チエンマイの原風景

古書を片手に霧の彼方の古都チエンマイを訪ねる旅です・・・

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カントーク・ディナー
 
閑話休題−107−
人と動物の結び付きは、有史以来深いものですが、そこに出てくる動物はその民族の周りに通常見られるものなのでしょう。共通するものもあれば、まったく日本の昔話には出てこない動物もあります。人々は、そうした動物を観察してその特徴を覚え、日常生活ではそれが生活の知恵となり、物語の中では、それぞれの動物の役割・性格に反映されます。
猿蟹合戦、狐のお話、かちかち山の狸、わが郷里讃岐の禿狸、それぞれに面白いものですが、ここには象が出てくることはありません。ところが、日本人は案外に早く象を目にしていたのでしょうが、鳥獣人物戯画の中に象らしい動物の絵があると言われ、その後もいわゆる献上品として幾度か東南アジアより日本に送られてきているようです。しかし、何といっても象といえば「群盲象を評す」という諺でしょうか。象の実態を知らない盲人三人が、それぞれに象の鼻、脚、胴に触れてそれぞれ象とは…と評するのですが、正しくはありませんが、すべて間違いでもないですね。
そんな動物たちを観察しながら、夫々の性格を表すのですが、そこに民族性が感じられるようです。
日本にははるかな昔、因幡の白ウサギがいました。このウサギは和邇を騙して皮を剥がれ、八百神に罰せられ、最後に大穴牟遲神に助けられます。では、タイの昔話の中の白ウサギはどれほどうまく騙すのでしょうか。
 
