チエンマイの原風景

古書を片手に霧の彼方の古都チエンマイを訪ねる旅です・・・

水底に消えた王国

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続・白い鰻の祟り

−続・白い鰻の祟り−水底に消えた王国(6)

伝承は、どれほど詳細に尤もらしく述べていても所詮は伝承ですから、それが真実である…などとは言えません。でもね、全くの出鱈目…というのもあんまりじゃないですか。伝説・伝承の中にも何がしかの真実が隠されているのよ、きっと。だから人々に支えられてきているのだと思うの。このお話だって、タイ族が少なくとも今の場所とは違うどこかからやって来た、そして、先住民たちと時に共存し、時に争いながら徐々に地盤を強固にして行った、とだけ考えれば納得できるんじゃないかしら…そして…

巨大な鰻を見た村人たちは大声で人を呼び集め、大騒ぎの末に捕らえたの…
誰もが力を出し合って手に入れた巨大な白い鰻なんですが、それをどうしようかとなったとき、村人たちは自分たちだけで分けよう…などとはしなかったみたい…。やはり『白い』からかしら、砂糖椰子の幹ほどもある巨大な白い蛇を苦心の末打ち据え殺して捕らえた村人は、躊躇うこともなくそれを引き摺って行って王様に献上しました…とさ。
王様のマハーチャイチャナは生まれて一度も見たことのない巨大な白い鰻にどれほど感激したことでしょうか。残念ながらその時の彼の言葉は伝承に残ってはいないの…
でも…彼はそれを独り占めするほど吝嗇家ではなかったみたいよ。勿論、一人で食べきれるほどではなかったでしょうけどね。でも、マハーチャイチャナは白い巨大な鰻を目にしても、そこに神聖なものを感じなかった所が不幸の始まり…。ここに悲劇が生まれた…のでした。
彼は、寛大な気持ちでその白い鰻を切り分けると、住人たちに分け与えて皆で分けて食べることにしました。刺身…にはしなかったでしょうけど、鯵のたたき宜しく鰻のたたきにして芥子、大蒜をたっぷりといれたラープを作って食べた人がいるかもしれませんし、炭火焼で食べた人もいれば、スープを作って食べた人もいたかも…ン?
兎も角、その日の夕食は、ヨーノックの町中の全民家で思い思いに鰻料理を作ったものですから、町中が鰻の美味しい匂いに包まれました。そして、それは多分村人たちの誰一人として生涯口にしたことのない美味だったのでしょうが、結局、これが彼らの『最後の晩餐』になったの。
でも、世の中には得てして例外、というものがあるようで…ここに一人だけ鰻料理の相伴に預からなかった人がいました…奇跡。
町外れのみすぼらしい掘っ立て小屋に住む一人の老女だけは、どうしたわけか、美味しい鰻料理の御相伴に預かりませんでした。それでもひがんだりはしなかった…ようよ。少なくとも伝承には載ってないわ。残念ながら彼女の名前も残ってないのね。

その夜、町中の誰もが美味しい鰻料理に舌鼓を打っている頃、そんな老女の所に見るからに高貴な感じの一人の美成年が現れました。若者はお婆さんに一口の食と休息の場を求めると、お婆さんは快く受け入れて貧しいながらも出来る限りの食事を調えました。
差し出された粗末な食事を口に運びながら聞きました。
「この町にはいい匂いが満ちているが、何を食べているんだい」
「鰻を食べているんじゃよ、若いの」
「で、どうしておばあさんは食べないの」
「わしには子供も親戚もなく、連れ合いもずっと前に亡くなった一人身で、誰も持って来てくれる者がいないんじゃよ、若いの。だからこんな粗末なものしかないワイ」
「それでいいんだよ」
若者は、そう言うと続いて
『どんなことが起こっても俺が帰って来るまで決して外に出てはいけないよ』
と謎の言葉を残して外に出て行きました。

その夜、未だ宵の内に天地をひっくり返すかのように大地が揺れ、天空を引き裂く雷鳴が轟きました。老女は、恐怖の余り飛び出そうとしましたが、先ほどの若者の言葉を思い出すと、恐怖に足が竦みながらも辛うじて小屋の中に止まりました。
暫くすると静寂が戻り、いつもの夜に戻りました。
睡魔が襲う深夜、先ほど以上に大地が再び激しく揺れ、大音が轟きました。魂も消えるかと恐怖する老女は、若者の言葉を信じてそれでも小屋から出るのを必死に堪えました。
やがて大地は静まり、唸る様な地鳴りの音も消え失せました。
そうして夜明け前、三度大地が揺れ、大音が轟き、これまでの二回以上に激しく恐怖を誘うものでした。恐怖に襲われた老女は終に耐え切れず、若者の言葉も忘れ、部屋を出てしまったの。
おばあさんは、階段口に立って愕然としました。
といって老女が二階建ての家に住んでいたのではありません。タイ人の伝統的家屋は高床式で、階段を上がっていかなければ建物の中に入っていくことが出来なかったの。それは道端に立つ粗末な掘っ立て小屋もまた同じようなつくりでした。
だからおばあさんは、部屋を出て地面に下りる階段口に立ったのね。
老女は、目の前にある筈の見慣れた町の光景が消え失せ、一面に水が満ち、町は水に飲まれて巨大な沼と化し、自らの小屋がその沼の中にポツンと立っていることを知りました。
町は水の中に呑まれ、巨大な沼となっていたのでした…。ああ〜〜

(続)


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