100歳の母

母は元気に100歳になりました。

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介護施設の格差

スーパーのレジに並んでいると声を掛けられた。
私は誰だったか思い出せなかった。
 
昔から人の顔が覚えられない。
 
私は相手によく覚えられる。
頬に大きなほくろが2つもある。
多分、それが原因だと思っている。
 
「お母さん、どうしている?」
その言葉で前の施設の入居者の家族だと分かった。
 
「この頃、落ち着いたよ。そっちは?」
 
「相変わらずよ」
彼女の顔が曇った。
 
「母が叩かれた、叩かれたと騒ぐのよね」
「それでも、認知症だから妄想かもしれないし」
 
妄想か現実かそれは家族には分からない。
だから抗議も出来ない。
 
青あざが有ってどうしたんですかと聞く。
 
「さあ、知りません」
「見ていませんから」
前の施設の職員は母の青あざに答えた。
 
彼女の母親はいつもトイレに行きたがっていた。
それなのに彼女はトイレに連れて行かなかった。
それが私には理解出来なかった。
 
「トイレに連れて行かないでと職員に言われていたのよ」
彼女は自分からその理由を話し始めた。
 
「おむつが汚れているでしょう」
「だから取り替えると経費がかかるから」
 
彼女の母親が罵倒されている現場を見た事がある。
玄関を入ると罵声は聞こえた。
 
「○○さん、あんた一人のために職員はいるんじゃないよ」
「いいかげんにしてよ」
怒鳴っていたのは男の介護士。
 
体格がいいから声も凄みがある。
 
当然、事務室にも聞こえているはずなのに何の反応もない。
私がユニットに着くとさすがにその介護士は気まずそうな顔をした。
 
トイレにあまりに行きたがるので怒られていたのだ。
 
あんな風に自分の親が罵倒されていたら悲しい。
彼女はあの場面を見なくてすんで良かった。
 
今思えばあの施設は管理体制が出来ていなかった。
職員の考えだけで物事は進められていた。
 
今はそのユニットには若い職員しかいない。
 
合理的な仕事をしていた。
 
オムツが必要な老人が長時間トイレに座らされていた。
私は1時間もトイレに座らされているのを見た事がある。
職員は2人そばにいる。
 
ずうっとおしゃべりをしていた。
 
同じ姿勢がどんなに苦痛かなどは考えない。
 
 
今の施設はいつも理事長が見回りをする。
 
「○○さん、元気ですか?」
一人一人に声を掛ける。
もちろん、全員の名前を覚えている。
 
理事長の見回りに職員も手を抜かない。
 
入居者は穏やかな顔をしている。
 
職員は入居者を馬鹿にしていない。
 
 
ホームを替わって良かったと思う。
 
 
 
 
 

素敵な人生

母のいるユニットには10人の入居者がいる。
9人が女。
 
女は長生きなのか。
戦争で絶対数が足りないのか。
 
たった1人のおじいさんは人気者だ。
席に着くと軽く手を上げる。
 
にこにことみんなを見回す。
みんな笑顔になる。
 
一人のおばあさんだけは反応しない。
そしておじいさんもまた決しておばあさんをみない。
 
二人は夫婦なのだ。
もう夫婦であると分からないという介護士の話だ。
 
おばあさんはおとなしい。
しゃべらない。
 
母のおしゃべりの三分の一でも分けてあげたい。
 
 
ある日の事だった。
 
あるおばあさんが言った。
 
「おすしが食べたいな」
 
介護士は笑顔で答えた。
 
「巻き寿司ならみんなで作れるね」
「今度みんなで作ろうね」
 
突然夫婦者のおばあさんはお絞りを丸めた。
 
お寿司を巻いている仕草だった。
 
「お寿司巻いてるの?」
介護士の問いにも答えない。
 
何回もお絞りを巻いていた。
 
 
昔はああやって子供たちにお寿司を巻いたのだろう。
その頃の日々がおばあさんに戻ったのだろうか。
 
おじいさんは気が向かないと返事をしない。
 
「石屋さん」
そう呼びかけると威勢良く答える。
 
「あいよ」
妻は忘れても自分の仕事は忘れない。
 
夫婦で有った記憶は忘れても、幸せな日々、自分の生きがいを忘れない。
 
 
素敵な人生だ。
 
 
 
