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パッ(ト)・タイ(phad thai)
閑 話 休 題−105−
結婚して男性の家に入る、これは男性側の姓を名乗ることで男性側の家系の中に入ることになり、同時に、それは自らの出自である旧姓の家系からは出ることになるのかもしれません。こういえば大変大袈裟ですが、日本の社会では、こうしたことが何の疑いもなく繰り返され、それにより社会はスムーズに動いてきました。
そうした際に、世上面白おかしく取り沙汰されるのが嫁姑の問題です。姑もまた他姓から入ってきたのであれば,同じ境遇の嫁に殊更に親切であってもいいのでしょうが、話しの種になるのはおよそそうした微笑ましい風景とは逆の事態のようです。一家の主婦として家庭内の家事一切を取り仕切ることをその役目とする立場からすれば、味付け一つ、仕事のかかり方一つ、言葉使い、身の処し方に至るまで、重箱の隅を突付くようにして『家』の習いを嫁に教えることが、又自らの義務のようにも思うのでしょうか。それとも、かつて自分自身も受けてきた姑からの虐めを今嫁にして気分を晴らすのでしょうか。案外冷たい関係でしたが、かつてはそれでも嫁の立場は常に従順で、家庭内に波風を立てないようにしてきたものです。
一方、時たま妻の実家に立ち寄る婿というのは、大変丁重な扱いをされていたのでしょうか。また、男子のいない家庭で婿養子を取ると、これまた『家』の家風を諄々と教育されるのでしょうが、決して嫁ほどには陰湿な印象はありません。
男性は、外で働いて家族を養うに必要な経済を支え、女性は、男性の留守を預かり、子供を育て、年老いた両親の世話をしながら、家事一切の責任を持つ古きよき日本の社会とは違い、結婚後も女性が男性の姓を名乗りながらも尚生活は実の両親家族と共にし、男性が入ってくる社会。女性の家族と同居しながら、仕事は女性、家事も畑仕事も、小さな日曜大工仕事も女性がこなしながら、男性は昼間から酒を飲み、博打を打ち、時に他村で色事の遊びに出かける・・・そんな社会ではどうでしょうか。
岳父と婿殿
昔のタイでは、結婚後も男性が女性の家に入ります。依然、あるタイ人同士(タイ族という意味)の結婚式に参加したことがあります。新婚初夜のその夜、披露宴を終えた後、新婦の待つ部屋に新郎が入るのですが、家の玄関から建物の入り口、全ての戸口という戸口に関が設けられ、新婦を寝室に隠した新婦の友人が、関に立ちふさがり、付き人役の友人を伴った男性側から通行料をせしめます。その通行料の手数料を巡っての駆け引きも男性が女性の家に入る名残でしょうが面白いものです。翌日からは、男性も大きな顔をしてその屋の主のような態度を取りながら、女性は甲斐甲斐しく男性に尽くし、それを又両親が進めます。
しかし、この物語はタイ人の昔話に残る家庭でのものですから、決してまともではありません。勿論、昔のことですから、貨幣経済にまみれて預金通帳を眺めたり、借金返済に苦悩したりすることはありません。40度を越える真夏でも、高床式の適当に隙間の開いた板壁、板敷の床、天井板なしの高い屋根であれば、熱気は籠りません。冷房も暖房もさして必要とは思わず、自然環境としては、洪水と獣害を恐れるくらいでしょうか。
人々は、少し離れた所に水田を持ち、田畑を持ち、それとは別に、敷地内、家屋の周りにも幾種類もの果物を植えています。多く見られるのは、マンゴー、パパイヤ、バナナ、などの他、チエンマイでは竜眼、楊貴妃も好んだと言われる冷枝などが植えられます。これらは,おやつにもなれば,マンゴーなどは,熟れたものを蒸しあげたもち米に乗せて、ココナッツミルクをかけると食事にもなります。そこには貨幣経済など無縁の世界です。
そんな暇つぶしにも似た果樹の植樹は、その家の婿殿と岳父の仕事のようですが、真剣に仕事をする男たちではありません。博打の仲間の誰もが別の用でいないか、元手をなくしたか、賭場が開帳されていないか、なすこともないまま暇つぶしなのでしょう。
『おうい、バナナを掘り返して、別の場所に植え替えるぞ』
『今からかい・・・』
朝から、バナナの根を掘っていた岳父は、もう幾本ものバナナを植え替える場所に置いていました。このバナナというもの、一本の木にバナナの実がなると、その木はもう枯れて行きますが、同じ根からは既に別の幹が伸びており、それは果てしなく広がって行きます。バナナは、実はもちろん様々な形で食用になり、葉は包装にも使え、幹は灯篭流しの台にもなれば、スープにも使われます。 その一方で、大変に繁殖力が強く、球根が前後左右に広がり次々と芽を出して行きます。その力は恐ろしく気をつけないと塀なども簡単に壊されてしまいます。そんな危険よりも、人々にとってはその利用のほうが楽しみで、拡大は、根を掘り起こして対応するなど生活の知恵があります。
