愛知限定 歴史レポ

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「必死のシャッター」
昭和二十年(1945)五月十四日の朝爆音が頭上に聞こえて、
ヒュッヒュッとあの妙な音がする。いよいよ落とし始めた
音だ。今日はどの方向か様子をとうかがうと北の方向!
どうも焼夷爆弾攻撃らしい。ふと北の方向を見ると、
黒煙が空をおおいつつある。太陽も黒煙にかくれて、
あたり一面は夜のように暗くなってしまった。指令部の
建物の付近にもどんどん落下し始めた。あちらこちらと
火を吹き上げている。地上は一瞬にして火の地獄に変わった
名古屋市の北部一帯は猛火と黒煙に覆われて、その中心から
異様な音が聞こえてくる。名古屋城郭内建造物の焼け落ちる
音。空はますます黒くなり、夜かと思える程である。
作戦室勤務の岩田一郎氏は、「城はどうなったか」と、
作戦室の屋上に駈けあがり、カメラの三脚を思わず立てて
しまった。どこからともなく飛来するのは、火の粉やトタン
板、板切れ等、危険はこの上もない状況となった。岩田氏は
城に向かって、シャッターを押し続けた。
当時は今のように望遠レンズの良質のものはなく、ライカ
カメラに105mmの望遠レンズ付けての撮影である。
数限りなく落下する焼夷弾は、天守閣の一角に急造せられた
鯱を降ろすための足場が造られてあって、この足場に引っか
かったまま火焔を吹きつづけている。一部には炎上をし始め
た所もある。北練兵場から打ち上げる高射砲の音が耳を貫く
も、その戦果は空を覆い拡がる黒煙でさっぱり不明である。
五層の天守閣はあちら、こちらから火炎を吹き上げるように
なり、岩田氏はただ呆然と屋上から城の炎上する姿にみとれ
ていた。黒々とした真っ黒な空に、真っ赤な炎が、何十
メートルと続いて、天に昇る姿は、かの戦国時代の落城の姿
そのもので、三百余年の歴史を秘めた日本の名城が、いま空
の魔物に吸い上げられるように、天高く炎が舞い上がってゆく
火炎は次第に天守閣を包み、巨大の真っ赤な火の玉のように
なった。その赤い火の玉の中から緑色の炎が、魔物のように
メラメラと立ち上がり、銅瓦の緑青の焼ける炎である。
空はまだ真っ黒な煙で一ぱいである。その中に天守閣の焼け
落ちる姿だけが、くっきりと浮かび上がっている。映画の
セットではない。これはほんもの城、ほんもの火炎である。
岩田氏は悲しさを忘れ、神々しいまでの美しい神秘の姿に
打たれ、ああこれで城の偉大な姿と歴史も終わるのかと
一瞬涙ぐんだ。
天下の名古屋城はご承知のとうり、巨大な名木で建造され
おり、街中の民家の建物ように、そう簡単には焼け落ちない
わけで、火炎の天守閣はメラメラと巨大な炎となって、黒い
空に向かって、吸い込まれてゆく。恐怖心は薄らぎ、炎上
する城の美しさにうっとりとした岩田氏は、石垣の上に立つ
巨大な建造物の火炎は彼の生涯を通じて、最初で最後のもの
となった。
この項 平成7年2月28日名古屋城叢書10「特別史蹟・
名古屋城いまむかし」より引用

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おはよう御座います。
関連記事から来ました。
凄い記録ですね。傑作

2012/2/5(日) 午前 8:29 あるく


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