|
「あらっ!、オシャレ!」っと・・・・・、
女将がのれんを挙げて入って来た客に突然叫んだ。
カウンターの客は女将の顔を見たあと振り返り、一斉に入って来た客を見た。
ピンクのボタンダウンの上に薄いグリーンのジャケットをはおった中年と老年の間
ぐらいの男、うっすら白くなった顎鬚に黒縁の眼鏡をかけた伊達風の男が、片手を
あげて女将を見ながら入って来た。
女将の「あらっ!」と驚く声と言い、ダンディさといい、どう見ても一見さんには思え
ない、悔しいが、かっこいい男が入って来た。
小料理屋のカウンターには、私を含めて人畜無害の歳に見えながらも、なおも助
ベー根性が垣間見える男達6人ほどが陣取っていた。
男がカウンターのど真ん中に座ると、女将のお気入りのタイプだろうか、女将の声
のトーンが急に上がったような気がして、六人の先客は女将と男の顔をかわるが
わる見ては、ビールを呑んでいた。
私より先に来ていた客は、私が入って来た事で女将との会話が途絶えていい気分
ではなかっただろうが、男が入ってきた事で私と女将の会話も半減し気分は今い
ち、 「女将!勘定・・!」・・・・風呂上がりの爽快の一杯がグリーン男でパ―になっ
てしまった。
テレビを見ながら考えた。
オシャレを何故お洒落と書くんだろう、なぜ酒がつくんだろう、当て字でさしたる意
味もないだろう、あの男のように身なりを良く見せようとするお洒落もあるが、ああ 言うおしゃれは私の好むところではない。
気の効いた文句だとか、気の効いた仕草が本当のお洒落だろと、考えているうち お洒落の語源に思い付くことが無いまま眠くなってきた。
|
老坂転遊記
[ リスト | 詳細 ]
|
掃除機って便利なもんよ!
「昔しゃあ、掃除機なんちゅうもんがねえから、箒?あいつで掃いたもんよ」
「そうよね」
「白いエプロンをかけて、手ぬぐいを頭に、箒で掃除している女、たまんね〜な、俺の嫁も可愛かったもんなあ、いまじゃあ婆も、爺さん邪魔じゃまだって、掃除機をぶんぶん振りまわすもんな、色気もなにもあったもんじゃあねえよ」
「女性のエプロン姿って私もすきよ」
「なんでも便利になりゃあ、いいってもんじゃあねえんだ、掃除機でがたがたする女より、シャッシャッって畳を掃くおんなの後ろ姿って、いいもんだなあ、たまんねえなあ・・・・・ママ、もう一杯くれ」
と、居酒屋でママを相手に爺ジが3人。
「ねえ、御きゃくさん、宇宙の塵を掃除する事が出来るんですって」
「あの、宇宙船のばらばらになったやつかい?」
「そうみたい、遠くから飛んでる塵になんか照射するんですって、当たると地球に落ちてきて燃えつきるんですって」
「へえ、すごいじゃん、科学ってのかい?学者の頭も進んだもんだなあ」
「何十万個って飛んでるみたいよ、宇宙船が塵に当たって怪我、じゃあなくって、なんて言うの、大事故?になるんですって」
時代が変われば居酒屋も宇宙の話にもなる。
「そんな何十万個もあったんじゃあ、打ち落とす方もてえへんだなあ、それよっか掃除機で吸い取っちゃえばいいのになあ」
「そうだよ、ダイソーで度でかい奴を作って吸い取っちゃえばいいんだよ」
「ダイソーかあ、軽くて具合がいいらしいで」
「よう、ママさんダイソーに電話しろよ、いい儲け話を教えてやっからって」
酒場の酒は老いを忘れさせ、残り少ない人生に生きがいと喜びを与えてくれるものだ。客に愛想のいいママ、初な手伝いの娘、こんな居酒屋は爺ジどもの極楽浄土だ。
|
|
医言同源!
医者の一言が人を救う。
十日は早い新緑の風が舞う京都は東山の老舗料亭で、ブロ友御夫婦と遅桜の杯を交した。
その昔、侯爵の別荘だった舘は当時の威厳を残し、庭の空気さえも明治の風に揺れているようだった。
ブロ友御夫婦は羨ましい位のオシドリで、医者である御主人は映画俳優のような雰囲気がある立派な方だった。
京都のワインソムリエで渋い男前の方、それに眉目秀麗そのままを絵にしたような中齢の女性がが同席され、私のような足柄の山猿一匹が異体に感じた座席だった。
ブロ友の御主人が開口一番、私に「お元気そうでなによりですね、顔色がいい」と、出合う人の顔色をうかがい、交す言葉に気を使う年齢になった私には、何よりうれしい言葉だった。
それも、ありきたりに聞く挨拶でなく、医者が放つ言葉だったから、健康を気にする年齢には天下の妙薬にも似た気がした。
あなたと一緒でうれしいとか、あなたが私の全てよ、なんて心踊った若いころはともかく、人生行路の折り返し点を曲り、なおも走り続けるランナーにとって、医者が言う「顔色が言い」とは最高の追い風だった。
私が尊敬していた今は亡き「赤ひげ先生」が、患者に言っていた言葉を思い出した。
「君は病人じゃあないんだよ、病人だったらここへ歩いては来れないはずだよ」と、患者の尻を叩いて元気ずけていた。患者と会話しないで注射に投薬で済ます多い中、ベンケーシーのような医者と同席出来た事に、庭の葉桜も喜んでくれているように見えた。
京都の春の踊りも終わりに近い、そよと撫でる加茂川の川風も心地よく、あの夜も春の暦がめくられていった。
酒のお伴(京都の坪庭) |
|
金科玉条?
