チエンマイの原風景

古書を片手に霧の彼方の古都チエンマイを訪ねる旅です・・・

チエンマイの民間信仰

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チエンマイの民間信仰−1−

タイ族が、いつ何処から今のこの地にやって来たのか、それは日本人起源説にも似て、茫漠とした霞に遮られて見えません。ただ想像するしかありません。タイの人々に聞いてもただ中国から来た、中国南部からきた、としか言いません。あまりそのことに関心が無いようですね。でも中国から南下してきたことは間違いないわけですから、それに異を唱えることなど出来ないです。
ただ、南下がどういう風に行われてきたのか、どこから始まったのか、そのことに大変に興味があります。今タイ北部の山岳部にいる少数民族と呼ばれる人たちもその多くは、かつて今の中国の大地の上に暮らし、初めから山の上に住んでいたのではないようです。
そんな中のひとつメオ族の人が今も中国山間部にいて、どうして山の上にいるのかと聞くと、タイ人に追いやられたからだ、と答えたと言います。古代中国では、占いをしてチベット族をしばしば捕らえて生贄にしたといわれ、様々な民族が中原から周辺に押しやられました。そんな望まぬ民族移動の中にタイ族もいたでしょう。

古代中国の神話の中に九黎がという部族が出て来ます。彼らは黄帝族との戦いに敗れて中原を追われたようです。ここで言う黄帝族とは、現代中国人の祖のようなもので、一方の九黎は九つの部族らしいですが、民族的には同一民族のようです。
もしも・・・もしも、これがラーウ族の伝承に出てくる九人の兄弟を意味するならば面白いですね。ラーウは勿論タイ族の一派で、マハーシラー・ウィーラウォン編、ソムマーイ・プレームチット訳の「ラーウの歴史』によれば、その九人の兄弟の末子は竜の子供であると言う伝説を伝えています。そして、母親がその子供を「ロン=竜」と呼んだことがラーウの始まりであると言います。

想像は次々と広がり楽しいのですが、ここでは民族移動の話を横において、タイ族は、長い時間の流浪の中でどんな宗教を持つようになったのかについて考えます。
今は熱心な仏教徒であると自認するタイ人が如何にして、どこで仏教と接触したのかとなると、まるで雲を掴むような話しになってしまいます。
ただ、彼らも又仏教に接する以前から何らかの宗教、信仰心を抱いていたことは疑いないでしょう。如何なる民族といえども、全く無宗教で社会を形成し、維持していたと考えることは出来ません。彼らタイ族も又、彼ら独自の宗教を持っていたと考えるのが自然ではないでしょうか。
では、その彼ら独自の民族宗教とでも言うものは何なのでしょうか。

チエンマイの町を歩きながらよく注意してみて行きますと、時として民家の庭先、ホテルの駐車場の隅に小さな祠があり、毎朝そこに花・線香を手向け、合掌している人の姿を目にすることがあります。
これは、サーン・チャウ・ティー(SAAL CAU THII)と呼ばれる土地の神様を祀る祠です。
祠の中に神の御名を記した札さえもなく、神棚の内部は、全くの空間なのです。所によっては、祠の回りに長い髪を両手で梳いている小さな女性の像、小さな象の像、牛の像等が置かれていることがありますが、日本の神棚と同じように仏像などはありません。何故なら、サーン・チャウ・ティーは、仏教とは無関係だからです。

市中で見受けるそれらは、多くはコンクリート製でけばけばしい色を塗られていますが、それでも狭い小路を入った古い民家の庭先を覗いてみますと、一本の木を地面に突き刺し、その上に小さな木製の祠を乗せ、今にも朽ち果てそうでありながらも、そこには供養の花が供えられている場合があります。
田の畦にも一本の木の上に粗末な小さな祠があります。豊穣を祈って神を祀っているのですね。
時には一本の木の柱を地面に突き立て、その頂きより少し下に二本の棒の先端が東西南北に向かうように十字に掛け、柱の頂きと東西南北に向った棒の先に正方形の板を載せ、その五個所の板に夫々小さな祭壇にも似たバナナの葉で出来た入れ物を置き、そこに供養の品物を載せているのを目にすることもあります。
これは頂きがインドラ神で、東西南北は夫々持国天(ケンダルバの長)、広目天(阿修羅の長)、増長天(竜の長)、多聞天(幽鬼の王)を祀ったもので、これはバラモン教世界の四天王に他なりません。
そして、家屋の新築時には家屋の大黒柱となる中心の柱にバナナの幹、椰子の実を結び付けますが、これも仏教とは全く別の地母神に供物を捧げて家屋を建設する許しを乞うものです。そうした気持ちは、まさに日本の地鎮祭にも似ているとは思いませんか。

