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天孫降臨物語(1)−伝承本について−
これまで『水底に消えた王国』と題してシンハナワット伝、ムアン・チエンセーン伝を中心とした伝承本を基にして、遥かな昔に水の底に沈んでしまったといわれる古の王国の極々省略したお話を記してきましたが、お気に入りました???ハハハ…気に入るわけないじゃん…ネェ。何処にあるのかもしれない他の国の御伽噺なんて…ネェ。
でも、そんなこと言わないでよ。これでも、あたしなりに昔のチエンマイの文字で書かれた伝承本をタイ標準語の文字に置き換えた文章を苦労して何とかここまでやってきたのよ…その苦労だけでも買って…お願い。
ところで…話変わって…
『白い鰻の祟り』で水没したと伝承に残る古い時代の町の名前を『チャーンセーン』という言葉で表してきました。これに対して疑問を覚え、異議を唱える人がいるかもしれませんね…それは『チエンセーン』なんだ…と。だから『チエンセーン』は最も古い町なんだ…と。もしくは『チャーンセーン』なんて町の名前は聞いた事がないし、似た言葉では『チエンセーン』で、古い町らしいからそれだろう…そう思った方もいらっしゃる…かな?でも、間違いではないんですよ…本当に『チャーンセーン』なんですよ…伝説では…ね。残念でした。だって、ここでは伝説の中のお話なんですから…
少なくとも伝承本ではそのように書き表しているんですから、あたしのことを頑固者だとか訳知り顔の厚顔無恥なんておっしゃらずに、深く考えずに聞き流して下さいね…本当に、あの白い鰻の祟りで水底に沈んでしまった町は、確かに『チャーンセーン』なんです。少し弁解させてくだサ〜イ。
タイには『タムナーン』と呼ばれる古い伝承本が世間に出回っておりましてね。勿論『御伽噺』ではないのよ…みたいけど…ネ。これはね、昔のチエンマイの古い文字―『ラーンナータム文字(AKSOR LAANNAA THAM)』と呼ばれるもので、現代のタイ標準語の文字とは全く別のものなのね―で掛かれたものが今も各地のお寺にあるの。最も余り手入れされていないみたいだけど。これは、『ラーン(LAAN)』というタラバヤシの葉を乾燥させ、そこに金属で文字を刻み付けるの。そしてその刻みつけた溝に墨を擦り込んで余分なものを吹き払う。そうして出来たたくさんのタラバヤシの一枚一枚を順序良く重ねて紐を通して『冊』とするの。まあ、早い話が昔の帳面ね。タラバヤシの葉に刻んだものだから何度も書き換えていかないと虫に食われ、綻びてしまうのね。それ以上に手入れを怠ったりするともうタイヘン…。今では大学でマイクロフィルムに収めて何とか各地の寺院の残るそうした伝承本を保存しようとしているらしいけど、何処まで確認・保存できることやら…学者の先生…ご苦労さん…
これが『バイラーン(タラバヤシの葉-BAI LAAN)』と呼ばれるものなの。
その他にも古いお話を書き残したものとしては『コーイ帳(SAMUTHR KHOOY)』といって、コーイの木の樹皮から作った紙に文字を書いていたらしいの。日本の和紙みたいなのかしら?でもね、今チエンマイの郊外の観光地では紙を張った傘が有名(西洋人にはね。日本人、いや、あたしの感覚としては余り質が…ね〜)ですけど、あれは『サー(SAA)』というクワ科の木の樹皮から作るものなのね。作り方は和紙と同じじゃないかしら…工程に興味があれば、サムカムペーンという町に行けば工程を見せているんじゃないかしら?今も。でも即興でペイントしてくれるんだけど…それは結構イケテル…と思う。夫々の職人に得意の絵があってその見本を足元においてるわ…多分…今も…
こうしてマイクロフィルムに保存されている古い伝承本を現代の標準タイ語文字に置き換えたものが市場に出てくるわけね。それだと所謂現代的な『本』ですから、それほど読み辛くもないのね…。デモね、それも余り冊数がないのよ…だって、市場がそんなに大きくないもの。いや、とっても小さいのよ。だってそんな昔の真偽定かでない話を読むよりも御金持ちになる方法の本を読んだほうがいいじゃない…違う???
そんなある種貴重な伝承本を偶然に書店で見つけてきていたのを読みながら、こうして拙い文章を書いて満足しているの…あたしってヘンかしら?やっぱり疑いようもなく変人よねえ…
でもね…恋の痛みよりも誰も知らない、現代の誰にも直接関わらない昔の御話の方が心傷つくことないのよ…
誰だって過去を引き摺って生きているのよ…
でも、その過去も遥かに遡れば誰も知らない世界なの…
そこに旅して思いのままに空想の世界で遊ぶことは、現代の人々の汚れた心で傷つけられるよりましじゃないかしら…?
それでも、そんな昔の伝承本の中に秘められた人々の悲しい性を見ると今も昔も代わらないのかなあ…と思ったりするんだけどね…
(続)
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