ウサギ・・・あんたは偉い?
 タイの昔話に出てくる動物も日本の動物と同じように言葉を話します。しかも種族を超えて通用する共通の言語をもっていたようです。そんな彼らは仲良く、互いに喧嘩などすることなく平和に暮らしていたといいます。それが釈尊の時代であれば尚更でしょう。
大きな動物は、小さな動物をいたわり、小さな動物は大きな動物を敬していたのでしょう。ある日のことです。森の中の猛者ともいえる虎と象が仲良く揃って歩いていました。どうやらこの二頭は気が合うらしく、しばしばこうして森の中を散策していたようです。その頃、森の中にはコオロギ、キリギリスなど小さな虫たちの鳴き声が響き渡って煩いほどでした。そんな仲のいい二頭ですが、煩いほどの虫の鳴き声に辟易した二頭は、どちらが大きな声を出して、あの煩い虫たちを黙らせるか、ということの言い合いになり、互いに自分こそがこの森の中で一倍大きな声を出すと言って譲りません。
そこで、二頭は吠え比べをして、煩い虫たちを黙らせた方を勝ちとすることにし、負けた者は勝者の餌になる、そんな途方もない賭けをしました。まず、虎が両脚を力の限り踏ん張り「ウォー…ウォー…」と天に向かって叫ぶと、森中の生き物という生き物は息を潜め、広大な森が一瞬にして沈黙の世界に変わりました。そして、しばらくの後、森にはまた同じような虫たちの喧騒な鳴き声が満ちました。虎は、意気揚々と数歩横に移って象を促します。象もまた渾身の力を振り絞り、長い鼻を上に上げて「ウァーン…」とやや甲高い声で叫びましたが、虫たちの泣き声が鎮まることはありませんでした。
象の負けです。今にも虎が約束通り象に飛び掛かろうとしますと、「虎さん…7日だけ心の準備の時間をくれ」と7日の猶予を求め、虎も了承しました。7日の後にはない命です。象はそれを如何に解決するのか昼夜を分かたず考えても虎の餌になることから逃れる術を見出し得ませんでした。好物のバナナを見ても食欲もなく、水辺で遊ぶ仲間を見ても一緒に遊ぶ気力もなく、日々生気を失っていくばかりでした。
かくして5日が経過しましたが、どうにも考えつきません。
そんな時です。旧知の小さなウサギが飛び出してきました。ウサギは、いつも堂々としている象が力なく、心なしか痩せてさえ見えると、つい心配のあまり聞いてしまいました。
「象さん…どうしたんだい。しょんぼりして、元気ないじゃないか」
「困っているんだ」
象の声はもう話す力さえないほどにか弱いものでした。ますます心配になったウサギが重ねて尋ねました。
「何を悩んでいるんだい、もしも俺で出来ることなら何でも手助けするよ」
そこで、象は虎との賭け事を話しました。
「実は、5日ほど前に虎さんと吠え比べをしてね。負けたんだよ」
「5日ほど前…そういえば、森中の木々が揺れる事件があって虫たちが驚いていたっけ」
「そうさ、あれは虎さんとの吠え比べだったんだが、負けたんだよ」
「…」
「それで、虎さんに食べられることになったのさ。虎さんは、明後日にはおれを食いにやってくるのさ。だから怖くて何もできないし、生きる力さえないのさ。」
「なんだ…そんなことだったのか」
ウサギの声は思いのほか明るく、象の心配など全く意に介していませんでした。明るく象にいいました。
「簡単なことだよ…象さん、あんたは、何とか100キロの石灰を用意できるかい」
「まあ、出来ないことはないけど…」
半信半疑で答える象に「明後日ここで会おう」それだけ言うとどこへともなく森の中に消えました。
約束の時間、象が用意した100キロの石灰を象の全身に塗りつけて真っ白にしてしまったウサギは。象の首の上にチョコンと飛び乗ると、虎さんが出てくるのを持ちました。
「象さん、絶対に動いちゃダメだよ」
象の背から眺める森の様子は驚くほど広いものでした。そんな広い視野の中に虎の姿を捉えました。悠々と近寄る虎さんを見ながら、威儀を正した白ウサギが一言誰にともなく告げて言いました。
「象を食べてみたが、今一つ腹が膨れない。一つ次に虎でも食ってみるか…」
それを聞き、全身真っ白の巨大な壁のように立ちはだかるウサギを見た虎は、その異様に膨らんだ腹の形が象にそっくりであることから、ウサギの言葉をそのまま信じました。全身に恐怖が走ると、「こうしちゃおれん…逃げるにしかず」一目散に駈け出しました。
森の中を疾駆する虎を木の上から見ていた猿が驚いて聞きました。
「どうしたんだい、虎さん…そんなに慌てて」
「奴は象を食っても食い足りず、虎を食いたいんだと」
象を食って尚虎を食べたい動物などこの森にいた試しがありません。猿がそこで虎さんに聞きました。
「奴って誰のことだい…良かったら話してくれないか」
「小さな奴なんだ。村の飯炊き用の鍋みたいなんだが、象と虎を丸呑みできるんだと」
そう聞いても、猿は信じられませんでした。猿の長老たちの話の中にそんな生き物がいまだかつて現れたことがないからです。
「試しに奴を見せてくれないか」
虎の背中に飛び乗った猿が言いました。それを聞いただけで既に虎の全身がワナワナと震え出し、背中から振り落とされそうになった猿は、思わず両手で虎にしがみつきました。
「猿よ、お前は危険になれば木に飛び移れば安全だが、俺は食われるんだぞ」
「大丈夫さ…逃げたりしないから…虎さんの背中にわしの体を縛りつけよう」
猿は、近くの木から一本の細い蔓を千切ってくると、自分の体を虎さんの背中に縛り付けました。
そこまでされるとさすがの虎さんも逃げることもならず、恐る恐るあの白い化け物に出会った場所に向かって行きました。森の中に響く虫たちの泣き声すら、虎さんを憐れんでいるように聞こえると、虎は生きた心地がしませんでした。
やがて、先ほどの場所に来ると、あの化け物がまだいました。
「象を食っても食い足りん。あそこにいるのは、虎と猿か。よし、今度は虎と猿を食ってみよう」
その声を聞くと、虎は背中の猿のことなど忘れ、心臓が減り避けるかと思うほどただ只管その場を離れようと駆け出しました。トラの背中では縛られて自由を失った猿の体が前後左右上下に激しく揺れると、あちこちの木々に頭を打ちつけ続け、ボコボコ、ゴツゴツという異様な音だけが虎の後を追ってきました。
どれほど駆けたのでしょうか、風景すら一変して森を出ていました。
背中では、猿がぐったりして背中にもたれかかり、その目は大きく見開かれ、牙を剥き出してさえいました。
猿がすでに死んでいるとも気付かず、虎が言いました。
「こいつめ。笑ってる場合か…俺はクタクタで死にそうなんだぞ」
 
この物語は、虎さえコウトンモンの言葉を知っている、ということを言っている。そういうのですが、ならば、この話はずいぶん新しいものです。
早い話が、その場の雰囲気を一瞬に和める、ということでしょうか…???????
 
