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ハントラー 閑 話 休 題−84−
誰もが日々行動の予定を立てて動きます。そして、その予定の上に立って様々なことを考え、行動します。それは必ず明るい方向に向かうのではないでしょうか。明るいものに向かうが故に行動に積極性が出来、そこに生甲斐が出来るのだと思います。
しかし、予定は未定とも言われ、しばしば変更を余儀なくされます。人生とは面白いもので、世界の誰もが予定を立てて動く中で他人との接触が起こると、そこに葛藤が生まれます。その葛藤を乗り越えてなお予定通り進むと、相手は予定を狂わされます。また、相手が予定を押し通すと、こちらが予定変更です。国際政治の場で、こうした葛藤が起こればどうなるでしょうか。互いに半歩下がってなどと言う場合、誰が正確に半歩を測るのでしょうか。
もしも良かれと思ってしたことが相手を傷つけてしまったりした場合、相手の傷付いた気持ちを宥める為に予定が変わります。スポーツの試合で相手の作戦とこちらの作戦がともに成功することなどありえませんから、どちらかが有利になりどちらかが不利になりますが、これなども予定変更が必要でしょう。
こうした思わぬ予定変更を可能ならしめるもの何でしょうか。
窮地を救うもの
内容も確認しないで1000タムルンと言う価格で購入を承諾した王ですが、わくわくしながら木箱の蓋を開けて中を見た王は、しばらく呆然とし、次の瞬間怒りの声を発して三人を捕えさせました。
「王様、我々を何故に捕らようと成されるのでしょうか」
この場においても沈着冷静な知恵自慢は、おろおろする財宝自慢と従者自慢に代わって王を静止して問い質しました。
「お前たちは、この木箱の中の竹網の小箱が何であるのか真に知らないようじゃ。さあ、何と書いてあるか見て見るがよい」
王は、木箱の中の竹網のクラオームを取り出すと三人の前に突き出しました。
財宝自慢と従者自慢は、読み終わるとワナワナと震えながら揃って泣き出してしまいましたが、知恵自慢は黙って目を閉じると、沈黙を保ちました。
『この箱を買えば、箱を売りに来た者を殺してしまいなさい。決して逃がしたりすることのない様に』
クラオームには見事な模様の中に金色の文字で鮮やかにこう記されていました。
処刑しろと言う依頼にも拘らず罪状が記されていません。王は、その罪は別途糺すとして、さしあたり三人を牢に閉じ込めました。
その夜、牢内では、財宝自慢と従者自慢はただ泣くだけでしたが、知恵自慢は一人沈黙して目を閉じていました。翌日、王は、三人の宰相の身柄を牢より引き出すと、尋問の座に引き据えて夫々の犯した罪を問いました。
「私は、何の過ちも犯しておりませんし、何の罪もありません。何故に、我が王は箱を購入した人物に我らを殺させるのか、存じません」
三人は、誰もが同じ口調で答えました。何度問い質し、時には赦免を匂わせ、時には拷問を匂わせての尋問にも彼らの答えは変わりませんでした。王は、執拗に連日三人の宰相の身柄を引き出して尋問しました。2日目、3日目、そして6日目に至っても三人は、まだ同じ様に答えていました。終に、王は言いました。
「明日、もう一度、お前たちを引き出して尋問するが、これが最後である。もしもお前たちがわしに真実を申さないようであれば、残念ながらお前たち三人を殺さねばならん」
幾度問い質しても同じような返答を繰り返すのみで、自分たちの犯した罪を告白しようとしない三人に、ついに王は堪忍袋の緒を切りました。牢に戻されると、財宝自慢と従者自慢は、共に泣き悲嘆に暮れていました。
「何としたことだ、あなたがたお二人は、恥ずかしくないのですか。一国の宰相たる身で、こんなに泣き崩れて止まることを知らないとは」
知恵自慢は、子供のようにただ泣くことしか知らない二人の同僚を哀れむかのように言いました。
「あなたはそういうが、わしには、郷里には山と詰まれた財宝があり、家族がいる。誰にも知られず、遠く離れたこの国で処刑されると残された財宝をどうしようもないではないか。残される財宝が心配でたまらないのじゃよ」
知恵自慢の冷ややかな言葉に反発して財宝自慢が郷里に残した財宝が如何にたくさんあるかをいまさらのようにくどくどと言い始めました。
「わしも、わしの従者が心配なんじゃよ。誰も彼らの世話をするものがおらんでは、どこに行ってしまうか知れたものではないわ。心配でたまらん」
従者自慢も涙声ながら言いました。
「それほど高価で価値あるたくさんのものを持っているならば、どうして、それを持って命と引き替えないのですか」
知恵自慢は冷やかすかのように言いました。
「あなたも無理を言うものじゃないか。われわれは故郷を離れてどれほど遠くに来ているかあなたも知っているではないか。どうしていまさら故郷に帰ってそれらを持ってくることが出来ようか」
二人は、揃って答えました。
「わしは、ここで決して死にはしない。あなた方お二人を連れて五体満足で一緒に故郷に帰る術を知っている」
知恵自慢は、ニコニコしてきっぱりとした口調で言いました。
「しかし、あなたがたお二人にまず誓って貰いたいのじゃ。もしも、わしがあなた方お二人をここから救い出して無事三人揃って国に帰り、王がわしを主席宰相に選んだならば、あなたがたは素直にわしを認める、と」
「認める、認めるさ。ただ、ここから無事出して故郷に返してくれれば、それで何も他にはいらない。わしは、あなたが主席宰相になるのを応援することを誓うよ」
二人は、目の前に希望の光を見たように思うと身を乗り出して誓いました。
「ならば・・・今晩遅く、わしが万歳と大声で叫べば、あなたがたも万歳を叫び、わしが泣けば、あなたがたも泣かねばならない。もしも、わしが笑えば、わしについて一緒に笑わねばならない。分かりましたね」
