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 先日、母親が入院している介護施設へ見舞いに行って来たのですが、いつもと違って完璧に眠り込んでいるのです。
 ちょっとやそっと身体を揺り動かしたくらいでは目を覚ましません。
 いつもですと、廊下から病室へ入ろうとすると、母親もこちらのドアの方を見ていて、直ぐに私と目が合って嬉しそうな顔をするのですが・・・
 これはもしかするとベッドの中から常にドアの方を見ていて、誰かが来るのを今か今かと待っているのかもしれません。寂しがっていたのかもしれません。

 この日は身体を何度揺すっても起きないので、心配になって看護士さんに一度起こしてもらったのですが、また直ぐに眠ってしまいます。顔に精気も感じられません。
 95歳ということで、歳も歳ですし・・・
 今回ばかりは「もうダメなのかな」「諦めなければならないのかな」と、徐々に気分が暗くなってきました。

 もう一度看護士さんを呼んで、その気持ちを伝えましたが、その女性は初めて見かける無愛想な看護士さんで「そんなに心配する必要はない」「特別なことではない」「大したことはない」と言わんばかりに無理やり母親を起こしはじめました。
 いつもは穏やかな母親も流石にこの時ばかりは苦痛の表情になり、ちょっと可哀想な気もしましたが、「昼間は起こして、夜は眠る」という習慣にしなければならないので仕方がありません。

 私が母親の身体を揺すって話しかけると、寝ぼけているのか目をつぶったままで「先生、私はとっても幸せです」と言うのです。これは初めて聞く言葉です。

 母親は徐々に耳も悪くなり、多少「ボケ」も出てきましたから、会話はスムーズにいきません。そこで今回はホワイトボードに太い文字で伝えたいことを書くことにしたのですが・・・
 私がホワイトボードに「幸せにしてあげられなくてゴメンね」と書くと、「もう、これで十分よ」と、いつも通りの返事が返ってくるのです。

 母親は山の手のお嬢さん育ちで、経済的にも豊かな暮らしをしていたようで、子供の頃は健康優良児に選ばれ、成長して初めてお見合いをした時には、その相手は将校だったそうです。
 その時に母親の調査をした興信所の人からは「貴女のように何処に行っても評判の良い女性は初めてです」と言われて褒められたそうです。
 母親の父親は公務員、弟は帝国大学を主席で卒業して三菱に就職したという秀才。その下の弟も中学校の教師で教頭まで成り、校長になるという時に学校を止めて、自宅で塾を開いたという優秀な人たちです。

 しかし、母親の居るこの病室のご老人たちは、看護士さんたちから見れば皆「やっかいなお婆さんたち」に過ぎません。
 母親は結婚してから苦労をしたせいか、歳を取っても非常に穏やかなお婆さんですが、ベテランの看護士さんから見れば「最初はおとなしい老人も、何れは五月蝿く騒ぐようになる」と思われていて、実際そういう意味の事を言われるのです。皆「やっかい者のお婆さんたち」にしか見えないのです。

 看護士さんたちの中にも色々な方がいるとは思いますが、老人に対しての扱いを見ていると「老人を赤ん坊のように扱う」というような印象を持つことがよくあります。
 どんなに腹が立つことがあっても、相手を「赤ん坊と思えば腹も立たない」というのがあるのかもしれません。
 ただ家族にとって、それは違和感を感じることでもあるのです。

 介護のお仕事は「力仕事」でもあり、大変なことは分かりますから、仕方の無いことだとは思いますが、ご老人によっては社会的に立派な方たちもおられる訳ですから、先生でも社長でも大臣でも、それが「十把一絡げ」に扱われるというのはどんな気持ちがするのでしょう。
 ですから、そういうこともあって、またこれは自分自身の無力感と反省でもありますが、「幸せにしてあげられなくてゴメンね」という言葉が自然と出てしまうのです。



 さて、今回の母親の様子でいつもと違っていたのは、母親の方から「食べに行こう」「お寿司を食べよう」「何でもイイの、おむすびでもイイから食べよう」などと、「食べたい」という言葉を繰 り返し言っていたことです。
 食べ物に関する話は可哀想なので、いつもはその話題は避けているのですが、母親の方から言われてしまえば答えてあげるしかありません。
 
 実は母親は胃瘻(胃ろう)なのです。ベッドの上で寝ているだけで、食べることも歩くことも出来ません。
 口から食事の摂れない人や、食べてもむせ込んで肺炎などを起こしやすい人の為に、直接胃に栄養を入れるという方法を取っているのです。
 ですから、口から食事を摂らなくても腹が減ったという感覚はありませんし、味覚を味わうことも全く出来ません。

 以前、看護士さんに頼んで「例えば飴のような物を舌でペロペロ舐めたりして、味覚だけでも楽しませてあげることは出来ないだろうか」と頼んでみましたが、答えは結局「No!」ということでした。



