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「サイレンが聞こえていたね」
「いよいよ、始まるね」
母は暗い顔をする。
「何が始まるの?」
私は何を話すのだろうと母の顔を見る。
「アメリカが攻めて来る」
「ここに居たら殺されるよ」
「早く、防空壕に行こうよ」
戦争を母は忘れない。
「戦争は終わったんだよ」
「60年以上も前にね」
私が言うと母は聞く。
「どっちが勝ったの?」
「アメリカだよ」
母は答を聞いて首を振る。
「本当は戦争は終わっていないよ」
「日本を打ちのめすまでアメリカはやるよ」
「今は油断をさせているだけ」
母はぶるぶる震える。
「アメリカが攻めて来るよ」
「早く戸を閉めてよ」
「アメリカに殺されるよ」
母は繰り返す。
母は長兄と姉の手を引き次兄を負ぶって焼夷弾の中を逃げ回った。
その恐怖を未だに忘れられないでいる。
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父が亡くなって6年が経とうとしている。
それでも金木犀の香りは私を苦しみと悲しみの中に追いやる。
父は母の誕生日の翌日に死んだ。
母が90歳になるのを見届けるように。
父の医療事故が無ければ父はもう少しは安楽な死を迎えられた。
内視鏡検査の際に腸に穴を開けてしまった。
腸の内容物が全身を駆け巡った。
穴の開いた腸を取り除く手術。
生死の境を2週間ほどさ迷った。
そして退院。
それから1月ほど経って腸閉塞。
又、手術。
95歳になって2回も手術をした。
父に内視鏡検査は必要だったのだろうか?
内視鏡検査のリスクは父に話したと医者は言う。
父は聞いていないと言う。
内視鏡検査を受けるなら私に相談して欲しかったと思う。
私は決して賛成はしなかった。
義父は80歳ですい臓がんの手術をした。
手術は成功。
でも手術で体力を使い果たした。
手術から半年で亡くなった。
もし、父が私にアドバイスを求めていたらと残念に思う。
転院した病院では腸にはがん細胞は見つからなかった。
医療事故を起こした医者の居直り。
姉兄の変身。
金木犀の香りは私を悲しみと苦しみと後悔へと誘う。
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母の携帯を先日、解約に行った。
「途中解約ですから料金を頂きます」
解約を申し出ると店員に言われた。
「2年経過しているから、料金は発生しないでしょう」
「この前、解約に来た時に2年経ってからだと無料だと言われたわよ」
私はわざわざ2年経つのを待って解約に来たのだ。
「2年経ったその月でないと駄目なんです」
今になって店員は言った。
「そんな、納得がいかないわ」
そう言うと、お客様相談室の電話番号を教えた。
そこに電話した。
「分かりました。調べまして電話します」
電話は明るい感じのいい対応だった。
2,3日して電話が有った。
「お店が何と言おうと4年目のその月しか無料で解約は出来ません!」
冷たい、高圧的な態度だ。
「だって、2年経ってと言えば2年経てば解約が無料で出来るって思うじゃない」
私の言葉に相談室の係員はさらに冷たく言い返す。
「お店に確認してもあなたが来たと言う証拠はありませんよ」
「記録がないですよ」
「それに料金のお知らせに2年経ったとちゃんと書いてありますよ」
「それを読まないお客さんが悪いでしょう!」
テレビで散々笑顔で携帯を勧める会社の素顔はこんなものだ。
「2年経ったと確かに料金のお知らせには書いてあったよ」
「でも、この月し無料解約が出来ないとは書いてないよ」
私は納得が出来ない。
「携帯を買う時にその説明を受けたでしょ!」
相手は馬鹿にした口調で言い返す。
ひん曲がった口が見えるようだ。
「それは聞いたかも知れないけど」
うっかりと私は答えた。
「ほーら、言った、言った。聞いてるくせに」
勝ち誇ったように言った。
「それでも常識的に買う時に解約の話をするかどうかは分からないわね」
「説明しても2年は解約が出来ないと言う説明だけだと思うけど」
相手はそれを聞くと話を変えた。
「じゃ遡って解約してもいいですよ!」
「割引はすべて無くなりますから月に1万ほどの支払いになりますよ」
「それでもいいんですか?」
こう答えたらこう言う答えると言うマニュアルがあるのだろう。
喧嘩を売られているようだった。
何がお客様相談室だ。
陰険な会社だ。
男だとストレートだから女を使ってねちねちと恫喝する。
「いいよ。私の携帯も息子の携帯も解約するよ」
私は2度とこの会社の携帯とは縁を切りたいと思った。
「携帯を解約するよ」
家族割の息子に電話した。
「俺、困るよ」
息子の言葉に解約は出来なかった。
おそらく、それを見越しての対応だったのだろう。
それにしても高圧的な態度、恫喝、人を馬鹿にする口調。
あれが相談室の姿だろうか?
