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税逃れ、許していいの? パナマ文書、世界で波紋
2016/4/15 中日新聞 http://chuplus.jp/paper/article/detail.php?comment_id=358123&comment_sub_id=0&category_id=116&from=news&category_list=116
9日、英首相の辞任を求めるロンドンのデモ=共同
タックスヘイブン(租税回避地)での金融取引を暴露した「パナマ文書」をきっかけにして、税の格差への怒りが世界中に広がっている。権力者や金持ちが税金逃れに励んでいるなら、まじめに納税するのがばからしくなるからだ。民主国家の根幹を揺るがす問題のはずだが、日本政府の動きは鈍い。大企業や富裕層の度を越した「節税」が目に余るのは日本も同じ。いつまで従順な納税者でいられるのか。
「脱税じゃないし。節税で悩む必要のない庶民には関係ないか」「税金対策として許せる」。パナマ文書に対するネットの反応だ。批判もあるが、何が問題なのかピンときていないという声も少なくない。
パナマ文書は、世界各地の有力者の租税回避の手助けをしたとされるパナマの法律事務所から流出した機密資料だ。南ドイツ新聞と60カ国以上の報道機関の記者が連携する「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)が内容を分析し、今月公開した。ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席、英国のキャメロン首相ら首脳の親族らの名前があり、世界中で反発が広がっている。
アイスランドでは、グンロイグソン首相が2008年の金融危機の前後に英領バージン諸島の会社を通じて巨額投資をしていたと判明し、辞任に追い込まれた。英国でもキャメロン首相の親族によるパナマでの投資が発覚し、首相官邸前で千人以上の市民が「税金を払え」とデモをした。
しかし、日本の政府の反応は鈍い。菅義偉官房長官は6日、政府として文書を調査することは「考えていない」と述べた。
なぜ、タックスヘイブンが許されないのか。横浜市大の上村雄彦教授(国際関係論)は「節税と考える人もいるようだが、まったく違う。節税は税率が低い国に活動拠点を移すなどの合法な手法」とした上で「租税回避は、活動拠点を形だけタックスヘイブンに移して実際は日本で活動するようなケース。本来は日本に納税しなければならない」と不当性を指摘する。
日銀の資料によると、日本の大企業や富裕層も盛んに利用しているとみられる。タックスヘイブンのケイマン諸島への日本からの直接・証券による投資残高は14年末で約65兆円に上っており、米国への194兆円に次いで多い。
上村教授は「庶民が税金を納めているおかげで、国民全員が医療、教育、福祉の最低限のサービスを享受できるし、社会も安定する。この土台の上で、初めて企業は利益を稼ぐことができる。それなのに企業や富裕層が納税から逃げるのは不公平」と批判する。
英国の市民団体「タックス・ジャスティス・ネットワーク」は12年、全世界でタックスヘイブンに蓄えられる資金の規模を3000兆円と見積もった。消費税1%分で2.7兆円の増収とされるが、上村教授は「適正に課税されれば、日本の税収は3兆円程度増えるのでは」と推測する。
海外では以前から、租税回避に対する監視の目は厳しい。12年、米コーヒーチェーン大手スターバックスが英国で少額しか法人税を支払っていなかったことが判明。市民のデモや座り込み抗議で、同社は14年に欧州本社をオランダから英国に移した。米アップルに対するアイルランドの法人税優遇措置も、欧州委員会は14年、違反との見解を示した。
日本でも行きすぎた「節税」が問題視されている。経営再建中だったシャープでは、結局実現しなかったものの、昨年5月に税制上の「中小企業」となるように約1200億円ある資本金を1億円以下に減額する計画が浮上した。中小企業は法人税率が軽減される上、決算が赤字か黒字かにかかわらず、事業規模に応じて税額が決まる外形標準課税が課されないからだ。吉本興業は昨秋、125億円の資本金を1億円に減資し「中小企業」になった。
富裕層を中心に広がる「タワーマンション節税」も、国税当局が監視を強めている。財産を現金で相続すれば全額が相続税の評価対象となるが、不動産で相続すると国の評価額で課税される。この評価は低層階と高層階も変わらないが、実際の売買では高層階ほど高くなる。相続税対策として住みもしないマンションを購入する資産家が続出。孫一人につき1500万円まで非課税で教育資金を生前贈与できる制度も話題だ。
中央大法科大学院の森信茂樹教授(税法)は「税金を少しでも安くしたいというのは人情だが、度が過ぎれば不公平感が高まる。ほっておけば、国民全体の納税モラルも落ちていく」と懸念する。
日本の所得税は国際的に見て「低い」とされているが「最も多い課税所得層の所得税率は日本では20%。米国の15%に比べ高い」と分析するエコノミストもいる。超高額所得世帯が国全体の個人所得税額を押し上げている米国より、庶民の負担感は大きい。
昨年2月に税制を研究する学者や弁護士らが設立した「民間税制調査会(民間税調)」の主要メンバーで、青山学院大学長の三木義一教授(税法)は、納税者意識の希薄さを憂う。「日本では不公正な社会を許さない国民の感覚が鈍い。本来、税は民主主義に基づいた社会を運営するためのもの。社会の担い手として税を払う責務を感じていない」と手厳しい。
税は富める者から社会的弱者に所得を再分配することが大原則だ。三木教授は「庶民が負担する消費税などの税収でつくられた社会でもうけている富裕層が税を払わない。これを許すと格差はますます広がってしまう」と訴える。
民間税調に加わる税理士の青木丈氏もパナマ文書に端を発するタックスヘイブンの“罪”は「政治家や大企業といった最も徴税逃れをしてはいけない立場で不当な手段を使って免れていたことにある」と強調する。「税金を払うことをばかばかしいと国民が思うようになれば社会は成り立たない。国境を超えて活動する人や企業が増えた時代に、税制をどうするかを全世界で考えるきっかけになるのではないか」と話す。
欧州では投機的なお金の流れを抑える効果を狙って、金融機関が株や債券を取引する際に税金をかける「金融取引税」の導入も模索されている。三木教授は「国境を利用して税負担を免れないよう、金融取引税のような課税する仕組みをつくり、絶っていく必要がある」と提言している。
(三沢典丈、木村留美)
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