やはり、晴れの日は長くは続かない。
 
今日も母は食堂にいた。
みんなに背を向けて座っていた。
 
「部屋に行こうよ」
「話がしたい」
私を見るとその場を離れたがった。
 
母は部屋に入ると職員がどんなに意地悪か愚痴を言い続ける。
それは母の思い違いだ。
いつ見ても入居者に優しく接している。
 
「私が羨ましいんだ」
「ねたみだよ」
 
「だから、意地悪なんだ」
母はいつもの様に言う。
 
「何が羨ましいの?」
私は苦笑する。
 
「だって、私は大金持ちだもの」
母は真顔で答える。
 
「さっき、偉い人に呼ばれたの」
「二人は結婚するしかないって言われたの」
「そうするしかないのかね」
 
父を求めていた母は違う男との結婚話をする。
 
「二人って、相手はどんな人?」
うんざりしながら話を合わせる。
 
「えーと。お前が知っている人だよ」
母はちょっと考え込んだ。
 
「名前は東尾だよ」
「お前知っているだろう?」
 
東尾と言われても思いつくのは石田純一の結婚相手ぐらい。
 
「知らないよ」
 
「昔は野球選手だったんだよ」
 
私は東尾りこの父親が野球選手だったと思い出した。
 
「どうしたらいい?」
母はもじもじとズボンをつまんでいる。
 
「結婚すれば?」
私は面倒になって答えた。
 
「じゃお前、青い家は買ったんだろうね」
又、青い家だ。
 
「お金は渡したじゃないか!」
母は東尾と青い家に住む気らしい。
 
「日本には青い家はないよ」
「チュニジュアにでも行かないとね」
 
「何でもいいから、青い家を買ってよ」
母と話すのが苦痛だ。
 
「こんにちわ」
職員が声を掛けて廊下を通る。
 
「大変だ。髪結いが来た」
母は大慌てで廊下に出た。
 
何だかんだと言っても結婚したいのだ。
 
「じゃ、私は帰るわ」
母を部屋に入れてから言った。
 
「ここに鍵を持ってきてよ」
「昨日、パンツ1枚の男が5人で入って来たのよ」
「怖かったよ」
 
 
昨夜男がいると母は大騒ぎをしたと職員が話した。
 
母は自分は女だと認めて欲しいのだろうか?
 
 
 
 
 
 
 
 
 

記憶が戻った母

ホームに行くと母は食堂にいた。
背中を叩くと振り向いた。
 
「あれ、すごい笑顔だね」
向かいのおばあさんが声を掛ける。
 
母はこぼれるような笑顔で私のポケットに手を入れる。
 
「お孫さん?」
おばあさんはこの前と同じ質問をする。
 
「いいえ、末娘です」
母は答えた。
 
私を思い出した。
 
「お母さんは先生をしていたの?」
おばあさんは聞く。
 
「いいえ」
母はそう言ったのだろうか?
 
 
「頭のいい人だね」
 
母はそのほめ言葉に笑顔が崩れる。
 
「私の仕事は誰にでも出来る仕事じゃない」
「政治がらみだからね」
調子に乗って答えている。
 
母は政治と言う言葉が好きだ。
 
「頭が違う」
おばあさんは母を褒め続ける。
 
気がつけば二人はしゃべり続けている。
他の人は一言も口を利かない。
 
このおしゃべりが母を明るくしている。
 
持って来た服を見せるために部屋に入る。
 
「いい服が沢山だ」
母は機嫌がいい。
 
「私、お父さんと別れるわ」
母は突然に言う。
 
「どうして?」
この前は恋しがって捜しまわっていたのに。
 
「だって、お父さんは美代子の方が好きなんだもん」
 
母は姉の名前も思い出した。
 
「二人で私を苛めて許さないよ」
 
母は苦しかった日々を思い出したらしい。
 
ちょっとしたきっかけで記憶は戻るのだと知った。
 
 
 
 

温泉は不潔

私の住む町は温泉がかなり有る。
公衆浴場はすべて温泉だ。
 
源泉掛け流しもかなり多い。
 
 
私はこの頃温泉にはあまり行かない。
 
 
利用する人はあまりにもマナーが無い人が多い。
 
こんな事が有った。
脱衣場で靴下を脱ぐ体制に成った時だった。
隣にいる女がでかいパンツを脱ぎ始めた。
何故か、方向を変えて私にお尻を向けた。
 
顔の前に大きなお尻が来た。
 
臭かった。
う○このにおいがした。
 
太りすぎてお尻も拭けないのだろうか。
 
彼女は体をさっと洗うと湯船に入った。
あの臭さではきっとう○こが付いていたに違いない。
彼女とは違う浴槽に入った。
 
 
浴槽の近くで女が寝ていた事もある。
全身にジェルを塗っている。
てかてかと光っている。
 
湯船に入るにはその女を踏むかどかすしかない。
連れらしい女は蛇口をタオルで縛り水を出しっぱなし。
 
二人はハングル語でわめいていた。
 
 
竹島もこうやって占領されたのだろう。
 
何も言わない日本。
 
寝そべっていても何も言えない私。
違う浴槽に入るしかない。
 
ハングル2人に私1人。
 
 
又こんな会話を聞いた事もある。
 
A「ずーと下痢していてお風呂に入って居ないんだよ」
 「家のお風呂が汚れると行けないから温泉に来たんだよ」
 
B「私もだよ」
 「1ヶ月お風呂に入ってないよ」
 「もう直ったけど病気だったんだよ」
 
病名は伝染性の物だった。
 
 「家の人に移すといけないからね」
 
 
考えてみればお風呂は不潔だ。
 
温泉のレジオネラ菌で死ぬ年寄りも多い。
 
 
病気を他人に移すな。
 
風呂で寝るな。
 
全身パックをするな。
 
体をよく洗え。
 
 
温泉に入る人にそう言いたい。
 
 
 
 
 
 

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