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右腕の動きがまだ十分ではない。
片手で車椅子を押す。
「動かないの?」
母は聞く。
うなづくと母は言う。
「マー坊に揉んでもらうといいよ」
「マー坊は偉いね。マッサージの試験に受かったんだって」
母は次兄が来てからはいつも同じ事を言う。
本当なのかどうかは分からない。
次兄は努力という言葉が一番似合わない男だ。
運転免許すら持っていない。
「お兄さんはお母さんを揉んでくれたの?」
母は首を振った。
「あれは金にならないことはしないよ」
母は冷静に次兄を見ているのだと感心した。
「あれは気象予報士だったけど気が利かないから首になったよ」
母の妄想は始まる。
「茶碗を洗ったりしなきゃいけないのにしないから」
「仕方ないよ」
母は大きな声ではっきりと言った。
「私はマー坊の上役にはっきり言ったね」
『私は息子に洗い物をするようには育てていません』って」
もちろん、妄想だが怒りが噴火していた。
母は父が洗い物をしないと嘆いたことなど忘れている。
「歌子は世界で一番幸せ者」
「マー坊みたいないい男と結婚して」
「あんないい男はいないよ」
母の口癖だった。
そうかも知れない。
次兄は嫁の言いなりだ。
嫁は幸せだろう。
嫁の母親を福岡から引き取って暮らしていたと言う。
今は認知症が進んで近くの施設にいるらしいが。
もっとも次兄は裁判で述べた。
「今の自分があるのは妻の両親のお陰です」
「自分の親の世話にはなっていません」
次兄は母を本当はどう思っているのだろう?
私はもう次兄に張り合う気はない。
寂しいけれどさっぱりした気分だ。
母にかかわって6年以上。
今までの時間は苦しかった。
これからは笑顔を多くしていきたい。
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2011年12月25日
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