即ち、タイ人は、仏教とは全く別の何かをも同時に信仰しているのです。それは、我々が知らず知らずのうちに先祖代々伝わる神道に染まり、家屋の中に仏壇と神棚を併せて設置しながら、何の違和感を抱くこともなく、夫々を別々の仕方で供養し、しかも、そうした信仰心を意識しないままに血肉となっているのにも似ています。

我々が今仮の宿りとするタイを含む東南アジア地域が「インドシナ」と呼ばれ、この言葉が「インド」と「シナ=チャイナ」に挟まれた地域を意味することは、誰もが承知している所です。そして、その至るところでインドから流れ込んで来た高遠な精神文明、バラモン教の影響を見ることが出来ます。

インドネシアのバリ島は、劇場国家といわれるまでにそのバラモン教世界をこの現実世界に映し出し、人々は、今もバラモン教世界の様々な神々と共にこの世に生きており、神話の世界を現実化したかのような感じさせします。それが世界中から観光客を引き寄せている魅力でもあるのでしょう。
そうしたバラモン教の影響は、バリ島だけでなく、このインドシナの地域全体に住む各民族の基層文化として今も色濃く残っています。タイ国内に置いてもバリ島程ではありませんが、今も広範囲に、そして、色濃く見られます。

バンコク市内にある巨大なブランコも又シヴァ神に係わるものであって見れば、これもまたバラモン教のものです。バンコク王宮前広場で催される5月の種苗祭は、初めから終わりまでバラモン教の式典です。工場の創業開始式典でもバラモン教に則り執り行われるのが普通です。そして市中にはブラフマン神を祭る祠を目にすることもあるでしょう。
しかしながら、それらはタイ族がこの地に入って来る前から広く浸透していたもので、タイ族が新たに持ち込んだものではありません。バラモン教は、インド人が東南アジアの各地に散らばった時、そのきらびやかな精神世界として伴って行ったものです。
インド人からクメール人に伝えられ、クメール世界の拡大に伴って各地に広がったそうしたバラモン教のきらびやかな世界は、アユタヤ王朝の王の名前にも色濃く見られます。

(続)

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千葉日台さん

いつもコメント有難うございます。
人間が人間である限り宗教は無視できないですね。
日本人は後から来たものを取り込むために先のものと整合性を持たせようとする性癖があるようですね。インドにおける仏教も後世にはヒンドゥーの影響をかなり受けているようですが。
神仏習合はそうした日本人の知恵かもしれませんし、後年キリスト教が入ってくると、カソリックということもあったのでしょうが、聖母マリアを観世音菩薩の化身の様に感じることで受け入れたとも聞いたことがあります。

日本の神道の鳥居は素晴らしいものだと思いますね。
同じようなものが確かコチラの山岳民族の村にもあったような気がします。が、忘れました。

2009/3/20(金) 午前 10:42 [ mana ]

神道の鳥居は、芸術的な形をしてます。ところが、この鳥居が嫌いなキムチ連中が農業新聞記者にいて(金哲珠)、鳥居の写真が新聞に載らなくなりました。

2009/3/20(金) 午後 0:06 [ ちんけいうん ]

ちんけいうんさん

コメント有難うございます。
宗教というものは、民族独自に発展させてきたもので、神道は日本民族と共にいました。それは自然を畏れ、敬うことに他なりません。私たちの祖先はそれを形としては神社とし、鳥居として守ってきました。それを否定することは敵視することを意味し、世界のどの文明国でも決してしないものですが、新聞記者たるものが敢えてそれをなし、新聞社としてそれを容認するとは言語道断と言わざるを得ません。
神罰が下るでしょう。

2009/3/20(金) 午後 3:43 [ mana ]

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日本の神道も土着と言えばそうですね
だが自然信仰は それ自体が歴史なのだから 大事にしてほしいですね 傑作

2009/3/20(金) 午後 4:55 [ 道後 ]

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チエンマイの民間信仰、驚くほど日本の神道と似ているのですね。
興味深い内容です。傑作

2009/3/20(金) 午後 5:28 [ しば ]