その夜遅く、三人の宰相を収容した牢獄では奇妙なことが起こりました。万歳を三唱したかと思えば大声で泣き、泣いたかと思えば大声で笑う、それは不思議な光景でした。警護の兵士は、三人に何が起こったのかと大変不審に思い、事態を王に奏上しました。
牢内が静まり返ると、知恵自慢が二人の同僚に言いました。
「明日、王がわれらを引き出して尋問しても、あなたたちは何も喋らないで下さい。わたしひとりが話しをします」
翌日、王は、三人の身柄を引き出して、処刑に先立って尋問して尋ねました。
「今日、殺されるに決まっている、というのに、如何なる理由で、お前たち三人は、昨夜万歳を叫び、泣き、そして笑ったのか」
知恵自慢が弁舌さわやかに奏上しました。
「そのことですか。泣いておりましたのは、死が怖いからです。万歳を叫び、笑いましたのは、わたしどもは行ないが良くなく、他人の女房と通じ、盗みを働きました。我らが不祥の血が国内に落ちることを恐れるが故に我らが王は、自らの国において我らを殺す代りに、謀を用いて我らをして他の国で死なせるのです」
彼ら三人の血が不祥であると聞いて、王の表情が強張りました。不祥の血を国内に落とすことは国に不祥をもたらします。
「なんと。そうと聞けば、不祥のお前たちを我が領内で殺すわけには行かぬ。早々に我が領内より立ち去るがよい」
驚き慌てる王の言葉を遮るように、知恵自慢がここぞと畳み掛けて強い調子で言いました。
「駄目です、このまま帰る分けには参りません。私どもを捕らえて、何日も閉じ込め苦しめてきました。何としてでもこの地で殺して頂きたいと思います。私どもには、行く所がありません。どうか、私どもを殺して下さい」
王は、大変に恐れ、急ぎ自らの宰相に告げて言いました。
「今すぐ木箱の購入価格1000タムルンの黄金を彼等に与え、彼等には別途、夫々一人1000タムルンを与えて我が国より去らせよ」
「なりません。王が我らを殺さないならば、我々は、ここで殺し合うでしょう」
「このう。1000タムルンを増額して、各人に2000タムルンでどうだ。一刻も早く我が国から出て行ってくれ」
「駄目です」
知恵自慢は、命を賭けた駆け引きをして王の申し出でを拒否しました。
「分かった、更に1000タムルンやろう。一人当たり3000タムルンだ。箱代を更に1000タムルン、合計10000タムルン。宰相、急いで10000タムルンを彼等にすぐにやれ」
知恵自慢は、これ以上交渉すると、よい結果にならない、と判断し、10000タムルンの黄金を受け取り、二人の同僚を伴って急いで帰国しました。
三人は帰り着くと、急いで王に拝謁し、手にした全黄金を王に献上しました。
「お前たち三人は、誰が如何にして死から逃れ、仲間を助けて逃れ帰って来ることが出来たのか。詳しくその一部始終を話してくれ」
王が尋ねました。
沈黙の知恵自慢に代わって、財宝自慢と従者自慢が包み隠さず全てをありのままに報告しました。
「これだ。わしは、いかなる危難の中に落ちても、わが国を危難から逃れさせる知恵・能力を持つ主席宰相を欲していたのだ。お前たちは、同じ様に有能であるから、誰かを立てれば、誰かを失う。そこで、誰が良き知恵を持って危難を逃れ、他の者の心を捕らえることが出来るのかを試したのだ」
国の危難を救う知恵・能力・度胸ある指導者に国政を任せたい、そう国王は言うのです・・・・
(了)
マユリー・アヌカモン著「ラーンナーのお伽噺」に収蔵されている「知恵ある人、財ある人、従者ある人」より題材をお借りしました。
冒頭の写真は、「ハン・トラー(HANTRAA)」と言い、婚約に際して用いた昔のお菓子です。緑豆の皮を剥き、砂糖と一緒に煮詰めて形を整え、最後に、格子模様に焼いた卵で包みます。これで女性は印がついて婚約者がいる身であることを知らせます。
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閑話休題
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閑 話 休 題−83−
十人十色といわれるように、世の中には様々な性格の人がいて、決して全く同じ人はいません。中には生まれながらにしての富豪で自ら額に汗して働くことを知らず、有り余る財の上に胡坐をかいて、懸命にその日の糧を得ようと努める人を冷ややかに見る人がいるかもしれません。
中には、その人付き合いの良さから、数え切れないほどの友人知人を持ち、一人で食事などしたことがなく、一人食事する人の寂しさを知らず、常にどこかの宴席に侍っている人もいるかもしれません。
また、自他共に認める知恵者は、周りの人たちの常識を嘲笑うかのように自らの知恵を見せびらかすかもしれません。
たくさんの財、友人、知恵、どれもが人々の生きるに際して必要かもしれません。財のない困窮、友人のいない寂寥、知恵のない愚昧、どれも避けて通りたいものです。出来るならば、必要にして十分な財を持ち、たくさんの友人と知恵ある人が理想かも知れませんね。
もしも、こうした三種類の人間の中から誰かひとりを友人として選ぶことが出来るとすれば誰がいいでしょうか。これが今回のお話です。
秘密の小箱
昔々、ある国で主席宰相が亡くなりました。さあ、大変です。国王としては、自分の国を実務面で仕切ってくれる右腕が必要です。その時、亡くなった主席宰相には、部下として三人の宰相がいました。誰も実務面では十分に期待に応えてくれるものでしたが、いざ、誰か一人にするとなると国王も迷いました。
その三人とは、パンヤーウォーラヨットと言う知恵自慢、ソムバットウォーラヨットと言う財宝自慢、そしてボーリワーンウォーラヨットと言う名前の従者自慢でした。
国王としては、誰か一人を選ぶことで残る有能な二人の側用人を失うことを恐れていました。と言って第四の候補はありません。
そこで、ある日三人を側近くに呼んで聞いて見ました。
