チエンマイの原風景

古書を片手に霧の彼方の古都チエンマイを訪ねる旅です・・・

チエンマイの民間信仰

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チエンマイの宗教改革

チエンマイの民間信仰−9−

特別な意図も目的もないまま移動の旅の中で接触し、染み込んでいったであろう仏教、整然と整理されないままいつの間にか民族の中に入り込み、信仰されていた仏教は、先祖伝来の固有の宗教である精霊信仰を排除することなく、何の違和感もないまま人々の間に信じられてきました。
長い時の中に続いて来た流浪の旅が終わりを告げ、メコン河の辺の豊穣の地に定住した人々は、先住民との戦い、北部より押し寄せる中国との脅威に耐えながら、自らの国を建設してきました。

中国の脅威を避けるように更に南下のたびの末にピン河の原流域に進出し、遥か南に栄えるモーン族の国を望みました。そして、謀計を持ってハリプンチャイを滅ぼしたタイ族は、ここに不動の都を建設することになったのでした。

王国の基礎が固まり、内憂外患が失せた王国の王が質的な充実を図ろうとするのもまたあり得る話です。

こうして宗教界には、大きな曲がり角を迎えることになります。
歴史を遡ってみますと、ラーンナー王国は、その初期、マンラーイ王朝の時代の260余年の間に二度に亘って大きな宗教改革とも言える変革期を迎えています。こうした宗教の変革は共に国王の強力な指導力と王国の不動の敬意がその後ろ盾になっています。

こうして自らが引き摺って来た仏教、クメールが残した仏教、モーンが伝えた仏教、これらを漠然と受け入れて来たマンラーイ王朝は、仏教を国家宗教としていくのです。
そして、その二度の変革はいずれも王の権力が強大であった時代のことで、いずれの場合にも、ラーンナーの圏外より新しい教義を導入し、新しい宗派を作っています。

時にマンラーイ王朝第6代目の王パヤー・クーナーの時代、サワンカローク(MUANG SWANKHALOOK)の町に一人の僧がいました。この僧はスマナ・テーラ(PHRA SUMANA THEERA)と言い、チエンマイの名刹の一つドーイ・ステープ寺院(WAD DOOY SUTHEEPH)、スアンドーク寺院(WAD SUANDOOK)の歴史を語る時、避けて通ることの出来ない僧侶です。
師の経歴については、ドーイ・ステープ寺院の歴史を見る時に述べてきましたので、ここでは、言及しません。師の名声がラーンナーの地にまで響いて来ると、パヤー・クーナーはチエンマイに招聘し、自らの離宮「ウィアン・スアンドークマイ(WIANG SUAN DOOK=花園の町)」を寺院に改修して師に献上するまでになります。

これが「スアンドーク寺院」に他なりません。

こうしてチエンマイにやってきたプラ・スマナ・テーラが、この地にバーリー語の経典ををもたらしたのですが、ではそれまでの寺院ではどんな経典を使用していたのでしょうか。大いに興味あります。
師は、かつて現在のビルマ南部の町であるモーン族の町で師について仏教を学んだとされており、従って、師のもたらした仏教はラーマン派(NIKAAY RAAMAN=モーン派)と称されました。
そして、パヤー・クーナーは、僧たちに命じてスマナ・テーラのもとで出家徳度の儀式をやり直させる程師を応援しました。当然この新たなラーマン派、もしくは、スアンドーク派(NIKAAY SUAN DOOK)は、王の庇護の下で急速に栄えて行きました。

系統だった仏教教義がラーンナーの各地に広がると、僧たちの就学に対する関心が大いに高まり、更なる知識を求めるようになったのでしょうか。
次いで、パヤー・クーナーの孫に当たるマンラーイ王朝第8代目の王パヤー・サームファンケーン(PHYAA SAAM FANG KEEN)王の時代、チエンマイの僧は、多くスリランカに渡り、真の仏教なるものを修学して持ち帰りました。

それはかつての遣唐使船で渡航して中国より最新の仏教経学を持ち帰った多数の留学僧にも似ています。彼らはスリランカで出家し直し、修学に努めた後、二人のスリランカ僧と共に帰国して来ました。こうした留学僧がもたらした最新の仏教経学がやがてラーンナー王国に仏教文化の花を咲かせることになるのです。
その頃の帰国留学僧はパーデーン寺院(WAD PAAFEENG)に住したことから、この派はパーデーン派(NIKKAY PAADEENG)と呼び習わされました。

