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「貯金通帳を返して!」
母は顔を見るなり言った。
「何に使うの?」
私は母の言葉の強さに驚きながら答えた。
「孫が30人遊びに来るんだよ」
「もてなしてやりたいからね」
孫は8人しかいない。
「子供は3人、孫は30人いるよ」
母はそれでも繰り返す。
「3人の名前が言える?」
誰が抜けているのか。
「えーと、元に、美代子に正志」
やはり抜けているのは私だった。
「美代子は赤ちゃんを産んでね」
母は話し続ける。
「名前を美代子と自分と同じ名をつけたんだよ」
「あの子は大人しいから自分を忘れないでと言えなかったんだね」
私は耳を疑った。
「姉さんが大人しいの?」
聞き返した。
「大人しい子だった」
母は優しい目をしていた。
「あの子が懐かしい」
「姉さんはお母さんを蹴ったり踏んだりしたのよ」
「忘れたの?」
私はそう言わないではいられなかった。
姉の虐待を受けて母がどんなに心の傷を負ったか。
母の精神を正常に保つのに私がどれだけ苦労したか。
それなのに母は私を忘れている。
「そうだったかね」
「美代子は芯は強かったからね」
母の姉への憎しみは消えたように思える。
姉も母を恋しく思う日が訪れて欲しい。
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2012年09月22日
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