「過日主席宰相が亡くなって、今その席が空いている。わしは、お前たち三人の中から一人を選んで、主席宰相にしようと思うが、さて、いざ選ぼうとしてはたと困ってしまった。わしの目にはお前たちが同じ位に優れていると思えるからだ。ちなみに聞きたいが、お前たち三人は、お前たちの中から選ぶとして誰が最も適任であると考えるか」
王の言葉を利いて最初に口を利いたのは、知恵自慢でした。
「主席宰相には、この私こそが適任であります。なぜなら、私は、この国で誰にも決して負けない知恵を有しているからです」
知恵自慢は、恭しく拝跪してまず奏上しました。
「しかしながら、主席宰相と言う国の代表としては、私の方がより適しております。何故なら私はこの国の誰にも匹敵するものもいないほどに溢れるほどの財宝を有しているからです」
財宝自慢が、知恵自慢の言葉の終わるのを待ちきれないかのように膝を摺り寄せるようにして口を挟みました。
「いえいえ・・」
三番目の従者自慢が、財宝自慢の言葉が終わるのを待ってゆっくりとした口調で言いました。
「例え、いかほど知恵あろうとも、山ほど財宝あろうとも、私の様に夫々の部門で秀でた能力を持つ多数の従者を持つ者には適いませんです。わが国の主席宰相は、この私を置いて他に適任者はいません」
三人の自薦の言葉と理由を聞きながら、普段から目をかけている部下だけのことはある、と思いながらも結局いずれとも決するいかなる心象をも得ませんでした。むしろ、どこか怪しいものすら感じました。
「さすが、我が国でこれまで仕置きを手伝ってくれた宰相たちである。お前たち三人の言うことは尤もなことであり、甲乙付け難い。やはりわしは決めかねる」
王の困窮はますます深まる明かりでした。
国王から呼び出され、次期主席宰相候補として明言され、競争相手が昨日までの仕事仲間であると知った三人は、その日以来、顔をあわせれば互いに相手の欠点を言い合い、自分が主席宰相に相応しいことを認めさせようと仕事以上に口論に夢中になりました。有能な宰相のこうした醜い反面を目にした王は、主席宰相選びの困難さ以上に、こうした無益な議論にうんざりしました。
「今後7日間、会議を持たない」
ある日、いつものように、日常の公務・業務についての三人の意見を聞き終えた王は、会議を打ち切るように最後に強い調子で言いました。普段にもましてきっぱりとした口調の王の言葉に三人の宰相は一瞬声もなく呆然としましたが、王にはある一つの考えがありました。
三人の宰相の退出を待って、王はお抱え大工を呼び寄せるとひとつの木箱を作らせ、そこに美しい模様をつけると金箔を貼りました。続いて、クラオームと呼ばれる小さな箱を竹を編ませて作らせると、そこに漆を塗り、同じように金模様で装飾を施すし、そこに簡単な文章を刻み付けました。そして、竹網の小箱を木箱の中に入れて、彫刻を施した木箱の蓋をしっかり閉じました。
7日の時が過ぎ、きれいに装飾された木箱が整うと、三人の宰相を呼んで命じました。
「お前たち三人が力をあわせて、いずれの国でも良いから、いずれかの国の王にこの箱を売ってきてもらいたい。この中に入っている商品であるが、これは内緒で、お前たちにも話すことは出来ない。もしもいずれかの国の王が買うことに同意するなら、箱を開いて商品を確認することを認めても良いが、もしも、買うことに同意しなければ決して木箱を開けて中の商品を見せてはならない」
商売であるにも拘らず、売り物が何であるかも分からず、商品を知らせず、見せずに売れ、しかも他国の王にだけ売れ、と言う王の心の中を図りかねながらも、三人の宰相は、王の命令に背くことも出来ず、その木箱を持って商用の旅に出ました。
野宿を重ねながら林野を越えて旅して行きました。幾日も経ずして最も近くの最初の国に到着した時、三人はその国の王に拝謁を願い出、王の執務室に引き入れられると、自らの王より木箱の販売を任されて来た旨を告げました。
見事な模様が施された木箱を前に、その王が言いました。
「ところで、お前たちの王は、何をわしに売ろうと言うのか」
「我らが王の命により、かように売りに参りましたが、私どももこの木箱の中に何があるのか我が王から知らされておりません。お買いになられた暁にこの木箱を開けて中の物をお確かめ下さい」
知恵自慢が堂々とした態度で奏上しました。
「して、幾らなのか」
続いて王が尋ねました。
「黄金1000タムルンであります」
次に財宝自慢が答えました。
「ふううむ・・・」
王はしばらく腕組みして考えていました。そして、言いました。
「わしは、買わまいぞ。何故なら、お前たちは、わしに先に開けて見させないからである」
彼等三人は、最初の国の王のもとを辞して旅を続けました。いずこの国に行っても最初の国と同じで、どの国の王も商品を先に確認することなしには買おうとはしませんでした。
数ヶ月の後、三人ははるかに離れた国にやってきました。思えばこれまで九カ国を訪ねてきたことになります。
第十番目の国の王が真剣な表情で尋ねて言いました。
「軽いの・・・でも中には確かに何かがある・・・でもそれが何であるかは言えない・・・買う前に見せることもない」
「御意にございます」
知恵自慢がそれでも胸を張って言いました。
「この軽い木箱の値段は幾らか」
「黄金1000タムルンであります」
財宝自慢が奏上しました。
王が続けて尋ねて言いました。
「開けて見てはならんのじゃな」
「開けてはなりません。我らが王は、先に開けてはならない、買う事に同意した時に初めて開けても良い、と命じられました」
知恵自慢が説明しました。
「我らは、いずこの国に参りましても、同じ様に申し上げて来ております」
従者自慢が補足して奏上しました。
「うううう・・・む・・・ふう・・・・・む」
しばらくじっと考え込んでいた王は、これほどまでに頑固に中を見せないで売ろうとする商品に興味を抱くと買うことに同意しました。
そして、代金を取り揃えて三人の前に置くと、木箱の蓋を開けました。そして箱の中に収められた竹を編んで作った漆塗りのクラオーム箱に鮮やかに刻まれた文字を見て王の表情が強張りました。
