100歳の母

母は元気に100歳になりました。

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消せない記憶

母は来月98歳になる。
 
あれからもう8年が経つ。
 
笑顔になる日が来るのだろうかと思っていた8年前。
目が覚めるといつも枕元に父がいたあの頃。
 
 
母は姉がした事をすっかり忘れたようだ。
姉の顔を黒く塗ってある家族写真を見て聞いた。
 
「どうして黒く塗っているの?」
 
母はにっこり笑った。
「今は喧嘩中なの」
 
私は聞いてみた。
「どうして喧嘩したの?」
 
 
母はしばらく考えて答えた。
「忘れたばい」
 
 
救われた気がした。
 
私は忘れる努力をした。
方法は勉強。
 
難関と言われる国家資格を目指した。
2年で合格することができた。
 
今は開業しそこそこの収入を得ている。
 
勉強する過程で辛い事を忘れる事が出来た。
 
父がそういう風に私を導いてくれたのだろうと思う。
 
 
お盆に娘が帰省した。
電車が混んでいるだろうかという話になった。
 
「たった2時間だから、立ってでも帰れるよ」
私は言った。
 
「横浜の伯母さんは東京から長崎まで立って帰って来たよ」
姉が20歳の頃は1日がかりの帰省だった。
あの頃の姉はそんな大変な目に遭いながら帰って来た。
家が大好きだったのだ。
 
「お母さんは伯母さんの話を懐かしそうにするね」
娘は言った。
 
私は気が付いた。
 
辛い目に遭ったからと懐かしい思い出まで封じてはいけないと。
 
私の為に服を縫い、おやつを分けてくれた姉まで否定してはならないと。
 
私は末っ子で甘やかされていてわがままだった。
姉には蓄積された恨みが有ったのだろうと思う。
 
 
でも、父の最後のおやつを買ったドラッグストアチェーン店にはいまだに行けない。
父の最後のおやつを無断で自分の孫に持って行った姉。
 
私はそのドラッグストアの看板を見るだけであの頃の父の苦しみを思い出してしまう。
 
ドラッグストアは大体配置が同じなので違ったドラッグストアでも過呼吸になる事がいまだにある。
 
頭の奥に消せない記憶が潜んでいて、それは体に染みこんでいる。
 
 
 
 
 

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