Scene9
火の国独自の治安維持機関である王師は、担当区域別に5色に別けられ、国土の四方中央に配置されている。
まず、東に青師。
西に白師。
南を赤師。
北を黒師が鎮守し、そして残る一色──黄師は、首都及び王の身辺警護を受け持つ。
黄師を指揮する長を黄師長と言う。
現黄師長はワズワルドという壮年の男。三〇年以上の経験を持つ、一兵卒からの叩き上げで、王の信頼も厚い指揮官だが、中肉中背の鍛えあげられた身体は、未だ現場で活躍できるであろう。
その黄師長ワズワルドが、部下からの報告を受けたのは翌朝であった。
朝一番に登城し、まずは王に目通って朝の口上を述べるという、先代の頃からの習慣を邪魔され、ワズワルドは不機嫌そうに短く蓄えた口髭をかき回した。
しかも異常に緊張した部下──昨夜の分隊長の報告が要領を得ないものだから、ワズワルドの我慢はすぐに忍耐の限界を越え、王の間への廊下だというのに声をあげて部下を叱りつけた。
分隊長にしてみれば、本来ならば自分の報告がボトムアップで順次上に伝わって黄師長に届くところを、報告を嫌がった上官たちにたらいまわしにされ続けたあげく、とうとうこんなところまで来てしまったのだから、たまったものではないが、そんな事情などつゆ知らぬ彼の元締めは、微塵も容赦などしてはくれなかった。
「ええい、落ち着けっ。暗殺がどうの、巨蛇がどうのと意味不明瞭な。何年黄師をやっておるか!」
ワズワルドの叱責に、分隊長は姿勢を正して背をぴんと張り、張りすぎてあおのけにひっくり返りそうになるほどだった。
その姿勢のまま、睨めつけてくる上官の視線に耐えて冷や汗を流しつつ、二度の深呼吸。
ようやく落ち着いて、昨夜の出来事を順に話すことに成功する。
それはさして長い話ではなかったが、その短い時間にワズワルドの顔色はみるみる変わり、最後には隠そうにも全てを隠しきるのは困難なほどに動揺していたのだった。
その様子を見て、分隊長はそらみろと心の中で嘘ぶいたが、もちろん声にできるはずもなかった。
「いかが致した、ワズワルド黄師長殿?」
背後からの声に、分隊長は直立のまま、無言で嘆いた。──これ以上、話をややこしくするのは止めてくれ!
分隊長の背後に立ち、ワズワルドの厳しい視線をそよ風の如く流す人物こそ、北右将軍アレクサンデル・ゾルカエフ。王家の遠戚という家柄に生まれ、若くして将軍となった、平民から叩き上げたワズワルドの天敵であった。
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