Scene8
火の国中央部の山岳地帯に端を発し、首都ガザのほとりを流れて大陸内海へとそそぐ河を、火の国の人々はガジェールと呼ぶ。
その流域は比較的運気の安定した地域であり、農工業が盛んな豊かな地域であった。
それゆえ、ことに首都ガザのあたりの河畔などは浮浪者や野盗の溜り場となっていて、首都の治安を担当する黄師を悩ませている。
この日、日もとっぷりと暮れたころ、ガジェール河畔に大きく広がる河原のあちこちで火が焚かれる中、見慣れぬ火がひとつ起こされた。
浮浪者にも縄張りという秩序がある。
であるから、当然そのあたり近辺を縄張りとする幾人かがその火の主に文句をつけに行くが、焚き火が発する頼りない光に浮かび上がる巨大な影に皆怯み、そのそばにある小さな影のケタケタという笑い声を背に浴びて、すごすごと引き下がるしかなかった。
「ったく、お前のおかげで、宿に入りそこねちまったじゃねえか」
そう小さい方に向かってボヤく大きい影は、もちろんガフ。
となると、そのガフが放つ非難の視線に向かい、だって、と口をとがらせて抵抗する小さい方は、当然シオである。
「……お腹がへってたんだもん」
「なら、なんで何も喰わなかったんだ?」
第三者が聞けば意味不明なガフの問いだが、問われたシオは首を傾げて考え込んでしまった。
「なんで? なんでかなあ……う〜ん、あのね、美味しそうなのもいたんだけどぉ、なんだかイヤな臭いが混じってるような気がして……口を付けられなかったの」
「嫌な臭いだと? ったく、ここはつくづく面倒な街だな」
またしても他人にはわからない感想をごちて、ガフは街で買い込んできた火酒のボトルをあおった。
その横でシオが、さすがにしおらしく、ひと塊のパンをちびりちびりとかじっている。
火の国で、界河に次ぐ大河であるガジェールの流れは悠久だ。
その流れによって運ばれ来て、また洗い流されるように火の国の夜は過ぎていった。
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