水大師さん

コメント有難うございます。
自然を敬い、畏れる気持ちを持っていたいです。

2009/3/20(金) 午後 5:46 [ mana ]

hemulen_civaさん

コメント有難うございます。
もしかしたら、タイ族と日本人の祖先はどこかで巡り合っていたかも知れませんね。同じ様に蒙古班を持っていますから。

2009/3/20(金) 午後 5:48 [ mana ]

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「独自の民族宗教」
やはり自然に出来ていくのですね。

傑作

2009/3/20(金) 午後 8:37 保守の会会長 松山昭彦

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タイにも日本の神道に似た信仰があるとは初耳です。
タイ族も大和民族もルーツは同じでしょうかね??

2009/3/20(金) 午後 8:58 Non

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一言で神様仏様と言うけれど、色々な神様仏様がいるわけで、それを信仰する人間はどういう理由でその神の信者になるのだろう?
昔は種族や部族で1神を崇拝していたので、その中に幾つもの神はいなかったと思いますが、それが崩壊したのにはどんな訳があるんでしょうね
考えても考えても答え無しです 難しい!

2009/3/20(金) 午後 10:41 yuzupon

さくらの花びらさん

傑作ポチ有難うございます。
自然だから民族の血となり肉となるのだと思います。

2009/3/21(土) 午前 5:33 [ mana ]

Nonさん

同じように蒙古班を持っていますね。
ビルマのシャン族の役人がタイ人とシャン族と日本人は昔兄弟だったといいましたが・・・

2009/3/21(土) 午前 5:46 [ mana ]

柚ぽん瑠璃珊瑚晴パパさん

コメント有難うございます。
どういう宗教、宗派、神を信仰するか、それは百人十色で、夫々の宗教・宗派にそれなりの正当性を認めた時にその教えを信じるのでしょうね。
神というものをどう定義するかでしょうね。
キリスト教的、イスラム教的創造主というならば1神ですけど、インドのバラモン教においてはブラフマンという世界創造神がいますが、同時に無数の神々がいます。
霊的なもの、聖なるもの、超人的な自然現象とするならば、自然界にたくさんいたと思いますがどうでしょうか。

2009/3/21(土) 午前 6:02 [ mana ]

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>>>聖母マリアを観世音菩薩の化身の様に感じる

江戸時代の作品で確かそういう像があったと思います。
江戸時代はキリスト教を禁教とした為にキリスト教信者は陰で一見観音様のマリア像を拝んでいたといいます。

ある意味日本らしいです。
日本は宗教に関しては意外と寛容と言うか、曖昧なところもあり、それが調和に繋がっているのかも知れません。

原理主義者からみたら信じられないことかも知れませんね。

2009/3/21(土) 午前 8:17 千葉日台

千葉日台さん

コメント有難うございます。
日本人の宗教の基本には八百万の神がいるのかもしれませんね。ですから他の宗教の神もそんな八百万の神々の中の一つだと・・・
だから日本人は平和愛好家なのかもしれませんね。

2009/3/21(土) 午前 8:59 [ mana ]

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土地神サーンプラプーム(サーン・チャウ・ティー)はタイの土着宗教ピー信仰の一種とされていますが、バラモン教との関係が深いとは知りませんでした。

2009/7/1(水) 午後 5:50 迷えるオッサン

迷えるオッサンさん

コメントありがとうございます。
タイ族は、ピーと言う信仰を持ってきましたが、地母神、豊穣の神と言うのはむしろバラモン教でしょうし、土地の神がいると信じられています。家屋新築時の様子は正に日本の地鎮祭と同じですね。只四天王と帝釈天を祭ることが違う位でしょうか。考えの基本は同じだと思います。

2009/7/1(水) 午後 7:07 [ mana ]

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2009/7/13(月) 午後 9:12 [ おっぱい ]

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元寇の記事へのコメントをありがとうございました。宗教観についてご参考になればとTBポチさせていただきます。
日本人の純粋な神社への畏敬が大イベントを産んだ記事です。

2010/3/12(金) 午前 1:03 熱田北条

熱田北条 さん

コメント&TBありがとうございます。
人間というものは決して完全ではありません。それでも時として何かを成し遂げることが出来ます。人はそれを自らの能力であると思いますが、能力を引き出す為には、様々な要素が絡み合い、それは時に人知を超えたものであるかも知れません。宗教とはそうしたものだと思います。

2010/3/12(金) 午前 5:49 [ mana ]

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