敬語も丁寧語も使えない。
腹を立てさせて怒らせて諦めさせる戦術なのだろうか。
納得のいく説明はない。
それでもこの頃はこんな対応の相談室が増えているようだ。
がみがみと言い立てる女に対応をさせている。
そして自分が最終責任者だと言い張る。
苦情をどこにも持っていけなくしている。
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「相手の人が子供を二人連れて来ていいと言うんだよ」
母は結婚相手の話をする。
「そんなに子供全員に食べさせられないからね」
「正志と元を連れて行くよ」
亡くなった長兄の名を思い出したらしい。
兄二人を連れて再婚すると言う。
「二人はもう孫がいる年齢だよ」
私は自分の名前が呼ばれないことに傷ついている。
「だって相手が二人しか連れてきちゃいけないっていうもの」
母の空想の中では私は要らない。
「私の名前は分かる?」
聞いても母は答えない。
「その人の間に子供が出来るかもしれないね」
母は話を変える。
「96過ぎて子供が生まれたらテレビに出られるよ」
「出演料が沢山もらえるよ」
私は言いながら、母の顔を見る。
目が座っている。
「そしたら、下ろす」
母はあっさりと言った。
「それでも絶対に私が子供を産めないとお前は言うの!」
それは絶対だ。
どう答えようかと迷った。
「ここの人たちは身を売っているんだよ」
「ここは売春宿だ」
母の話は変わる。
「ここに居ると私も身を売らなければいけなくなるよ」
母は目に涙を浮かべた。
「男たちが手篭めにしようと毎晩来るんだよ」
「どんなに恐ろしいか分かる?」
又始まった。
この話が私は嫌いだ。
「じゃ、警察に言った方がいいね」
「捕まえてもらおうね」
私の我慢の言葉に母は答える。
「無理だね、警察もぐるだから」
母は再婚時に連れて行かない私を憎々しげに睨んだ。
「又、来るから」
私の言葉に母は答えなかった。
私の背中から母の声が聞こえた。
「あの子は鬼の子です」
職員に話していた。
母のやりそうな事だ。
聞こえるように言ったのだ。
じゃ自分は鬼かと思った。
でも母は自分の子では無いと言いたかったのだ。
母は姉を鬼と言う。
私はあんな非道な姉と同等なのだろう。
しばらくは母の所には行かないつもりだ。
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事件の2日前だった。
図書館のトイレに行った。
閉まったドアの部屋の中の光景が見えた。
その個室は血だらけ。
中で生まれたての赤ちゃんが死んでいた。
幻だと打ち消しても私の脳裏からはその光景が離れない。
あのトイレで赤ちゃんの産み捨てがあると言う確信すら覚えた。
館員に気をつけるように言おうかと思った。
一方でそれは何も根拠の無い事だ。
頭のおかしい女だと思われるのが落ちだ。
あの光景は現実となった。
図書館のトイレに生まれたての赤ちゃんが捨てられた。
この幻は夫には話して有った。
「やっぱり、君には霊感が有る」
夫はテレビを観ながらうなった。
ニュースによるとトイレの個室は血の海だった。
そしてそのトイレは私が幻を見たトイレの場所だった。
もし、館員に言っていればどうなっただろう。
私は何かしらの取調べを受けただろう。
どうしてあんな光景がリアルに浮かんだのか分からない。
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