 私も一度だけ、たった一週間程度ではありますが、点滴だけで(腕に打った注射針から)栄養や鉄分などを摂っていたことがあります。
 その時に不思議に思ったことは「腹が減らない」、「空腹感が全く無い」ということでした。考えてみれば至極当然の事ではあるのですが、初めは非常に不思議な気がしたものです。
 そして一週間ほど経った時に、医者から「水分は麦茶くらいならば飲んでも良い」「飴は一日3粒まで舐めても良い」と言われました。
 私は「飴よりもキャラメルが欲しい」と言って許可を得ることが出来ましたが、それは飴を舐めるよりもキャラメルを噛みたかったからです。

 それで病院の売店で麦茶とキャラメルを買ったのですが・・・
 この時に感じたことは、「麦茶とキャラメルって、こんなに美味しいものだったのか!」という発見でした。
 たった一週間程度ではあっても、「味覚」と「噛む・飲む」ということが無くなると、非常にストレスを感じるものだということが分かりました。
 ですから「キャラメルは3粒まで」という規則はあっても、食べ出すともう止まらなくなるのです。一日に10粒以上は食べてしまいました。

 話を元へ戻しますが・・・

 母親は胃ろうを条件に入院しましたが、もう一年近くは経ちますから可哀想で仕方がないのです。
 五感の内の「味覚」と「聴覚」がダメなわけですから、残りの「視覚」と「臭覚」と「触覚」を楽しませてあげたいと思って、見舞いの時には毎回必ず綺麗な花束を持って行き、手を握ったり擦ったりするのです。
 それから過去の懐かしい写真や、ネットで拾った動物の可愛い画像や短い動画などを見せると喜びます。

 とは言っても、段々とネタも尽きてしまいますから、今回は私が作曲をしたテレビCMを見せたのですが、母親は「わー、綺麗!」と声を上げて喜んでくれるのです。
 それから私が若い頃に書いた油絵の「19歳の自画像」の写真を見せると、「わー、これ欲しい、これ頂戴!」と言うのです。

 以前にも同じ事を言われて非常に不思議に思ったのですが、母親にどんな写真を見せても「欲しい」とは言わないのです。なぜこの絵だけを欲しがるのかが全く分かりません。
 下手な絵で恥ずかしいのですが、母には「何か」を感じるようです。「何か」を気に入っているようです。

 この絵を描いた頃の私は、子供の頃から好きだった絵画を諦めて、その代わりに音楽家になりたいという夢を持ち始めた頃です。
 この油絵はコンクールで「入選」だったのですが、「入賞」ではなかったので「これではダメだ」とガッカリして諦めたのです。
 色々なことが降りかかった時期で苦しさはありましたが、音楽に対してだけは「やるぞ!」という気持ちが現れていたのかもしれません。
 真っ暗なトンネルの中に入り込んで、どちらの方向へ行って良いのか全く分からない時に、遠くの方から小さな一筋の光が差し込んで来たような・・・そんな時期だったのかも知れません。

 しかし、母親がこの絵に対し「何」を感じ「何」を気に入り、「何」を欲しているのか・・・
 その母親の心を私は理解することが出来ないのです。



 ここまで書いた後で、ちょっとした閃きと発見がありましたので、追加して置きます。

 この「19歳の自画像」を見ている内に、当時の "19歳の私自身" に対して「今の私の気持ちを伝えて置きたい」・・・という強い衝動を感じてきました。
 こんな気持ちになったことは初めてです。

 19歳の君へ・・・

 あの頃の君は幾つかの大きな問題を抱えて、 "人生の岐路" に立っていたと思います。
 君は人生の苦しみを感じながらも、よく頑張って、たった一つの "微かな夢" を追い続けてくれました。
 君のお陰で今の私は、こうして生き続けています。

 あの頃、もし君が苦しみの末に人生を投げ出していたら、今の私はこの世には生きていません。
 よく夢を追い続けてくれました。
 ありがとう!

 今まで、君の気持ちを分かってあげられなくて、申し訳なく思います。
 ごめんなさい。

 19歳の君のエネルギーは、今でも私の身体の中に残っています。
 今の私も "人生の岐路" に立っているような気分です。

 でも、今の私のエネルギーと19歳の君のエネルギーを持ってすれば、現状を打破出来ると思います。
 何とか、この困難さを乗り越えて、更に先へ進みましょう。


 一週間ほど前から "身辺整理" のように大掃除をしていて、必要の無くなった物を粗大ゴミとして捨てたりしています。
 今後は見ることも無いであろうビデオテープやカセットテープも200本以上は捨てたでしょうか。
 若い頃に着ていた服も沢山処分して、衣装ケースが3つも空になりました。
 次は幾つものダンボールに入っている沢山の本も処分するつもりです。



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