そして、こうした仏教文化隆盛を背景にして、その次の王プラチャウ・ティローカラート(PHRACAU TIROOKARAACH)の時代の仏暦2020年、 チエンマイの地において仏教史上最重要行事が持たれました。即ち、第八回目の仏教経典編纂会議である第八回結集(SANGKAAYANAA)です。約1年を要して教典を編纂をした場所が、チェット・ヨート寺院(WAD CED YOOD)と呼ばれるポーターラームマハー・ウィハーン寺院(WAD PHOOTHAARAAM MAHAA WIHAAR)です。

こうして、様々な形で仏教を受け入れて来たラーンナー王国ですが、決して、先の仏教が後の仏教に置き換わることもなく、共生しながら伝わって来たことは、日本仏教と同じです。そして、時代の流れの中で少しずつ変化し、そんな変化が大きくなった時、又は、何らかの必要性が生じた時、新たな流れが入ってその変化を和らげていったのでしょうか。宗教が人によって受け継がれて行く以上、時代の中で変化して行くことは避けられず、今もまだ変化していっているのかもしれません。

こうしたバーリー語に通じた僧たちの出現、仏教教学の発展を下地に、チエンマイの地にいわゆる仏教文学の花が開く時代を迎えました。その代表ともいえるのがプラ・シリマンカラーチャーン師(SIRIMANGKHALAACAARY)でしょう。今師の像は、ナワラット橋の麓プッタ・サターンと呼ばれる施設の隅にひっそりと立っています。

こうした仏教隆盛時代の文学作品ともいえるのがロッチャナパンヤー師(ROCHANAPANYAA)の著書チンカーンマーリー(CHINKAALMAALII)であり、シヒン仏の伝記であるシヒンカ・ニターン(SIHONGKHA NITHHAN)です。しかも、現在ナコーン・シータムマラートを中心とするタイ南部地方の伝統芸能とされる「マノーラー(MANOORAAH)」もまた、実はチエンマイの無名の僧が仏暦2038−2068年の間に記したとされる「パンヤーサ・チャードック(PANYAASA CHAADOK)」の中に記されているといわれています。
この書は「チャードック(CHAADOK=ジャータカ)」と仏生譚の形をとっていますが、仏生譚でもなければ、経典より来ている物でもありません。仏生譚の形をとった師の独創による文学作品です。

(続)

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進歩とは破壊ではなく創造であるというのは仏教ならではの寛容性なのかも知れません。
今の仏教、日本でも色々と言われていますが、お釈迦様がご覧になったら驚くかも知れませんが、進歩をしていると言うことでわかっていただける感じがします。傑作

2009/4/28(火) 午前 7:12 千葉日台

千葉日台さん

仏教に破壊は似合いませんね。それは、釈尊が議論を避けていたことから来るのかもしれませんね。釈尊は他の宗教を決して否定していませんし、一説では釈尊自身新しい宗教を打ち立てた考えもなく、指導者である意識もなく、ただ一人の道の人として生涯を過ごしたようです。

2009/4/28(火) 午前 8:26 [ mana ]

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もともと自然に生まれた原始宗教が、優秀な哲学(思想?)者によって何とか教にまとめられ、やがてその時代の権力者の政治に利用されて、協会も大きな権力を持つようになるのは、世の東西を問いませんね。
宗教って結局なんなんでしょう。
私は「万物に精霊が宿る」ので充分だな。

2009/4/28(火) 午前 10:00 むうま

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こんにちわ。しばらく伺えずにすみませんでした。

じっくり読ませていただきました。

2009/4/28(火) 午前 11:56 Non

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宗教、道徳、倫理、哲学など、何処に境目があるのでしょうか、難しい問題ですね。どれも、最終目的とする所は同じような気がします。
(関係ない話で申し訳ないですが、貴女はとても文才がおありですね。漢字の使い分けもきちんとされて、簡潔で立派な文章だと思います)

2009/4/28(火) 午後 3:45 若紫

むうまさん

コメント有難うございます。
面白いのは、釈尊は、どうやら自分は新しい宗教を開いたという意識がなかったようですね。ですから、当時インドで百花繚乱のごとく様々な新思想=宗教が起こった中で、釈尊一人そんな新思想との議論を避けたのでしょうね。釈尊はある宗教が完全であるならば、他の宗教はあり得ない、また無価値であるならば信者を獲得し得ない、という考えだったらしく、そうした自己正当化のための議論の無意味を知っていたようです。釈尊自身は古人の正しいということを正しいとし、悪だというものを悪だとしていたようですよ。
釈尊の説いたことは、悪いことは止めなさい・・・ただこれだけだったのかもしれませんね。
宗教とは信じることでしょうね。

