100歳の母

母は元気に100歳になりました。

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美の基準

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明野のひまわり
 
 
女は自分が美しいと思いたいのかもしれない。
 
 
義母も自分が美人だと信じていた。
娘が産まれた時言った。
 
「まあ器量が悪い」
「明子さんのお母さんやお姉さんにそっくり」
「人間、顔じゃないと言うけどこんな顔じゃねえ」
 
この言葉を夫に伝えた。
「誰に似ているかなんて誰でも言う事だ」
夫は不機嫌そうに答えた。
 
娘は今はそんなに不美人ではない。
 
 
「アヒル口は今大流行」
そう言って喜んでいる。
 
義母は母より1つ上。
 
この時代の人って自信過剰だ。
 
 
美の基準が違うのだろうか?
 
義母は鼻が高いのが自慢。
鼻が低い母を馬鹿にする。
 
母は色白とスタイルがいいのが自慢。
23号の服を着る義母を馬鹿にしていた。
 
二人は目が大きく肌がきれいなのが共通点。
 
 
 
お互いに相手をブスだと思っている。
 
そんなに張り合うほど美人じゃないよと二人に言いたかったが。
 
 
 

介護施設の格差

スーパーのレジに並んでいると声を掛けられた。
私は誰だったか思い出せなかった。
 
昔から人の顔が覚えられない。
 
私は相手によく覚えられる。
頬に大きなほくろが2つもある。
多分、それが原因だと思っている。
 
「お母さん、どうしている?」
その言葉で前の施設の入居者の家族だと分かった。
 
「この頃、落ち着いたよ。そっちは?」
 
「相変わらずよ」
彼女の顔が曇った。
 
「母が叩かれた、叩かれたと騒ぐのよね」
「それでも、認知症だから妄想かもしれないし」
 
妄想か現実かそれは家族には分からない。
だから抗議も出来ない。
 
青あざが有ってどうしたんですかと聞く。
 
「さあ、知りません」
「見ていませんから」
前の施設の職員は母の青あざに答えた。
 
彼女の母親はいつもトイレに行きたがっていた。
それなのに彼女はトイレに連れて行かなかった。
それが私には理解出来なかった。
 
「トイレに連れて行かないでと職員に言われていたのよ」
彼女は自分からその理由を話し始めた。
 
「おむつが汚れているでしょう」
「だから取り替えると経費がかかるから」
 
彼女の母親が罵倒されている現場を見た事がある。
玄関を入ると罵声は聞こえた。
 
「○○さん、あんた一人のために職員はいるんじゃないよ」
「いいかげんにしてよ」
怒鳴っていたのは男の介護士。
 
体格がいいから声も凄みがある。
 
当然、事務室にも聞こえているはずなのに何の反応もない。
私がユニットに着くとさすがにその介護士は気まずそうな顔をした。
 
トイレにあまりに行きたがるので怒られていたのだ。
 
あんな風に自分の親が罵倒されていたら悲しい。
彼女はあの場面を見なくてすんで良かった。
 
今思えばあの施設は管理体制が出来ていなかった。
職員の考えだけで物事は進められていた。
 
今はそのユニットには若い職員しかいない。
 
合理的な仕事をしていた。
 
オムツが必要な老人が長時間トイレに座らされていた。
私は1時間もトイレに座らされているのを見た事がある。
職員は2人そばにいる。
 
ずうっとおしゃべりをしていた。
 
同じ姿勢がどんなに苦痛かなどは考えない。
 
 
今の施設はいつも理事長が見回りをする。
 
「○○さん、元気ですか?」
一人一人に声を掛ける。
もちろん、全員の名前を覚えている。
 
理事長の見回りに職員も手を抜かない。
 
入居者は穏やかな顔をしている。
 
職員は入居者を馬鹿にしていない。
 
 
ホームを替わって良かったと思う。
 
 
 
 
 