同時に、王の言葉が宮殿に響くと、兵たちに命じて三人を取り押さえさせました。
(続)
マユリー・アヌカモン著「ラーンナーのお伽噺」に収蔵されている「知恵ある人、財ある人、従者ある人」より題材をお借りしました。
冒頭の写真がクラオームと言う編器で漆を塗ると水を漏らしません。
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閑 話 休 題−82−
人生一瞬先は闇。中学3年の時の担任が卒業を前に言いました。
『朝起きると今日も生きている。そう思うようになる。お前たちはまだわからないだろうが、俺くらいになればそう思う。』『だから命を大切にしろ』というのでしたが、いろいろ話を聞いた中でこの言葉が今も耳に残っています。若い頃は、将来に夢膨らませますが、現実には、朝目覚めることが前提です。その前提が壊れれば・・・朝目覚めないかもしれない、そんな気持ちを抱く年齢になれば、明日のことより今日のことさ・・・となるのかもしれませんし、今を生き尽くさなければ・・・となるのかも知れません。
実際問題として人生は思い通りには行かないもので、常に修正しながら日々進んでいるのではないでしょうか。日々新たな問題が発生し、日々それの処理に忙殺されながら、気がつけば遠くに来ていたのかもしれません。
そうです。人生何が起こるかわからないのが実情でしょう。ならば、明日に積み残すよりも今日、今を如何に全力疾走するか、過ぎた過去を訂正することは出来ず、まだ来ない明日は如何とも出来ません。でも今目の前の自分の勤めを果たすことは出来る筈です。
死を覚悟の若者も日々目の前に出現する出来事に戸惑いながらも歩いて行きます。
椰子から生まれた美女
隠者に供の猿を預けた若者は、再び一人旅を続けます。
やがて若者は大きな椰子園にやって来ると、見事な椰子の実を眼にしますが、それは若者の手の届く場所にはありません。見たこともない巨大な椰子の実が欲しくて堪りませんが、如何とも出来ないまま2−3日その場に佇んでいました。そんな時何故か突然脳裏に浮かんだ猿の言葉。若者は、目を閉じて猿に手伝ってくれるよう心を込めて祈りました。
すると、どこからともなく猿が現れ、若者の前に腰を下ろしました。若者がはるか上に生る巨大な椰子の実を欲していることを知ると、スルスルと椰子の木に登り、猿は椰子の実をいとも簡単に捥ぎ取ってきました。
椰子を捥ぎ取ると、猿は何処へともなく姿を消し、椰子の実を抱えた若者は、再び一人になって旅を続け、やがて海にも等しい大きな河の岸に辿り着きました。しかし、彼には流れの急な大河を渡る術がありません。そこで、腰に巻いた布を棒切れに結びつけ、川を往来する旅人の目に留まることを期待していました。
しかし、その目印を目にしたのは船旅の商人ではなく、餓えた巨大な蛇でした。隠れるところのない川岸で、若者を飲み込もうと巨大な蛇が上体を立てて大きく口を開けた時、若者はそっと目を閉じると隠者から習った呪文を口の中で唱えました。低く流れる呪文に蛇の動きが止まり、大きく口を開けたまま砂地にどっと横倒しに倒れると息を引き取りました。
自分の呪文が蛇を死なせたことを知った若者は、急に蛇に哀れみを覚え、帝釈天より授かった神薬で蛇を甦らせました。
「恩ある方よ。もしも、私に何かお役に立つことがあれば遠慮なく言って下さい。私に出来ることであればどれほど苦しくとも必ず成し遂げて見せましょう」
若者に命を助けて貰ったことを知る蛇は、恩返しの機会を求めて若者に言いました。
「実は、この大河を渡って向こう岸に行きたい」
流れの急な川の水を眺めながら、はるかかなたの岸を指差して若者が言いました。上体を起こし、若者が指差す方向を見やった蛇は、躊躇いもなく言いました。
「ああ、お安い御用です。あなたを背中に乗せて渡して上げましょう。さあ、私の背中に跨って下さい」
若者を背中に乗せて、蛇がゆっくりと川の中に入って行きます。
「しっかりと両脚で私の胴を挟んでいて下さいよ」
蛇に跨った若者は、捕まるところもない不安定を両脚の膝に力を入れてしっかりと蛇の胴を挟んで安定を取りました。激流の中を蛇は身体をくねらせて器用に渡って行きます。時として大きく揺れる蛇の身体を力の限り蛇の胴を締めつけて支えましたが、そんな動きの中でも胸に抱いた大きな椰子の実だけは決して放すことがありませんでした。
「ウッ」
その時、思わず脚に激痛が走ると、苦しみの声を漏らしましたが、辛うじて緩む膝頭を引き締め痛みを堪えて蛇の背から落ちることを防ぎました。膝頭に痛みが走り、やがて痺れてきました。激しく身体が揺れる動きの中で、若者の太股が蛇の鱗を擦り、一片の鱗が彼の白い皮膚に突き刺さると、柔らかな皮膚を引き裂いていたのです。蛇の鱗から染み出した猛毒が傷口に流し込まれました。
若者は、激痛に堪え、無事川を渡り終え、気丈に両足を踏ん張って引き返していく蛇を見送りました。蛇が後ろを振り返らなくなった時と、蛇の毒が血管の中を駆け巡って全身に回った時がほとんど同時でした。若者は、ついに意識を失ってその場に倒れ、やがて息を引き取りました。
帝釈天はそれを見て哀れに思い神薬で甦生させます。
若者は蛇の毒も消え、傷口も跡形もなく消えると、再び流浪の旅を続けました。そして旅の友は巨大な椰子の実一つでした。次に、若者が目にしたのは、巨大な一本の木でした。四方に天幕のように伸びた枝は大地を覆うかの如く、その下に出来た木陰は太陽の焼けつくす日差しを遮り、清々しい風を呼び込んでいました。
その木陰に通りかかると、旅の疲れが出て幾人もの大人が辛うじて抱えられる巨大な木の根方に腰を下ろすと、睡魔が襲い全身から力が抜けていきました。
「あなた・・・この下で寝ている人間に見てみなさいよ」
どこから飛んできたのか、若者が眠る木の上に一対の鳥が止まると、雌が雄に呼びかけました。