(了)
アッチャラー・ワンナエーク著「ラーンナーの民間伝承物語」に収蔵されている「虎、象、兎、猿」より題材をお借りしました。
冒頭の写真は、カントーク・ディナーという北部タイ・ダンスを見ながらの食事に供されるものですが、写真にある御膳?をカントークと呼びます。
動画は、チエンマイの某カントークディナー・レストランで演じられているクジャクの舞です。
 

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おはようございます。

とても不思議で、楽しいお話しでした。
ありがとうございます。

傑作

2011/6/17(金) 午前 6:51 [ - ]

mana さん
おはよう御座います
カントークっていうお料理なんですね
本格的タイ料理って感じですね
踊りも優雅な舞という感じがして興味深くみさせて頂きました。

2011/6/17(金) 午前 7:00 [ - ]

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咄嗟の機転で困難に打ち勝てるという勇気をもらえる話でしたね。
民主党により日本は国難です。
何とか打開策が必要です。

2011/6/17(金) 午前 7:20 よかもん人生

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動物たちの会話には人の感情が入っているのでしょう。
そういえば日本の童話も動物たちが色々と行動しますが、人の行動の投影ですよね。写真の料理は辛くておいしそうです。
傑作

2011/6/17(金) 午前 7:44 千葉日台

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機転がすべてを解決するというお話しですね。
動物の話にするところもワンクッションあって子供にも受け入れやすいし、
童話って生きる知恵のようでもありますね。
傑作

2011/6/17(金) 午前 8:49 [ -- ]

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フンフン、政治家に読ませたい記事ですP

2011/6/17(金) 午後 0:54 株式会社セロリの管理人

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小さなものも知恵次第では大を飲み込める!
外交も同じでしょうね(^^;;;;
いまみたいな日本の政治屋じゃだめでしょうが・・・
傑作です

2011/6/17(金) 午後 1:09 [ ATS ]

仰せのように日本に始めて像が来たのは江戸時代の只中、ベトナムの王様がわざわざ航路はるばる像を送ってくれのが最初のようですね。
アジアの絆の深さを感じます。


傑作

2011/6/17(金) 午後 2:15 [ 彩帆好男 ]

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力のみに頼る事は知恵に及ばないという事なのでしょうか。
おかしな争いを起こさなければ皆が笑って平和に過ごせるのですけどね^^;

★!

2011/6/17(金) 午後 4:43 ジョウジ

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カントーク・ディナー
美味しそうですね・・・

傑作です

2011/6/17(金) 午後 6:46 red

世界各国、動物を用いたいろいろなお話しがありますね。

イソップなど日本では「めでたしめでたし」ですが、実際には恐い終り方が多いです。

傑作○です。

2011/6/17(金) 午後 8:21 近野滋之

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ははは 見る物すべてをそのまま信じるとこんな事になるんですね
うさぎさん、頭いい!

2011/6/17(金) 午後 10:38 yuzupon

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ウサギの知恵がわしに欲しい・・・

2011/6/18(土) 午前 0:46 [ 道後 ]

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日本でも、カチカチ山のように、うさぎは知恵ものですよね。
実際にはひ弱で捕食されるだけの力のないうさぎを、昔の人は物語の中だけでも、弱くても知恵のある勝者にしてやりたかったのでしょうか。
傑作

2011/6/18(土) 午前 11:41 [ さざんか ]

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頭痛は万病の元です。どうかゆっくりとご休息してください。激痛がはしるということはくも膜出血なども考えられますので何卒ご自重ください。病院での検査も必要かと思います。無理せずにゆっくりとご静養くださいね…。

2011/6/20(月) 午後 7:04 madeinpuyuma

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こんばんは
国が変わると動物の性格も変わるみたいですね
そう感じました^^)

傑作○

2012/3/29(木) 午後 10:05 あまのじゃく

こんばんは。
小さなものも知恵しだいで大きなものに勝てるといったところでしょうか。今の日本もそうなってほしいものです。傑作。

2012/4/11(水) 午後 6:37 サラ


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