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フランスは思うに、自由平等の気ちがい病院というべきで …… これがフランスの短所であり、長所であり、困難であり、幸福である。

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Sempé
 
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Le Balcon
10/11/1990 - 06min47s


サンペ
だいたい僕は絵を描いてるとこを見られるのが好きじゃないんだ。ハハハハハ(笑)
 
女性客
見てました(笑) あなたのデッサン、見てました(笑)
 
サンペ
いやいや、ハハハハハ(笑)
〔聞き取れず〕
 
店内アナウンス
お客さま、会員の皆さまにご案内申し上げます。本日、イラストレーターのサンペ氏がご来店。2階書籍売場にてサイン会を開催中です。ご案内まで。
 
サンペ
(サインを書き終えて)どうぞ。
 
インタビュアー
ジャン=ジャック・サンペさん。お伺いしたいことが。
 
サンペ
はい、何でしょう。
 
インタビュアー
『罰を受けない色々な悪い習慣』[1]。罰を受けるような悪い習慣ってあるんでしょうか?
「罰を受けない悪い習慣」と「罰を受ける悪い習慣」、そのちがいって何でしょう?
 
サンペ
その質問の答えには僕にはまだ人生の半分は必要だなあ、アハハハハ(笑)
なんて答えていいのか分かんないなあ(笑)
 
インタビュアー
これはまずその、あとでご覧になってください。サイン用ではなく、貴方にです。ぜひお持ち帰りいただけたらと思います。
 
サンペ
ああ、これはどうもご親切に! アハハハハ(笑) ありがとう(笑)
 

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サンペ
僕の描く人物は、いつもちょっぴり孤独だ。中心からちょっとずれてるしね。これは…… これが僕のものの見方であって、僕のすべてとも言える。
 
インタビュアー
『ニコラ』[2]は、『ランベール氏』[3]の子供時代を描いたものじゃないですか?
 
サンペ
いいや。そうは思わないな。ちがうな。
 
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インタビュアー
貴方はあるシチュエーションを見つけると、それを絵にして再現して、その次は何を?
 
サンペ
(質問の途中からすでに首を振りながら)ないね。ない、ない、一度もない。一度もそんなことはないね。
 
インタビュアー
ではこの、ありのままの生き生きとした感じをつかんでいるといった印象を受けるのはなぜでしょう……
 
サンペ
そ奴の名は「仕事」さ。アハハ(笑) そう、これが僕の仕事だよ!
 
ハハ、僕がしたんじゃないけど、「存在」については最良の定義がされてるんだ。パスカルさ。
「人間は慰めようのない者であり、かつまた陽気な者である」。
 
これまた僕が見つけたわけじゃないけどね、フフフ(笑)
 
 

イメージ 7ブレーズ・パスカル
Blaise Pascal(1623‐1662)
フランスの数学者、物理学者、哲学者。早熟の天才として「円錐曲線試論」(1640)を発表し、「パスカルの法則」(54)を発見。1654年に決定的な回心を経験し、ジャンセニスムに帰依、厳しい禁欲生活を送った。
キリスト教を弁護し、無神論者を信仰の道に引き入れるため、パスカルが死ぬまで書きためていった原稿が、もっともすぐれた人間研究の書物とも評される『パンセ』(初版1670)である。
 
 
サンペ
ギャグ作りは止めれないだろうし、こんな感じの、こんな絵を描くことも止めれそうにない。ギャグ作りと絵は、同時進行じゃないんだ。ギャグのつまった絵を描くっていうのは、すべてがアイデアに貢献していなくっちゃならない。そりゃときどき、絵がまずいなあってことはあるよ。よし、次はうまく描いてやろうって思う。だけど、それじゃあ絵がアイデアに貢献しているとは言えないんだ。
 
いずれにしても僕には、みんなが理解するだろうなってことをわざわざ考える必要はないわけだ。まあ、それが自由って奴だろ。だけど、みんなが理解しているようなことは描けないっていう不自由でもあって、みんなが理解できるような絵にしなければならないっていう責任もある。その繰り返しさ。
 
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インタビュアー
お仕事の方は?
 
