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サン=サーンス「ヘンリー8世」
アラン・ギンガル指揮、ピエール・ジュルダン演出・監督 198m
フランス・リリック管弦楽団、ルーアン芸術劇場合唱団 収録:1991/9/21
ヘンリー8世 フィリップ・ルイヨン(Br)
キャサリン王妃 ミシェル・コマン(S)
アン・ブリン ルシル・ヴィニョン(Ms)
予備知識もなく見始めたのであるが、昨年映画で見た、確か「ブーリン家の姉妹」と重複するようなストーリーだ。映画の方も、特に見る気もなく見始めたのだけれど、主役のナタリー・ポートマンに見とれているうちに最後まで見てしまった。結果的にアン・ブーリンがエリザベス女王の母親になる。
先に王に捨てられるキャサリン王妃が、メアリー・スチュアートの母親である。このDVDの解説書にもイスパニア女王カタリナと書いてあるが、スペイン女王ではなくて正式にはキャサリン・アラゴン王妃であろう。
これはイングランドの皇太子をプリンス・オブ・ウェールズ(ウェールズ王子)と呼ぶのと似たようなものだろう。ヘンリー8世も、兄が王の時はプリンス・オブ・ウェールズだった。スペインもカスティーリャ王国がアラゴン王国を併合したようなものであるから、アラゴン王妃にも意味があるのだろう。
ヘンリー8世のお話は好まれているようで、オペラにもいくつかある。リロの《カテリーナ・ハワード》、ドニゼッティの《アンナ・ボレーナ》、《マリア・ステュアルダ》、《ロベルト・デヴリュー》、ロッシーニの《イングランドの女王エリザベッタ》。どれも見たことがない。
そういうわけで、ストーリーも面白かった。それよりも視覚的に、めずらしく落ち着いて見ていられる映像なので最後まで見た。(同時に借りてきたブーレーズとストラータスの「ルル」なんて、見始めてすぐ止めた)
第1幕の舞台装置は質素である。エジプトやギリシャのような強大列柱が左右に二本づつ立っている。背景はいちおう室内らしくなっているが、それだけ。柱の前には堅い椅子が付いていて、ときおりそれに座って会話する。
ハンス・ホルバインによる1540制作の「ヘンリー8世」、およびその前のジャン・クルーエによる1525〜30頃制作「フランソワ一世」を忠実に模写したような衣装だ。しかし似ていることをいえばホルバインの「大使たち」の左の男性の方に近い。ホルバインはヘンリー8世の宮廷画家であるから、これが間違いないところだろう。
極悪非道な王としてはホルバインの絵よりも、フィリップ・ルイヨンの方がずっとヘンリー8世に似ている。本人は知らないけど、こっちのほうが似ている。そんな気にさせてくれるピッタリな配役だ。歌手は、当然、歌えることが優先されるのだから、見た目が似ているなんてのは、ほとんどあり得ないぐらいめずらしいことだ。
このような専制君主の場合、本人が生きている限り王の交代はありえない。したがって、暴虐を見るに見かねた近親や親衛隊による暗殺によって、新しい王に取って代わられることになりがちだが、彼は生きながらえた。ルキウス・コルネリウス・スッラみたいで、それはそれで見事だ。
キャサリン王妃のミシェル・コマンもかつて美しかったであろう容姿と風格がピッタリで頼もしく見ていられる。彼女の歌がいちばん聴き応えがある。他を圧する美人に決まっているアン・ブーリンの方は、そういうわけにいかないことは言うまでもない。アイーダでも、アムネリスの方が美しいのに…、と思うことが多い。しかし、とにかく、指揮者もオケも歌手も全然知らないのに、曲も初めてなのに、とても良かった。
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