を集める中国経済にも「思わぬリスク」が?


これらの理由から景気回復に不安が残る米国にの替わりに、世界経済の牽引役になる可能性があるのは、
最も元気がある中国経済だ。米国経済の急落によって輸出は落ち込んでいるものの、
中国政府による4兆元もの大規模な経済対策の効果もあり、減速したとは言いながら、
今年4−6月期のGDPは7.9%の経済成長を達成している。

わが国も、中国向け輸出の持ち直しという恩恵を受けて、景気の底打ち感が出ている。

しかし、現在の中国の経済力を冷静に考えると、世界全体を引っ張るだけの実力はない。

もちろん、政府の大規模な景気対策や、国内のインフラ投資によって景気が少しずつ回復し、
わが国をはじめ近隣諸国の経済に一定の活力を与えることは確かだ。

ただ、その影響力の“マグニチュード”は限られており、世界経済を押し上げるだけのエネルギーはない。

むしろ、輸出依存度の高い中国経済の構造を考えると、今後も米国向け輸出の減少傾向が続くことは、
大きなマイナス要因なるはずだ。景気対策の効果が効いている間はよいが、それが薄れて来ると、
中国経済にも息切れ感が出ることも考えられる。


米国への「一国依存体制」から抜け出せない世界経済の脆弱さ


つまり、結局は米国経済が本格的に回復しない限り、中国経済の自律的な景気回復を望むことは
難しいのである。中国も、突き詰めると「米国に依存する体質」と言わざるを得ない。

中国について特に心配なポイントは、沿岸部の輸出産業分野が打撃から立ち直っていないことだ。
それは、最近の中国国内の電気使用量の動きを見るとよくわかる。

ここ数ヵ月、中国の電気消費量は減少傾向を辿っている。電力消費量が減少しているということは、
大きな工場が動いていないことが考えられるわけだ。これまでの“稼ぎ頭”であった、
沿岸部の輸出基地の工場が開店休業状態なのである。

もう1つ心配なことは、金融緩和によって、株式や不動産などにバブル現象がみられることだ。
金融当局はバブル発生に懸念を抱き始めており、今後、超緩和気味の金融政策が軌道修正される
可能性が取り沙汰されている。

それがすぐに現実のものになるとは考えにくいものの、株式市場などに与える悪影響は否定できない。
難しい局面にありながらも一見堅調に見える中国経済に、実はもっと深刻な“アキレス腱”が存在する
ことは確かだ。


1つでもハードルを倒すと景気の“二番底”がやって来る?


こうして考えると、今後世界経済、特に、景気先行きのカギを握る米国経済には、
いくつものハードルが存在することがわかる。

それを完全にクリアすることは、口で言うほど容易なことではない。
これらのハードルの1つでも飛び損ねると、景気の先行きに暗雲が立ち込める可能性が高い。

しかも、1つでもハードルを倒すと、いくつかのハードルがドミノ倒しのように縺れ合いながら
倒れ出し、景気の回復を阻害することが想定される。

タイミングが悪いときに、悪いことは重なるものだ。
それは、1990年代後半以降のわが国のケースを見ても明らかである。

大規模なバブルの後始末は、そう簡単に実現できるものではない。1つ間違えると、
奈落の底に落ち込むこともあり得る。それは、29年以降の大恐慌を振り返るまでもないだろう。

信用収縮1つをとっても、米国では、現在でも中小金融機関の破綻が続いている。
それに加えて、大手金融機関であるCITが、政府の一層の支援を受けられずに経営破綻に追い込まれると、
中小企業の連鎖倒産などを招いてさらなるマイナスの影響が及ぶことは避けられない。
それは、かなり大きな景気回復の阻害要因になるはずだ。

また、米国の経済専門家たちが、経済の先行きについてかなり楽観的なのは、気になるところだ。
多くの人たちが、本当の意味で、まだ“バブル期の酔い”から醒めていないのかもしれない。

さらに、最近オバマ大統領の支持率が下落し始めたことも心配だ。積極的な経済対策にもかかわらず、
雇用・所得環境に目立った改善が見られないことに、多くの国民がイラ立っているのだろう。

政権に対する支持率が下がると、どうしても思い切った政策を打つことができなくなる。
結果的に、オバマ政権の政策余地を狭め、政権の政策運営の自由度を制約することになる。

それは、米国経済にとって大きなマイナスになる。
世界経済の命運を握る米国の政権が、八方塞がりの状況に追い込まれることが懸念されるからだ。

「今後の米国経済の先行きには、まだ色々なトラブルが発生する」と思っておいたほうがよいだろう。
専門家が懸念するように、場合によっては“二番底”が訪れないとも限らないのだ。


http://news.goo.ne.jp/article/diamond/business/2009072106-diamond.html

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