素敵な人生

母のいるユニットには10人の入居者がいる。
9人が女。
 
女は長生きなのか。
戦争で絶対数が足りないのか。
 
たった1人のおじいさんは人気者だ。
席に着くと軽く手を上げる。
 
にこにことみんなを見回す。
みんな笑顔になる。
 
一人のおばあさんだけは反応しない。
そしておじいさんもまた決しておばあさんをみない。
 
二人は夫婦なのだ。
もう夫婦であると分からないという介護士の話だ。
 
おばあさんはおとなしい。
しゃべらない。
 
母のおしゃべりの三分の一でも分けてあげたい。
 
 
ある日の事だった。
 
あるおばあさんが言った。
 
「おすしが食べたいな」
 
介護士は笑顔で答えた。
 
「巻き寿司ならみんなで作れるね」
「今度みんなで作ろうね」
 
突然夫婦者のおばあさんはお絞りを丸めた。
 
お寿司を巻いている仕草だった。
 
「お寿司巻いてるの?」
介護士の問いにも答えない。
 
何回もお絞りを巻いていた。
 
 
昔はああやって子供たちにお寿司を巻いたのだろう。
その頃の日々がおばあさんに戻ったのだろうか。
 
おじいさんは気が向かないと返事をしない。
 
「石屋さん」
そう呼びかけると威勢良く答える。
 
「あいよ」
妻は忘れても自分の仕事は忘れない。
 
夫婦で有った記憶は忘れても、幸せな日々、自分の生きがいを忘れない。
 
 
素敵な人生だ。
 
 
 

間違われて

やっと来たのね。
待ったのよ。
 
ホームに行くとそう声をかけるおばあさんがいる。
 
昨日も来たわよ。
 
そう答えると笑う。
 
○○はどうしている?
忙しいからあんたが来たの?
 
おばあさんは息子らしい名前を言う。
私を嫁だと思っている。
 
 
いつも塗り絵をしているおばあさん。
 
私を見ると塗り絵をやめる。
邪気のない笑顔を向ける。
 
ねえ、外に行きたい。
おばあさんは言う。
 
お願いだよ。
 
連れて行ってもいいのだけど。
 
母は怒るだろうな。
 
困っている私に職員は言う。
 
息子さんが来るんだって。
待ってないと捜すわよ。
 
おばあさんは笑顔になった。。
 
 
じゃ待っているよ。
また塗り絵を始める。
 
息子が散歩に連れていくといいな。
本当に来ればの話だけど。
 
 
 
 
 
 
 
 

徘徊

「皆様にお願いがあります」
市が有線放送を流している。
 
また徘徊老人が出たのだなとすぐ分かる。
 
「○○町何丁目何番地にお住まいの○○さんが昨夜から行方不明です」
予想通りだった。
 
年齢や服装など特徴が詳しく放送される。
 
ここまで放送しなければいけないのかなと疑問に思う。
老人にだってプライバシーはあるのだから住所まではいらないと思うが。
 
 
老人が無事な場合はまた放送がある。
放送が無い場合は見つからないか、見つかっても不幸な結果という場合だ。
 
知り合いのお父さんは不幸な結果だった。
森の林で首を吊った。
 
意識不明で助けられた。
知り合いは人工呼吸器を外して父親の死を選んだ。
 
 
全く見つからない場合もある。
先日もグループホームで買い物に行き老人が行方不明になった。
どこでどうしているのか今も分からない。
お金すら持っていないのに。
 
知り合いの親のように意思を持って家を出るのと徘徊は違う。
 
徘徊は自分の居場所を探しているように思える。
 
 
夫の叔父が我が家に来た事があった。
当時、叔父は認知症。
それでも自分の生まれた家に帰って来た。
 
丸一日歩いたと言う。
真冬なのに背中にびっしょりと汗をかいていた。
 
それから半年もしないで叔父は死んだ。
 
叔父は死ぬ前に生まれた家に戻りたかったのだ。
 
私は自分の生まれた家の記憶がない。
敗戦後両親は田舎に帰った。
父方は裕福で家も広かったが一家を受け入れては呉れなかった。
 
父は若い頃買った土地に掘っ立て小屋を建てた。
そこで私は生まれたらしい。
何の記憶もない。
 
何年か前にその場所に行った。
行く途中で驚いた。
 
時々見る夢の景色。
それと同じだった。
 
私も老いたらあの景色を求めて徘徊するのだろうか?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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