「よほど疲れているんだろうよ」
「でもね、あなた、あの男の人が大事に抱えている椰子の実・・・あの人は知っているのかしら」
「さあ・・・どうだろう。確か、あの椰子の実の中には美女がいる筈なんだが。彼があの椰子の実を割れば、俺にはお前がいるように彼の可愛い女房となる美女が出て来る筈なんだが・・・」
鳥の夫婦の会話を若者は夢現の中でしっかりと耳にしていました。鳥が飛び立つのを待って、若者は抱きしめてきた椰子の実を割ると、中からこれまで見たこともない美女が現れました。若者はその美女を妻として旅を続けました。
椰子の実より生まれた妻と二人の旅が幾日か続いたある日の夕方、食事を終えた二人は、木陰で夜を明かすことにしました。
その夜、夜叉王が木陰で眠る椰子の実から生まれた美女の姿を見て欲望に包まれると、二人の心を操って熟睡させ、美女を抱きかかえると夜叉の国に攫って行きました。翌朝、目覚めた若者は、妻の姿が消えていることに驚き四方を探しましたが見当たりません。途方にくれ、涙を流して苦悶の気持ちを天に告げると、帝釈天が降りて来ました。
「もうよい。女房がいなくなったからといってもう泣くな。お前の女房は、昨夜夜叉王に攫われて行ってしまったのだ。もしも、お前が夜叉王と戦ってでも女房を取り返したいならば、一頭の馬と偈の一節を与えよう。この偈は、石ころをして軍隊に変えることも可能で、使用人を生み出すことも出来、国を生み出すことも出来る」
若者は、夜叉との戦いに恐怖しながらも、椰子の実から生まれた妻の面影を忘れることが出来ず、帝釈天より授かった神馬に跨って夜叉王の国に向かいました。
深い森の中に佇む巨大な城が見えました。若者は夜叉の国のはずれで一休みすると、石ころ二個を使節に変えて送りました。
石ころの使者達は。夜叉王の前に出ると臆することなく椰子の実の女性を返してくれるよう、若者の言葉を伝えました。
「我が主人は、あなたが攫ってきた妻を取り戻しに追ってきました」
「儂は、お前の主人の女房を攫ってきたのではない」
夜叉王は、直ちに否定しました。
「儂は、森の中で眠っている彼女が可哀想で、見るに見かねて我が王宮で何不自由なく暮らせるよう抱きしめてきたのじゃ。もしもお前の主人がどうしても我が女房を欲しいというのであれば、戦って取れ。儂はやらん」
帰ってきた使者から夜叉の言葉を聞いた若者は、心ならずも夜叉王と戦わねばならなくなりました。彼は、夜叉と戦う為に、石ころをもって多数の兵隊を作り出しました。
戦うこと5日間、来る日も来る日も、激しい戦いの中で若者の兵たちの数は一向に減りませんでした。夜叉は、戦いの中で取り押さえた若者の兵を食べようとしましたが、兵を殺すと、忽ちにして兵はただの石ころに変わってしまったからでした。
一方の神馬は、夜叉を追い掛けては噛み付き、蹴り飛ばし、そして、弾き飛ばして多数を殺しました。夜叉どもは、姿を見ることもない若者の威力を恐れ、戦意を失いました。勝敗を決することが出来ず、夜叉の兵に代わって夜叉王が戦場に出てくると、若者も自らが出て戦わねばなりませんでした。戦いなどしたことのない若者ですが、帝釈天の加護か、夜叉王の剣は若者の身体に触れることすらなく、終に若者の剣が夜叉王の鳩尾に突き刺さると、敢無く夜叉王はその場で息絶えました。若者はかくして椰子の実から生まれた妻を取り戻しました。
死を逃れた夜叉たちは、誰もが若者の武威を恐れ、若者の前に膝を屈して降伏し、同時に夜叉王の娘を差し出して許しを請うたのみならず、国を譲って自らの王として奉戴しました。若者は、夜叉の国に止まること4ー5日にして二人の女房と共に旅を続けました。
ある大きな池に辿り着くと、半人半鳥マノーラーが水と戯れているのを見ました。若者は、マノーラーたちの類稀な美貌に心を奪われると、彼女たちの衣服をこっそりと盗み、全てを近くの竹薮の中に隠してしまいました。
十分に水遊びを楽しんだマノーラーが自らの国へ飛んで帰ろうと水辺に上がってくると、ある筈の衣服が見当たらず大変に驚き慌てました。そこに若者が姿を現し、もしも誰か一人が彼の女房となることを承知するならば、残りの人たちの衣服を返して上げようと言いました。
苦悩の選択を迫られたマノーラーたち姉妹は、終に一番の年下の妹が、姉たちの為に犠牲になることを承知しました。そこで、若者の女房になることを承知して他の者に衣服を返して帰らせました。
それ以来、若者は、三人の女房と一緒に幸せに暮らしました。・・・とさ
(了)
マユリー・アヌカモン著「ラーンナーのお伽噺」に収蔵されている「ナーン・マプラーウ(椰子娘)」より題材をお借りしました。
冒頭の絵は、『マノーラー』で、現在これは南部タイナコン・シータムマラートの伝統芸能とされていますが、原型はこうして北タイにあったようです.そもそもマノーラーはチエンマイの僧が著したとされる仏生譚集『パンヤーサ・チャードック(50仏生譚)』が原型です。
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閑 話 休 題−81−
世の中には、割れ鍋にもそれなりに合う綴じ蓋があるように、どこかで夫婦となる相手がいるものですが、中には美女と野獣と呼ばれるように外からはどうしてなのか不思議に思われる組み合わせの夫婦もいます。どうして、あの親からこんな不出来な子供が出来たのだろうか、という家庭もあるかもしれませんが、鳶が鷹を産んだ家庭もあるかも知れません。
むかしタイのテレビで『トーン・ヌア・カウ』という番組がありましたが、これは、性的にふしだらな母親から生まれた少年が純真無垢のまるで穢れを知らない天使のようである話で、泥沼から生まれて泥沼の汚れに染まらないハスの花を譬えているのでしょうか、この題名は『混じり物のない純金』を意味します。
間違いだらけの親から生まれた子供が汚れを知らないとどうなるのでしょうか。聖と濁は共存できるのでしょうか。
