チエンマイの原風景

古書を片手に霧の彼方の古都チエンマイを訪ねる旅です・・・

チエンマイの民間信仰

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史跡に残る仏教

チエンマイの民間信仰−7−

これまでは、タイ族が本来持っている先祖伝来の伝統的・原始信仰に基づく精霊信仰についてその概略を見てみました。そうした原始的な精霊信仰と共に生きてきたタイ人が仏教を受け入れた時、先祖代々伝わり自らの血身となっているピーへの恐れ、畏敬の念はどうなったのでしょうか。

結論を言えば、日本人が八百万の神を捨てることなく仏教を受け入れたようにタイ人の精霊信仰は少しも衰えることはありませんでした。

これから暫く、そんなタイ人(チエンマイを中心とするラーンナー王国のタイ人)が受け入れ信仰した仏教について触れてみたいと思います。
日本人は、往々にしてタイの仏教は上座部仏教であると、いってしまいますが、決してそれほど単純ではない様です。むしろ彼らの仏教はもっとおおらかであったようにも思います。

仏教は、ゴータマ・シッタタという王子が四門出遊という伝説を持って出家し、死を賭した苦行の果てになお悟りを開けず、ネーランジャラー河の辺で村娘の差し出す乳粥で生気を取り戻し、そこで中庸を悟ったといわれます。そして、菩提樹の根方で瞑想して終に大悟して仏陀、すなわち目覚めた人になったのです。
当時の思想自由の風潮の中、釈尊は、自ら悟った法は世俗の人々の理解するところではないとして、一人味わおうとしましたが、インドラ神が降臨して法を説くよう勧請したとされています。

このようにして各地に広がって行った釈尊の御教えですが、その仏教は、インドからスリランカに下り、東南アジア各国に広がったいわゆる南伝仏教と呼ばれるものでした。
そして、中国より南下して来て今の地に落ち着いたタイ族が、先祖伝来の精霊信仰だけを心の拠り所にして南下の旅を続け、このメコン川の辺、コック川の辺、そして、ピン河の辺に都を築いて始めて仏教に接触した、と考えるには余りにも無理があるように思います。

かつて、タイ東北部への入口といわれるナコーン・ラーチャシーマー(NAKHOR RAACHA SIIMAA)という町を旅した時、そこの博物館で、密教で使用する鈷を見て衝撃を受けた記憶があります。
ナコーン・ラーチャシーマーの博物館の中の鈷は、きらびやかなインド文明に染まったクメール王国が西方への勢力拡張に伴って今の東北タイ各地にその足跡を残したクメール王国の残滓でしょうが、数多の石造建築物の他にも、クメールで栄えた大乗仏教が紛れ込んできたものだと想像されます。

又、チエンマイのピン河添いに南に下ったサーラピー郡(AMPHAA SAARAPHII)の「プラノーン寺院(WAD PHRA NOON)」の中にある小さな博物館でウィアン・クムカーム(WIANG KUMKAAM)という廃墟の町から彫り出されたという多数の仏像の中に菩薩像を見た記憶もあります。残念ながら、今その寺院内の博物館は、扉に鍵をかけて外部の人間には解放されていません。

このウィアン・クムカームという町は、チエンマイ建設よりはるかに古い時代、チエンマイの南に栄えたモーン族の国で現在のラムプーンに相当するハリプンチャイ(HARIPHUNCHAY)時代に既に一大集落地でした。ハリプンチャイを中心にして、その北にいくつもの集落があり、それぞれが点のように存在していたのですね、そんな中の一つで今も残っているのがハンドーン(HAANGDONG)という町です。

ウィアン・クムカームの町跡から彫り出された仏像群の中の菩薩像は、どう理解すればいいのでしょうか。何処から来たのでしょうか。
チエンマイより古い町、現在ラムプーン(LAMPHUUN)と呼ばれるかつてのハリプンチャイ王国を栄えさせたモーン族のものでしょうか。それとも、チエンマイに都を建設する以前、二年間に亘ってパヤー・マンラーイがウィアン・クムカームに居を構えていたことがありますので、その時パヤー・マンラーイと一緒にいた仏教信者もしくは僧が建立して拝礼供養していたのでしょうか。

現在のタイの地における仏教は、クメール族、モーン族によりもたらされたと一般に言われており、彼らクメール族、モーン族が敬虔な仏教徒であることに誰も異議を差し挟まないでしょう。そのクメール族は、タイ族が巨大な王国を建設する以前にこの地に住んでおり、それは、古い伝承の中でコーム(KHOOM)と言う言葉で表されています。

