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月前の菊

能楽堂二階和室にある床の間のお軸を、
師匠は毎月架けかえられます。

押入れの中に積んであるお軸たちは
飾るために買い集められたものではなく
ひとつひとつに由緒や思い出のある
お軸たちです。

先月の鮮やかな「萩に鳥」のお軸は
師匠のお母様の作品でした。
(103才現役のお母様‥)

今日架けかえられたお軸、
毎年目にしてはいるのに
じっくりとその内容を伺うのは
初めてのことでした。

天を群青の雲、地を金茶の山麓で描き
全体に美しい金霞をかけた地紙に、

澄んだ黒色の、繊細ながら豊かな筆跡で


「月前の菊」  光澤

か気う都す(かげうつす)

月のかつらの(つきのかつらの)

枝なして(えだなして)

手に登流ば可り(てにとるばかり)

見遊る 白菊(みゆる しらぎく)


漆黒の夜空に煌々と光る白い月、
その光をうけて輝く白菊が
目に浮かびます。

どんな白菊でしょうね。
和菓子のようなまあるいかわいい白菊が、
たわわに咲いているのかもしれない。

月の天女が頭にかざすような、
大輪の高貴な白菊かもしれない。

こんな美しい光景を
愛でる日常‥
失われつつある日本の季節感への
美意識を、今日は特別大切に感じました。


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