天使の降臨
昔々のお話です。人々の暮らしは常に天上の神々の加護を受けていました。時に叱責の使者として稲妻が走り、大地が揺れます。時が来れば恵みの雨をもたらして田地は満々とした水を湛え、やがて緑の稲穂を実らせ、時が来ると雨に代わってすがすがしい気候がやってくると、やがて寒さとともに地上に無数の花々を咲かせます。
村はずれの森の中に住む人は、水田の代わりに森の生き物を追ってその日の糧を得、キノコを取り、木の実を取り、川の魚を得て日々の糧とします。そんな中に一組の夫婦がいました。
貧しいながらも夫婦二人の生活はそれなりに楽しいものでした。結婚してまだ日も浅く、二人だけの生活は顔を見合わせているだけでどことなく互いの気持ちが知れるほどでした。
しかし、そんな幸せな日々を送る彼らですが、天上の帝釈天からすれば、悲しみの対象でした。彼ら夫婦は、中睦ましさにおいて神々の祝福を得ていましたが、彼がは同時に神々を困らせてもいました。
彼らは、日々罪咎のない獣を捕らえては殺し、魚を取ってはその命を縮めていました。こうした彼らの殺生を見るにつけ、帝釈天の心は痛むばかりでした。
「誰か人間世界に生まれ変わることを望む者やある」
ある日、帝釈天は天上の神々を集めて聞きました。地上に降りてあの狩人夫婦の子供として生まれ変わり、人を導く勤めを果たす神がいるかどうか尋ねました。そんな呼びかけに一人の神が応えて前に進み出ました。
「あなたが行ってくれますか。実は、あの森の狩人夫婦の子供に生まれて欲しい。彼らの子供として、彼らに殺生に代わって善行を積むことを教え、動物を殺して命を縮めるのを止めさせて欲しい」
かつて、神々と人間はこうして大変に近い存在であったようです。人間世界から神の世界に働きかけるためには、ルーシーと呼ばれる隠者の存在が会って、彼らの呪文は時に神々をすらをも恐怖させることがありましたが、神々は、こうしてこの世に人間として生まれることによって地上に善をもたらそうとしたようです。
こうした壮大な宇宙構想はインド伝来のもので、東南アジアに広まる『ラーマヤナ』は正にこの世界ですね。
この神の名前は伝わっていませんが、やがて狩人の若き妻の胎内に入り小さな命として新たな門出を始めました。妊娠を知った女房の喜びは言葉では言い表せないほどで、夫もまた二人の愛の結晶がこの世に出る日を心待ちにしていました。
その間も、二人は森の中で猟を続け、川で漁を続ける日々の生活に変わりはありませんでした。
やがて、十月十日の月満ちて生まれたのは可愛い男の子でした。
夫婦は、男の子の誕生を心から喜び、持てる限りの愛情を注いで育てました。大病に罹る事もなく、素直な少年を両親は自慢にしていました。そんな日々の中で、ある日少年の言葉が母親を驚かせました。
「お母さん。お願いだからカニや魚を取ることを止めてよ。罰当たりなことだよ」
思いもしない子供の叱責の言葉に、母親は驚く以上に怒りを覚えました。彼女の怒りはこれまでのやさしい母親の片鱗も見せることはありませんでした。
「お前は、小賢しいことを言うな。まだ世間知らずの餓鬼ではないか。まだ養って貰っている身でありながら、大人に指図するのかい。お前がここまで大きくなれたのは、誰のお陰だと思ってるんだい。あたしがカニや魚を取って来て育てて来たからじゃないの。お前は、あたしに恨みでもあるのかい。生意気にも親に向かって指図するななんて。……この罰当たりめ」
ただ、怒りで少年を罵っただけではなく、母親は、近くにあった蔓の切れ端を手にすると、実の我が子を叩き、生まれた家から追い出してしまいました。家を追い出された少年に行く当てなどあろう筈はなく、当てもなく歩き、村人たちの親切に甘え、あちこちの家で食を乞いながら日々の空腹を癒し、他家の床下に寝て雨露をしのんでいました。
時には、村の寺院に寝泊りを願い出て、お坊さんのお手伝いをしながら日々を過ごすこともありました。
どれほどの時が流れたのでしょうか。少年の食を乞う乞食の生活の日々は一向に改善される兆しを見せませんでした。どれほど貧しくても決して与えられない物に手を出すことなく、決して自ら欲する物を求めて相手に強要することはありませんでした。
破れた衣服は、お寺のお坊さんの計らいで村人に繕って貰い、時にはお古を貰いながらの生活の中で、彼は思いました。
《これ以上この町で惨めな生き方をしたくはない。たとえ行く先に死が待ち伏せていようとも茨の道を進むほうがましかもしれない》
決心すると、既に一人の若者に成長していた彼は、旅に出ました。それは正にいく当てのない放浪の旅そのものでした。
少年の苦難をじっと追いながら、帝釈天は、死を覚悟の少年の前に老人に姿を変えて現れ、一袋の神薬を与えました。
帝釈天より授かった神薬を大切に懐に仕舞い込んだ若者は、生まれた家とは反対側に向かって歩き始めました。
どれほどの昼と夜を迎えたのでしょうか。太陽が昇れば歩き出し、日が暮れれば木陰で休む日々、野生になる果物で空腹を癒し、河の水を飲んで咽の渇きを癒していました。
やがて、森に入ると、若者の姿を見た猿が驚きあわてて高い木に上がったまではよかったのですが、狼狽の余り木から落ちて死んでしまいました。目の前に落ちて来た猿が既に息をしていないことを知った若者は、猿の死の原因は自分にあるものと自責の念に駆られました。
その時、若者は帝釈天から授かった神薬を思い出すと、試しに猿に飲ませることにしました。
急いで小川まで走っていくと、近くのバナナの葉に水を溜め、神薬を揉み解し、閉じられている猿の口を無理に押し開くと咽元まで薬を押し込み、水を含ませると咽を擦って体内に落としました。猿を腕に抱きしめたまましばらくすると、猿の閉じられた目が開き、意識を取り戻しました。