そして、タイ族の一つラーウ(LAAW)族の歴史を記した本の中で、不祥の子供としてラーウの国から追放された王子は、川に流されクメールの地で成長し、そこの王女と結婚して帰国の途につきますが、その時、王女は仏教をラーウに伝えたとされています。
しかも、面白いのは、そのクメール王国はかつてカウンディンヤと言うバラモンがインドより渡来して原住民の女王を結婚し、バラモン世界を伝えたとされていますが、同じようにインドからやって来た仏教僧が渡来インド人に布教したとしても不思議はないでしょうし、そう考えて始めてあの絢爛たるアンコール・ワットの仏教文化が理解されるのではないでしょうか。
そこに見られる大乗仏教世界、バラモン世界は、そのまま現在のタイに入り込んだとしても不思議はないでしょう。

一方、同じくインドから、もしくはスリランカ(SRIILANGKAA)から現在のビルマ南部マレー半島の付け根に伝えられた仏教は、モーン族の町々を伝わって広がっていったことでしょう。
今のロッブリー(LOPHBURII)の町、モーン族の町より一人の王女が千人の従者を引き連れて北上します。その王女の名前はプラナーン・チャーマテーウィー(PHRA NAANG CAAMATHEEWII)といい、建設されたばかりのハリプンチャイの初代統治者として君臨するべく、ピン河(MEE NAAM PING)の険しい瀬を流れに逆らって上って来ました。

そして、その従者の中に多数の僧侶が含まれていたことが、この地への正式な仏教伝来と言えるのでしょう。そして、そのモーン族の仏教もまた、今我々が考える上座部仏教一色であったとは考えられないと言う説も出て来るに至って、ますます謎が深まって行きます。

そのモーン族の仏教は、ハリプンチャイで大いに栄え、後年ハリプンチャイを襲って征服したパヤー・マンラーイが、余りにも仏教色が強過ぎるとハリプンチャイに居を構えることを躊躇い、わずか二年にしてピン河を北上した先にある小さな集落ウィアン・クムカームを仮の都とした程でした。

(続)

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aen*u*on99さん

コメント有難うございます。
個人的には、釈尊の教えは難しいものではないと思っています。
中庸という点で言えば、城を出た釈尊は、森に入って苦行するのですが、痩せ衰え餓死寸前まで行っても悟りを開くことはできませんでした。王子として放逸な生活も苦行により自らの体を苦しめ、痛めても悟りに至らないと悟った釈尊は、川の辺で、船上の楽師が弟子に教える言葉を聴いたといいます。それは弦は張り過ぎてもいい音が出ないし、緩みすぎてもいい音が出ないというものでした。こうして苦行が悟りへの未知でないことを悟ったのだと思います。同時に、絶食などの苦行は、辛く苦しいように思うかもしれませんが、実行の仕方がありまして、それに従えばさほど苦しいものであはありません。逆に苦しみを感じなくなりますが、それは危険なことですね。
オウム真理教のことは知りませんが、仏教とは無縁の新興宗教、かと思います。そして、生贄などは釈尊が否定していますよ。原始仏教はむしろ自らの内面の汚れ=欲望を消し去る努力をしたものと思います。

2009/4/20(月) 午前 8:49 [ mana ]

千葉日台さん

コメント有難うございます。
仏教は、インドからヒマラヤを迂回して西域に入り、そこからチベット・中国に行き、日本に来た北方ルートと、スリランカに下り、そこから東南アジア各地に広がった南方ルートがあります。そして北方ルートの仏教は大乗仏教を自称し、南方ルートの仏教を小乗と侮蔑したのですね。ただ南方ルートの仏教のなかでもインドネシアのボロブドール、カンボジアのアンコールワットはいずれも大乗仏教のものですね。東南アジアで何故に大乗仏教が今の上座部仏教に変わったのかは、大変に興味あるところですね。
宗教は民族を離れてありませんから、それぞれの民族の特性により変わって行くでしょうね。

2009/4/20(月) 午前 8:58 [ mana ]

久しぶりです、名前変えました(笑)
ナコーンラーチャシーマーは、ビルばかりの都会・排気ガスというイメージしかありません。9歳の時の記憶ですから仕方ないのですが、新しい印象を頂きました。

2009/4/20(月) 午前 9:41 [ 獨評立論 ]

獨評立論さん

お久しぶりです。コメント頂きまして有難うございます。
あたしが言ったのもかなり昔のことで、乾燥した空気の印象が強いですね。ターウ・スラナリーの像を拝すると再度訪問する機会がある、といわれながら、参拝した後も行く機会がないですね。タイとクメール、ラオスの交差点かもしれませんね。