サンペ
ほとんどずっと。ほとんどずっとだね。
朝の6時に起きて、仕事を昼の2時までやってとか、規則正しい生活にずっと憧れたけどね。1日とか2日ぐらいやってみるんだけど、すぐそのあと変わってしまう。
 
インタビュアー
大きな風景や、大群衆のなかにぽつりとでもいるような、まったくもって善良な一市民というのでしょうか。誰もが大きな運命をもっているようでいて、それでいて、皮肉なところもあるような。
 
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サンペ
うん。だけど…… 君はエレガントに表現するんだね。そんな表現、僕だったら2年はかかっちまうな。僕には何とも答えれないよ。
完璧なフレーズじゃないか(笑)
 
インタビュアー
でも、貴方の絵を見ていると、そう感じたものですから……
 
サンペ
ハハハハハ(笑) まあ…… よく分かんないな。君の言う通りかな。ブラボー。ハハハ(笑)
 
インタビュアー
〔聞き取れず〕
 
サンペ
ハハハ(笑) だけど、付け足すことはないよ! よく言えてるよ!(笑)
 
僕は人をバカにし・な・い。人がバカにし合ってるのは嫌いさ。
 
生意気な言い方だけど、まあ、生意気でもいいじゃないか。僕は、エライ人たちの下僕になるために生まれたんじゃないんだ。奴らをバカにするってことは、結局は奴らの利益になってしまうんだ。そんなことのために僕は生れたんじゃない。僕はより日常の人々の方に興味がある。
 
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インタビュアー
ときに貴方を「モラリスト」と呼ぶ声が。20世紀のラ・ブリュイエールと言って。
 
サンペ
あっ! それ! するんだね、うん、君が僕に「モラリスト」っていう定義をするんなら、君は僕をバカにしてるってことになるかもしれない。その定義を考えると、よく分かんないんだよ。何だい? 君の言う「モラリスト」って?
 
インタビュアー
それは、ちょっぴり不安を抱えながらも、品格を絶えず持ちながら、瑣末な問題に立ち向かうために解決策を見つけようと努力する人です。それに、問題を完全に解決済みと、断言してしまわないところがあります。
 
サンペ
ああ、またしても君はさっき僕に言った感じで表現するんだね! 言ってるところは悪くないね!(笑)
ハハハ(笑) あ、そう。そうか。もし、そうなら、そうだ。もしそうなら、そうだよ(笑)
 
 

イメージ 8ジャン・ド・ラ・ブリュイエール
Jean de La Bruyère(1645‐1696)
フランス17世紀のモラリスト。主著『人さまざま(レ・カラクテール)』(1688‐96)は、さまざまな人物が絶えず出入りするコンデ大公の家令としてその晩年の大部分を過ごしたラ・ブリュイエールの人間観察の所産。
ラ・ブリュイエールは肖像(ポルトレ)という、「箴言」と同じくサロンで流行した、人間というものを外面からとらえ、簡潔明快に表現するところに特色のある文学形式に卓越した技術をもっていた。
 
 
インタビュアー
〔聞き取れず〕
 
サンペ
いやちがうんだ。僕はよく、「モラリスト」は「説教くさい奴」と勘違いされてるんじゃないかって思うからなんだ。
(サインを待つ人に向かって)これもフランシスとイザベルですか?
 
言っておきたいことがあるんだ。こんな感じで絵を描いてるときって、いろいろ考えてられないんだぜ。そうじゃなかったら、絵なんか描けないぜ。
楽しませようと頑張ったり、興味をもってもらおうと頑張ったり、よろこびを分かち合おうって頑張ったり。三つが両立しえたなら、それは成功さ。もし、そうじゃなければ、まあ、一つでも成功すれば、そいつはもう悪くはない、三つに二つの成功なら、そりゃもういい結果だ。
さっき「皮肉」って言ったけど、「皮肉」って言葉はちょっとちがうかな。う〜ん……
 
インタビュアー
〔聞き取れず。おそらく人間というものへの〕シンパシー?
 
サンペ
僕は自分には相当シンパシーはもってるかもしれないけどね。フフッ(笑)
 
いつもじゃないよ(笑)
 
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訳 注
 
[1] Quelques vices impunis サンペの画文集タイトル。1986年刊。

[2] Le Petit Nicolas 『プチ・ニコラ』
「アステリクス・シリーズ」の生みの親であるルネ・ゴシニ(1926〜77)が文を書き、サンペが挿絵をつけた、元気な小学生の男の子ニコラを主人公とする絵入り物語。はじめは漫画だったが(1954年)、『シュド・ウェスト』紙に絵入り物語として毎週連載されるようになると(1959年)、子供だけでなく大人まで夢中になって読める新しいタイプの児童文学としてすぐに読者の大きな反響を呼んだ。「ニコラ・シリーズ」の単行本は版を重ね、世界的なベストセラーとなったが、もしこの作品にサンペの挿絵がなかったならば、これほど愛されることはなかっただろう。

[3] Monsieur Lambert サンペの画文集タイトル。1965年刊。
 

ジャン=ジャック・サンペ Jean-Jacques Sempé 1932.08.17〜

1932年ボルドー生まれ。ワイン商社に勤めたあと、パリで兵役につき、余暇を利用して、マンガを新聞社に売りこむ。ゴシニと組んだ「プチ・ニコラ」シリーズが、出世作となる。作品に『とんだタビュラン』『恋人たち』『サン・トロペ』『ゾマーさんのこと』などがある。(偕成社・著者紹介より)

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