朧げな意識の中で若者を見上げる猿は、やがて人間の腕の中にいることを悟ると飛び跳ねるようにして腕の中から飛び出し近くの木に登りました。しかし、次の瞬間、猿は自分が木から落ちて死んだことを思い出すと、この目の前の人間が一度は命を失った自分を助けて命を蘇らせた命の恩人であることを知り、その恩に報いるために若者の子分となることを申し出ました。
子分として一緒に暮らすことを望む猿の申し出を聞いた若者は、行く当てのない流浪の旅であることを告げた上で、旅の寂しさを慰めようと、猿に同行することを許し、こうして一緒に旅に出ました。
やがて森の中で修行する隠者に出会うと、若者は隠者より様々な学問を習いました。若者は学問を修めると、何かに引き寄せられるかのように旅を続けることにしました。そして、旅を続けるに際して、隠者に猿を預けました。当初、如何にしても若者と一緒に旅を続けると主張して止まなかった猿も、隠者に説得されて留まることを了承しましたが、若者への恩返しをする機会だけは捨てたくありませんでした。
「あなたが何処へ行こうとも、苦難にあって助けが必要になれば、私のことを思い出して下さい。直ちに駆け付けて命に代えてお手伝いしましょう」
旅立つ若者に猿は涙を浮かべて別れの言葉を送りました。
再び一人旅となった若者は、森を出ると大きな農園で見事な椰子の実を眼にしました。
それはこれまで見たこともない大きなものでした。
(続)
マユリー・アヌカモン著「ラーンナーのお伽噺」に収蔵されている「ナーン・マプラーウ(椰子娘)」より題材をお借りしました。
冒頭の写真は「カノム・プローンセーム」というものですが、形からしても多分ポルトガルとかの西洋のお菓子から来たものでしょう、小麦粉と卵の黄身などを使って作りますが、このお菓子は、結婚式などに用いられるそうですが、スティック状の形が家の柱を例えているのでしょうか、結婚生活の永続と裕福を願うもので、周りに砂糖を巻いています。
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閑 話 休 題−80−
人は誰も日々成長するもので、昔の人は、男子三日会わざれば剋目して見よ、ともいいましたが、これが3年の永きに亘れば多くの人々は変わるのではないでしょうか。
学生時代を過ごした東京、4月の上京からわずか数ヶ月、7月の夏休みに帰郷する頃には、一人前に東京弁?を口にして、都会人気取りをしていたことを思い出しますが、恥ずかしい限りですね。
ただ、学生時代の3年、社会人になっての3年は確かに人を変えるように思いますね。3年という年月は様々な物を学ばせ、様々なことに出会い、様々なことを考えさせてくれます。そうした中でどのように変わっていくのか、それはその人それぞれの置かれた環境によるのかもしれません。
外国に一人身寄りもなく3年暮らし、その間日本の新聞。テレビに接することなく、日本語を話す相手もないとすればその人の日本語、日本は3年前のまま停止しています。ですから、ある人は言います。「一人外国にいて、日本語に飢えるような状況下で日本の書物を読むと、行間を深読みしてしまう」といっていますが、確かにその通りかもしれませんね。
3年目の邂逅
ムアン・パーラーナシーは、知恵者を王女の婿として領内統治に参画させたが故に、領民の生活もよくなり、沈んでいた領民の心にも明るい希望の光が射し始めました。
知恵者にとっても、ムアン・パーラーナシーでの生活は生きる喜びを日々感じるものであり、日々の激しい政務もまた楽しいものでありましたが、どれほど政務に没頭しようとも、親友との約束を忘れるほどではありませんでした。
ある日、彼は岳父である国王に、親友との約束の件を話し、約束の三叉路に向かいたい旨の許しを求めました。もちろん日々政務に勤しみ、全ての問題を速やかに解決していく婿の頼みを断るほど国王も意地悪ではありませんでした。
馬にまたがり、約束の地に向かう知恵者は、深い森の中で日暮れを迎え、休息の地を探している時、洞窟を眼にして、その近くの巨大な木の上で休むことにしました。
《もしも、木の根元に馬を繋いで、木の上に上って寝れば、この洞窟にやって来た凶暴な動物が馬を見ると、わしがどこにいるのか分かるであろう。馬を他に繋いでおくに如かず》
一人森の中で夜を迎えることの危険を知る彼は、馬を離れた場所に繋いで、木の上に上りました。
ガサッ・・・ガサッ・・・
不気味な音に目覚めた彼が目を凝らして音の主を探すと、なんと一頭の鬼が洞窟に近づいて来ました。
恐怖心にも増して彼の好奇心が鬼の一挙一動をも見逃すまいとじっとその動きを追っていました。鬼が洞窟の扉を開けて入って行きました。
《鬼のねぐらだたっとは・・・》
一瞬血の気が失せるほどに驚きましたが、次の瞬間、さらに彼を驚かせる事態が発生起こりました。洞窟に入った鬼が再び出てくると、その手には小さな猿の手がしっかりと握られていたのです。
《鬼と猿・・・》
彼は猿が鬼の餌であるという先入観からこの不思議な光景から目が離せませんでした。猿を引き出した鬼は、洞窟入り口の横に垂れているワーンと呼ばれる不思議な霊力を秘めた植物を千切ると、引きずり出した猿の頭をポンと軽く叩きました。
その瞬間、鬼の手に掴まれた猿が、一瞬にして美しい女性に姿を変えました。そして、その気品溢れる若い美女を引き連れて鬼が再び洞窟の中に姿を消し、扉がしっかりと閉められました。
《大変なものを見てしまった・・・あの若い女性は誰だろう・・・》
知恵者に新たな興味が湧き上がりました。
翌朝、彼は鬼が起き出すよりも早く目を覚まし、洞窟の動きを見ていました。すると、扉が開き、昨夜の鬼があの女性の手を掴んで出てきました。鬼は、昨日とは反対側の入り口になる今ひとつのワーンの木を千切ると、昨夜と同じように女性の頭を軽くポンと叩きました。すると、女性の姿が再び猿に変わり、また元の洞窟の中に押し込められました。
全ての出来事を脳裏に焼き付けた知恵者は、鬼が遠く離れていくと、木から降り、鬼が違った二種のワーンを同じように手にすると、洞窟の扉を開いて入っていきました。洞窟の中に入った知恵者は、暗闇の中で隅の岩に小さくなって蹲る一匹の猿を見つけました。