2009/4/20(月) 午前 10:19 [ mana ]

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キリスト教のことはその広まり方をなんとなく知っているけれど(知ったつもり)仏教の広まり方は知りようも無かったなぁ…
こんな風に広まったんですね。
きっと部族によっても様々な違いがあるのでしょうね。
家に仏壇はあるけれど、「色即是空 空即是色」しか知らないわ。
でも、この文言、好きなんですよ。

2009/4/20(月) 午後 3:51 むうま

むうまさん

コメント有難うございます。
宗教も人と離れて生きていけませんから、民族、風土その他の要素に大きく影響されるのでしょうが、『諸行無常』は変わる事がないのでしょうね。
「色即是空空即是色」は、確か般若心経に出てくる仏教の代名詞のように言われる有名な言葉ですね。日本人の中には『色』の意味を間違える人がいますね。『形』という意味なんですけど、『空』が難しいですね。
いずれにしても、仏教もそう難しく考えることはないのかもしれませんね。

2009/4/20(月) 午後 4:47 [ mana ]

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こんにちは。

ヴィアン・クムカームについては、サラサワディー・オーンサクン著「ヴィアン・クムカーム 〜ガーンスクサープラワティサーソットチュムチョンボーラーンラーンナー〜」という本が大変詳しいです。
私はかなり前に入手したのですが、今でもスリウォンブックセンターとかにはあるかもしれません。基本的にタイ語ですが、一部英訳もついています。

ご参考まで。

2009/4/20(月) 午後 7:14 [ ガネッシュ ]

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こん
∧,,∧
( ^ω^ )
/ φ口o )のぞきにきましたよ〜
しー-J

2009/4/20(月) 午後 9:07 日帰り温泉とグルメ

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こんばんわ。

仏教はその国々で独自な進化を遂げたんでしょうかね?
いつも勉強になります。

2009/4/20(月) 午後 9:11 Non

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なるほど、仏教ってこうやって広がったんですね
私は助けてもらう時だけ神頼みの口ですが、みんなどのような点に共感(信じる)ものがあって入信するんでしょうね
昔から「信じる者は救われる」的な感覚なのかなぁ?

2009/4/21(火) 午前 0:12 yuzupon

ノーンオーンさん

コメント有難うございます。
ご紹介の著書、ずいぶん前に手に入れて読んでいます。
有難うござます。

2009/4/21(火) 午前 6:28 [ mana ]

日帰り温泉とグルメさん

ご訪問有難うございます。
ゆっくりしていって下さい。

2009/4/21(火) 午前 6:29 [ mana ]

Nonさん

コメント有難うございます。
宗教はそれを受け入れた民族の完成にあわせて変わって行くものと思いますが、基本的なものは変わらないのでしょうね。「無常」「無我」「皆苦」などは仏教として捨てられない要素でしょうね。

2009/4/21(火) 午前 6:34 [ mana ]

柚ぽん瑠璃珊瑚晴パパさん

コメント有難うございます。
やはり「溺れる者藁をも掴む」の喩え通りだと思います。
個人的には、宗教にのめり込まず、釈尊の言わんとするところを知りたいですね。大変に納得行くものでありながら、時として世間の仏教が言うところとは違っているようにも感じます。

2009/4/21(火) 午前 6:39 [ mana ]

タイランドの仏教伝播、続きを楽しみにしています。

2009/4/21(火) 午後 0:50 [ ちんけいうん ]

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仏教って色々ですね
わしは真言宗です
傑作

2009/4/21(火) 午後 1:02 [ 道後 ]

ちんけいうんさん

コメント有難うございます。
ご期待の沿えることが出来れば幸いです。

2009/4/21(火) 午後 5:46 [ mana ]

水大師さん

コメント有難うございます。
少しお時間が取れたようですね。
あたしの実家も同じく真言宗です。
傑作ポチ有難うございます。

2009/4/21(火) 午後 5:48 [ mana ]

こんにちは♪

仏教を含め、すごく奥が深いのですね!
勉強になります。
私にはまだ難しいので、すこしづつ理解していけたら。。。
そう思っております。

2009/4/21(火) 午後 6:18 [ - ]

KOMOMOさん

コメント有難うございます。
これからもお時間がありましたら覗いてみて下さい。
宜しくお願いします。

2009/4/22(水) 午前 4:54 [ mana ]


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mana
mana
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