2009/4/28(火) 午後 5:11 [ mana ]

Nonさん

ご訪問有難うございます。
ごゆっくりして行って下さい。

2009/4/28(火) 午後 5:12 [ mana ]

若紫さん

コメント有難うございます。
最後は人間如何に生きるべきか、なんでしょうね。ただ、人間悪いことをしてはいけない、良いことをしなさい、他人を傷付けず、他人のものを盗まず、騙さず、これも道徳の徳目のようでもあり、倫理のようでもあり、そして宗教の教義のようでもありますね。

自分ながら拙文であることを恥じて本名を出すことすら憚っているほどですから。お褒め頂いてどうコメントを返していいか戸惑っています。
ただ、若紫さんのように言葉の素養ある人にお褒め頂いたことを励みにこれからも頑張ります。

2009/4/28(火) 午後 5:26 [ mana ]

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記事を読んでいて、井上靖の「天平の甍」という小説を思い出し
ました。遣唐使船で鑑真を向かえる2人の僧侶のお話です。
タイへの仏教伝道の際にも、熱心な修行僧の様々なドラマがあった
のでしょうね(*´∇`*)

2009/4/28(火) 午後 9:06 [ しば ]

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宗教って今までに一体幾つあったんでしょうね
今でも数えきれないほどあると思いますが、それぞれの宗教を信じる人がいるわけで
宗教の何が人を引き入れるんだろう?
そもそも宗教とはなんなんだろう?
前から疑問符?がついたままになってます

単純に人間が物事を信じやすい(言葉は悪いけど騙されやすい)だけなんでしょうか?

2009/4/28(火) 午後 10:08 yuzupon

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宗教って本当におくが深いというか難しいですね・・・
日本では天皇教みたいなので 本当の意味の宗教は入ってきてないかもしれませんね
ん〜〜〜難しい 自分で何を言ってるのか・・・
傑作

2009/4/29(水) 午前 1:06 [ 道後 ]

hemulen_civaさん

コメント有難うございます。
宗教は、時として人に狂気を発しさせて思いもよらないことをさせます。生命の危険があろうとも、いかなる障害があろうとも、彼らの意思を止めることは出来ないのでしょうね。ちょうどチエンマイの隆盛期、宗教に目覚めた人たちは生命の危険を賭してでも遥か見たこともない海の向こうの国に経典を求めて旅立ったのですね。

2009/4/29(水) 午前 5:53 [ mana ]

柚ぽん瑠璃珊瑚晴パパさん

コメント有難うございます。
宗教が「信じる」ことであるならば、人の数だけの宗教があるのかもしれません。同じ宗旨・宗派に属しながらも、そこに求めめるものが異なるならば、それぞれ同床異夢の別宗教かもしれませんね。ですから、そこである人が出て別の宗派を打ち立てることがあるかもしれませんね。人それぞれが求めるものを差し出す宗教、宗旨・宗派が出ればそこに自らの寄る辺を見出すと、盲信することになる可能性があります。ですから、何かを信じること、盲信することである意味心の安らぎを得るのかもしれません。宗教にのめりこみ盲信してしまった人は、ある意味幸せですね。もう自分で考える必要がないですから。その宗教、宗旨・宗派の中に全ての答えがありますから。故に他の人から見れば危うく見えますし、他の宗教、宗旨・宗派を異端視することになります。ただ人間と宗教は切り離せないでしょうね。求めるものが得られず、心に不安を抱き、悩み、苦しみがある限り、宗教は行き続けるでしょうね

2009/4/29(水) 午前 6:11 [ mana ]

水大師さん

コメント有難うございます。
日本の素晴らしいところは、接触し、積極的に引き入れたとしても、決して他のものに染まらないところではないでしょうか。日本人は、古来より受け継いできた自然を守ること、そこに神聖なものが宿ることを信じ続け、それを様々なお祭りの中で表現し続けてきました。文字を持ってきてはひらがな、カタカナを作り出し、宗教もまた見事に日本的に融合させて神々との調和を作り出しました。西洋文明を受け入れても決して「日本」を捨てませんでした。それは、日本人が自らに自信を持っていたからです。ですから、日本人からその自信を失わせると恐ろしいことになります。日本人が日本に疑問を抱き、不信に陥り、否定的になると、日本の社会のみならず民族は崩壊してしまうでしょうね。恐ろしいことです。

2009/4/29(水) 午前 6:21 [ mana ]


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