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昨日取り上げた雨谷(あまがい)麻世さんには「クラシカルクロスオーバー・ソプラノ」という肩書きがありました。このソプラノ、日本人が好きな「三大」になぞらえて、世界三大ソプラノ歌手をチェックすると、ドイツのエリーザベト・シュワルツコップ(1915-2006)、イタリアのレナータ・テバルディ(1922-2004)、アメリカ生まれギリシャ出身のマリア・カラス(1923-1977)がこれにあたるそうです。
私はマリア・カラスしか知りませんが、音楽ファンの間では著名なソプラノ歌手をめぐって、熱狂的なオペラファンが異なる歌手を支持して対立する複数の陣営をつくることがあったそうで、特に、マリア・カラスとレナータ・テバルディのライバル関係は最も著名なんだそうです。しかし、いずれもディーヴァも故人となってしまいました。
声楽という学問、技術がいつの頃に確立するのか興味がわいて調べてみると、マルティーンセン=ローマン(1887-1971)という人の『歌唱芸術のすべて』(音楽の友社、1994年)という書籍があることがわかりましたが、その著者の序文には次のように書かれているようです。
「昔のイタリアの名歌手たちは、声楽に関する直観的な認識や洞察や英知を、文字や口承の形による言明と教示で伝えている。これらのものは、一見、意味不明であったり、曖昧のように思われるが、実はその精確さと現実性において、驚くべきほどの知見と観察に基づいている。しかし、今日に至るまで、声の自然法則に関する認識と英知を含んでいるこの伝統を、発声科学的に証明しうる事実基盤の上に立って研究するという真剣な試みは、一度としてなされたことがなかった。それを行なえば、声楽の歴史において、探究的精神がこれまで歩んできた長い道程を見渡す明快な展望を獲得することができるのである」。
端的にいうと、これまで充分な研究がされてこなかったということですね。人体を、声帯を中心にした一つの器官にして発声される音のバリエーションが生み出す世界、それが声楽の魅力でしょうか?私の声楽家の友人によれば、人体を楽器として筒状に仕上げることがより良い発声のための基本だと言っていました。
さて、前置きが長くなりました。昨日、昨年購入にしたまま封を開けずにいた、アメリカのソプラノ歌手、ルネ・フレミングの「SACRED SONGS」を観ました。昨年、偶然NHK・BSで彼女のドキュメントを見て、興味本位でamazonで購入したものです。2005年11月13日、ドイツのマインツ大聖堂でのコンサートを収録したものです。
タイトル「SACRED SONGS」とは、文字通り宗教音楽でした。教会、聖歌隊、オーケストラをバックにルネ・フレミングが10曲を歌っています。歴史的には、女性がキリスト教会で歌うことは認められていなかったそうで、ソプラノの役割は若い少年、後にカストラートに与えられたといいますから、ソプラノ歌手が教会で歌うというのは決して古くからあることではなかったんですね。
この収録曲の中で、圧巻だったのはシューベルトの「アヴェ・マリア」でした。ライナーノートには次のように記されていました。
「フレミングはプッチーニ、カッチーニ、マスネをはじめとしたさまざまな<アヴェ・マリア>を詳しく調べた。そしてフレミングはこの収録作品の中でシューベルトの<アヴェ・マリア>が、“もっとも厄介な曲”のひとつであることに気づいたのである。『これまでしばしばレコーディングされ、アレンジされてきた、このDVDに収められている作品に歌手が取り組むとき、その作品が歌手をおびえさせるような存在になることがあります。私はそれをドイツ語で歌ったらいいのか、あるいはより最近のラテン語版で歌ったらいいのか、さらにはイタリア語風のラテン語かドイツ語風のラテン語で歌ったらいいのか?他の作品でも、私は、ごくわずかな歌詞、メロディの異なった、それぞれの作品の6つの版で武装し、聴く人の気に入る版をどうにかして明確にしようと試みました』」
Renée Fleming (b. February 14, 1959), is an accomplished American soprano specializing in opera and lieder.「ルネ・フレミングは、その魅力的な声、様式の幅広さ、観客の心をとらえるステージ上での存在感で、メディアからも一般聴衆からも、今日の偉大なるアーティストのひとりだと評価されている。2度のグラミー賞を受賞している彼女の芸術性は、世界中の一流の舞台や録音で引っ張りだことなっている。彼女はリスクを恐れない人と見なされており、新しい音楽と古典的な作品の両方をレパートリーとしている。彼女のために書かれた多くの作品、彼女が作り出した多くのオペラの役によって、彼女は同業者から尊敬され、ジャーナリストから賞賛されている」。
「2005−2006シーズンのフレミングの主な活動は、2つのメトロポリタン・オペラでのオペラ上演、マノン(2005年9,10月/2006年4月)と、ロデリンダ(2006年5月)、ダフネ(コンサート・バージョン)の3都市USツアー、WDR交響楽団とのアン・アーバーズ・ヒル・オーデトリアムでの共演、ニューヨーク・カーネギー・ホール、ワシントンDCのケネディ・センター(10月)、1月のカーネギー・ホールでのMETオーケストラとジェームス・レヴァインとのコンサート、バリトン歌手ドミトリー・ホロストフスキーとモスクワ室内管弦楽団との、モスクワ、サンクトペテルブルク、プラハ3都市ツアー(2006年2月)がある」。
「アメリカ国外でのコンサートとしては、11月に5カ国リサイタル・ツアーが行われる。ロンドン・バービカン、アムステルダム・コンセントヘボウ、オスロのコンサート・ホール、パリのテアトル・デ・シャンゼリゼ、トゥールーズ市立劇場、ミュンヘン国立劇場での公演が予定されている。2006年の活動は、日本でのパトリック・サマーズ指揮メトロポリタン・オペラ共演の《椿姫》、それにサー・アンドリュー・デイヴィスとのMETオーケストラ・コンサートもある。2つのグラミー賞、8つのグラミー・ノミネートを含む、多数の受賞作を業績に持つフレミングは、1995年からデッカと独占契約を結んでいる」。(ブライアン・ケロウ)
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