猿に近寄り、その頭に鬼がしたようにポンとワーンで叩くと、猿は美しい女性に姿を変えましたが、その目は恐怖に慄き、言葉を忘れたかのように怯えて体を震わせていました。
「あなたは、誰なんですか。どうして鬼と一緒にいるのですか」
知恵者は恐怖する女性に優しく問いかけると、徐々に女性の体から緊張感が解け、かすかに震える声ながら一言一言噛み締めるように答えました。
「私は、王女で、鬼に捕らえて三年が経ちます。どうか、私を助けて国に返して下さい」
王女だと名乗る女性のいう国は、ここからさほど離れていません。
「分かりました。私があなたをお助けしましょう。しかし、今は、まだその時であはありません。辛いでしょうが、今晩一晩元通りに猿に戻って洞窟の中で鬼を待っていてください。決して奴に不審を起こさせてはなりません」
その日、若い女性から様々な話を聞きながら、夕方、女性を元の猿に姿に変え、彼自身も一緒に洞窟の中に入ると、女性と離れて暗闇に隠れて身を潜めました。間もなく鬼が帰ってくると、猿を人間に姿に変え、やがて高鼾をあげて深い眠りにつきました。
なおしばらく鬼が熟睡するまで待った知恵者は、やがて例のワーンを取り出すと、鬼の頭をポンと叩きました。さしも巨体の鬼も一瞬のうちに小さな猿に姿の姿を変え、彼は容易く猿を殺すことが出来ました。
こうして後顧の憂いを絶った彼は、王女を馬の背に乗せてその夜の内に洞窟を出て彼女の父王の待つ国に向かいました。3年ぶりに帰ってきた王女を目にした領民はもとより、国王と王妃の喜びは譬えようもなく、知恵者の智謀と勇気を聞いた国王は、王女を嫁がせて国を譲ろうと申し出ました。
しかし、彼は自分には既に妻がいることを理由に王女との婚姻を断り、ただ、数日の滞在を求めて許されました。
旅の疲れが取れると、3人の別れを告げて約束の地に向かって行きました。
約束の三叉路には3年前に立てた目印が懐かしく今もしっかりと大地に突き立っています。
ちょうど3年目に日、心待ちにする友はついに姿を現しませんでした。
《どうしたのだろう・・・事件に巻き込まれたのだろうか・・・》
友を心配する彼は、ムアン・チャンパー・ナコーン方面よりやってくる商人を見つけると、思わず呼び止めていました。
「3年ほど前のことですが、あなたの国に行った余所者の商人の噂を聞きませんか」
「ああ。あの人のことでしょう。あなたと同じ位の年格好の一人の男がいましたよ。王の婿になることを望んだそうだが、どうしたことか奴隷に成り下がって、毎日王女が水浴びする為に、水を汲んでいるよ」
奴隷の身に落ちた友の話に悲しみを抱きましたが、無事でいること事を聞くと安心し、その商人にお礼を言い、急いでムアン・チャンパーに向かいました。
ムアン・チャンパーに辿り着いた知恵者が友の姿を見つけることは難しくありませんでした。
王室用の水汲み場近くに潜んでいると、友が水汲みにやってきました。奴隷の身に落ちている友を3年前と変わらぬ友としての態度で接し、彼からこの間の苦労とどうして奴隷に身を落としたのかそのすべてを耳にしました。友の話を聞きながら、知恵者は人間を猿に変えるワーンを奴隷に桶の中に水に浸して揺すりました。
「おい。この水を持って行って王女に浴びさせろ。ただし、お前が触ったり、外の人に触らせるなよ。王女がこの水で水浴びすれば、その身は猿に変わるだろう」
「・・・」
「王は、猿に変わった王女を元通りにする医師を探すだろうが、誰も出来はしない。そこでだ。お前が進み出て王女を猿から人間にするんだ。それには、このワーンで猿の頭を撫ぜるように軽く叩くだけだ。そうすれば王女は必ずに人間の姿に帰るから。ただし。如意珠を返して貰うこと、王女を嫁にすることが条件であるを忘れるなよ」
奴隷が持ち帰った水で水浴びした王女がいきなり姿を消し、代わりに猿がいることに国中が大騒ぎとなり、いかなる悪霊ピーの悪戯かと国中の呪術師が呼ばれました。名医と呼ばれる医師も呼ばれました。しかし、誰一人として王女が猿に姿を変えた原因を見出すことが出来ず、元の王女の姿に返すことも出来ませんでした。
「私奴に機会を与えて下さい。ただし、もしも、私奴が治療することが出来れば、王は、何を私奴に下賜されますでしょうか」
「儂は、お前を奴隷の身分から解放して婿にしてやろうではないか」
「それだけでは不足です。如意珠をも私奴に返さねばなりません」
「分かった。もしもお前が治療することが出来ればじゃ」
富豪は、知恵者からもらったワーンを使って猿の頭をポンと軽く叩くと、猿の姿が元の美しい王女の姿に返りました。かくして、知恵者の助言に従った富豪は奴隷の身から解放されて如意珠を取り戻したのみならず、王女と結婚しました。
それから間もなく、知恵者は富豪をムアン・チャムパー・ナコンから誘い出して、かつて杭を打ち立てた別れ道にやって来て言いました。
「さあ。あなたは知恵が財よりも優れていることを認めるかい」
「儂は、知恵の方が良いことを認めよう。そうでなければ、お前は俺を助けることが出来たかい」富豪は、負けを認めました。
「これだよ、友よ。俺が知恵の方が良いというのは。何故なら、使えども尽きることがないからで、使えば使う程沸き出す。しかし、財宝は、使えばいつの日にか尽きてしまう日が来る。そうだろう。友よ」
(了)
マユリー・アヌカモン著「ラーンナーのお伽噺」に収蔵されている「二人の親友」より題をお借りしました。
冒頭の写真は「クルアイ・カイ・チュアム」といい直訳すれば「シロップ煮卵バナナ」ですが、クルアイ・カイ(卵バナナ)という小さなバナナがありますが、それを砂糖を煮詰めたシロップ液の中でさらに色付くまで煮詰めたものです。
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