岳父の命令にも婿殿はどこまでもズルを決めたいようです。
『そうだよ・・・まあ、バナナはおれが持ってくるから』
岳父が出て行くと、婿殿は物憂そうにゆっくりと立ち上がると床下に下りていきました。ノソノソと一度は手にしたチョープと呼ばれる鍬を元の通りに置くと、横にあるシアムと呼ばれる突き棒を手に出て行きました。
庭先の岳父が言っていたバナナを植える予定の場所に行くと、早速日陰を探しましたが、バナナは豊富な日照と水が欠かせませんので、さすがの怠け者の婿殿も涼しい日陰に穴を掘ろうとはしませんでした。カンカン照りの場所に突き棒をおくと、再び床下に帰り、麦藁帽子を被って出てきました。
やっと一突き、二突きすると、岳父がバナナを肩に担いで帰ってきました。
『何だ・・・まだ穴を掘ってないのか・・・』
『義父さん、一生懸命に掘ってるじゃないか・・・』
『早く掘ってバナナを埋めよう・・・早くしないと日が暮れるぞ』
そういうと、岳父は、素早く穴を掘り始めました。それでも何とかバナナを植えると、婿殿待望の昼休みです。
『休んでる時間などないぞ。仕事はまだだからな』
水を浴びてもう昼寝を決め込んでいた婿殿に岳父の声は容赦ありません。次いで家の回りに垣根をめぐらせることにして、穴を掘り始めました。
しかし、相変わらずのんびりした婿殿です。力なくだらだらと突き棒を突立てては手で掻き出し、何とか柱を一本穴に突き立てると、掻き出した土を手で戻してパンパンと叩いていきます。叩いては土を戻し又パンパンと叩いていきます。
岳父から見れば、そんな婿殿がどうしようもないほどのろまに思えて仕方ありません。
『あーあ、家の婿は何をしてるんじゃろう・・・これで生活できるのかいのう・・・』
そんな岳父のぼやきも何のその。相変わらずマイ・ペースです。
『婿殿よ・・・娘のアソコを撫でるみたいに手で土を掴み出していては、どうやって柱を突き入れるんじゃい。このわしを見本にして見な』
そう言うと、岳父は鍬を振り上げると力いっぱい打ち下ろし、グサッと土に食い込ませると、ゴボッと土を掘り起こし、忽ちにして孔を開けて行きます。瞬く間に岳父はいくつもの穴をあけては柱を突き立てて土を固めていきます。日が暮れるまでには、何とか垣根が出来ましたが、疲労困憊して全身に汗を滴らせる岳父を尻目に、婿殿は早々を水浴びして気持ちよさそうに女房と戯れています。
『あの垣根、あんたが作ったの』
『そうさ・・・ちょっと義父さんに手伝ってもらったけどな』
そんな婿殿を見ながら、岳父は只黙って力なく首を振るしかありませんでした。
その夜、季節外れの雨が降りました。バケツをひっくり返したような激しい雨が数時間降り続くと、嘘のように止みます。
そして、一夜明けた翌日朝、起き出した岳父は、庭の垣根を見てびっくりしました。昨日突き刺した垣根の柱のうちで、婿殿のものは昨夜の雨でぬかるんだ地面にもしっかりと突き立ったまま、ビクともしていませんでしたが、自分のものはあっちに傾き、こっちに傾き、どれ一つとして真っ直ぐ立っているものはありませんでした。
昔の人が言うことには『馬鹿にするなよ・・・互いの考えをな。何も確かなものはないぞ(อย่าไปดูถูก...ความนึกคิดของกันและกัน มันบ่แน่หรอกนาย)=人は見かけによらない?』と教えているそうです。
(了)
アッチャラー・ワンナエーク著『ラーンナーの民間伝承物語』に収蔵されている「怠け者の婿どの」より題材をお借りしました。
冒頭の写真は、『パッ(ト)・タイ(PHAD THAI)』と呼ばれるもので、外国人にも好評なようで、この作り方を習いに料理教室に通う旅行者も多々いるようです。
動画は、タイの剣舞です。
Ram Dab - sword danceタイ剣舞
Ban Rachan UTube
この動画は、タイとビルマの死闘をショーとしたものです。これは史実で、今でもこの勇士の戦いがタイでは映画になったりしますが、ビルマ軍を迎えうった村人は壮絶な討ち死にをしました。
頭に布を巻いているのがビルマ兵役です。
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2011年05月25日
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