「金か玉(たま)じょうだなんて・・・やだ〜〜、お兄さんのエッチ!」
「なんだ?おまえ、国語を習わなかったのか?これは金科玉条(きんかぎょくじょう)って読むんだよ」
居酒屋のぽっちゃり娘を相手にセクハラ爺ジがからかっている。
「だって、そうしか読めないんだもん、狸さんのあれでしょ?」
「まあ、おんなじような意味だけどな」
指の短い白いふくよかな可愛い手でおしゃくをしながら
「いつもお兄さんはエッチな話しかしないんだもん」
「そうだよ、ここへくるお客は大なり小なり助ベーさ」
カウンターの隅の客が「おいおい、いっしょにするなよ」と、こっちを見た。
「おにいさん、おにいさん、そんなら金か玉じょうって、どんな意味?ちゃんとした意味?エッチじゃあない?」
と、ほほを手で隠して、小さな声で聞いてきた。
「見るからにエッチそうな字だけどな」
ぽっちゃり娘は、エッチな話は聞きたくない初なそぶりで耳に指を当てて、身を乗り出してきた。
「金は金だよ、玉は玉だよ、変わりはねえよ」
「やっぱり、エッチじゃん!」と、ちょこっと顔を赤らめた。
「まあ聞けよ、金科玉条って今の憲法九条のように大切な法律の事なんだ」
「ええ?法律?なんだ〜つまんない!」
「これこれ、つまんないってなんだい、エッチの方が良かったかい?」
カウンターの隅の客も「なんちゅう意味なんだい?先生さんかい?」と、ビールを持って近寄って来た。
爺の客は継がれた酒をくっと呑んで、
「金も玉も一番大切なものとは知っての通り、一番重要なもんだよ」
「じゃあ、科ってなあに?」
「科?理科とか社会科と言うように、決めごとで、科条って法律のような意味で、金科玉条って金や玉のように大切な法律っていうことかな?」
「だんな、いいこと言うじゃんけ、俺の一物は正に金科玉条だな、一穴主義でな」
「そうだよ金も玉もしっかり守っていかなきゃあね」
「やっぱりそっちなのよね」と、藤間紫に似たおかみが帯に手を当て奥から出てきた。
居酒屋の小娘は初な顔をして、聞き年増が多いのも爺のような客がやって来るから、仕方がねえが、嫁に出すまでは飲み屋に奉公は止した方がよさそうだ。
小娘が小エッチな話で顔を赤らめると、こちとらも少しの酒で赤くなる。
居酒屋もエッチな世界の一隅だ、赤ちょうちんをぶら下げるとは良く考えたもんだ。
|
|
♪いい湯だな〜、いい湯だな〜・・・・・。
給湯かけ流し、心も体もほぐれるいい湯だな〜!
いやはや指折り数えたら4か月も行っていない伊豆の隠れ家の掃除に出かけた。
玄関前は枯れ葉の山、芝生は伸び放題、柿の木には白いカビ、一人で片づけ掃除には一日半かかってしまった。
以前は此処に逃げ込んでは、巷の喧騒から逃れ、書き物をした隠れ家も築15年を経過していた。
雨戸をあけ空気を入れ替える、それから掃除、座布団のカバーや敷布の洗濯、おさんどんの日課だった。
此処には年に七八回くらいやって来ては、庭の草取り、掃除洗濯、庭木の手入れをしていたが、だんだんおっくうになって来て閉めっぱなしの月が続いていた。
家から2時間もかかる隠れ家に来て最も楽しめるのは温泉風呂だった。
麓の集落には温泉組合があって,400リットル400円で買って来て、朝から晩まで温泉三昧が出来るのが隠れ家の醍醐味だった。
温泉タンクを積んだ軽自動車から、湯船に給湯
二日目の昼には、満足する片づけも終わり、すがすがしい新緑の空気を部屋に取り入れ、ほっとして海に出かけてみる事にした。伊豆の西海岸は冬の間は風波が強く、春になると風もない穏やかな入り江に人が集まり始める。
3年前に購入したカヌーを組み立て、さあ出かけるぞと準備が終わったら、珍しく人の姿を見たと、親切か暇人なのか漁師がかさごの刺身を持ってやって来た。
海への計画は中止、漁師と半年前のビールを開けて、その日も暮れてしまった。
|




