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お昼間、ほかほかの陽射しが差し込む車両の中に、
天使が二人。 がらっと空いた座席の端に座ってくすくすくすくす、 お互いを軽く押したりして遊んでいる。 小学校1、2年生の彼女達. 紺のベレーとハイソックスに、胸に赤いチェックのリボン。 プリーツスカートからは、この頃特有のほっそりした足が、 床に届かず頼りなげにふらふらしている。 二人してお揃いの、ふっくらピンクの林檎みたいな頬をして、 行儀良い子猫みたいにじゃれている。 左の子は、両方の膝小僧に怪我をして、 右の子は怪我なんてしたことないわとばかりに澄ましてる。 ちびさん達がこちらを向くと、フフっと思わず目が笑う。 同じ並びに座っていたおじさんが何処かの駅で降りていくと、 右のおしゃまさんがツツツと同じ並びの端っこに。 手すりを掴み、左の端っこ席のお転婆さんを見ながら手を差し伸べる。 「こっちにこない?」と言うように。 お転婆さんは、クスクス笑って行かないわって首を振る。 おしゃまさんは、もう1回と手を差し伸べる。 その瞬間、ドアが開いて女子高生が3人。 おしゃまさんは、一瞬ためらい、そうしてすぐにお転婆さんの隣を確保に慌てて戻る。 お転婆さんは、そんなおしゃまさんを見てフフッと笑う。 おしゃまさんも、下を向きながらクスクス笑う。 睫がほっぺに長い影を落とした。 お互いを見ないようにして、おしゃまさんが肩からぶつかる。 お転婆さんが笑いながら、ぶつかり返す。 とん、とん、とお互いに押し引きを繰り返しながら、 何かが繋がっているのを感じているのか嬉しそうに二人は笑う。 と、お転婆さんが何か物語の本を取り出す。 おしゃまさんが、故事・熟語の本を取り出す。 お互いに、面白いんだよっていって1−2分読んだかと思うと、 相手の本が気になるようでチラチラとお互いを伺っている。 お転婆さんがおしゃまさんに「これ面白いのよ、読んで!」と言って、 おしゃまさんの本をとる。 おしゃまさんは、文句も言わず、 ここのココが良いの!と、指差されるところを真剣に見つめてる。 お転婆さんは、自分が交換した本を周囲に面白そうに見せかけながら (実際には、どこが面白いんだろうこんな本?とでも言うように)、 ゆっくりと頁をめくる。 そうして、お互い交換した本を見ながら相手がどう思うのかな? って本の隙間からそっと伺っている。 お昼間の電車の中は、女子高生達のクリスマスの夢話、 小学生の友情の駆け引き(?)、 それからぬくぬくとした穏やかな眠気に満ちていて 唇が、自然に笑う昼下がりのことでした。 |
電車の中
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電車の中での出来事のみをまとめています。
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ゴン・・・! 音と振動に振り返ると、 隣のおじさんがうとうとしながら窓の桟に後頭部を打ちつけていた。 窓の外は気持ちの良い秋晴れで、陽光が目覚める気配もないおじさんの頭を ツヤツヤ、つやつやと磨き立てているようだった。 こんなに上を向いて、よく口が開かないものだ。 寝ながらも己を律しているんだろうななんて考えていた。 おじさんは、前方から月代のように涼しくなったタイプのようで、 窓の桟に当たるところは髪の保護がなくて痛いだろうに、随分気持ちがよさそうだ。 起きたらコブになっていないといいのだけれど。 そんなことをぼんやり思っていると、 おじさんの前方頭頂部にそっと残ったほわほわした産毛のような髪の毛が、 電車の振動に揺れ、お日様に透けて優しげなグレーにきらめいた。 軽くカールし、やわやわとしたそれを見ながら、「鳥の巣みたいだなぁ」と思った。 小学生の頃、軽井沢だったか・・・ 親の知り合いのやっているペンションに泊まった。 かなり有名なアーティストさん達がこっそり来てレコーディングをするという しっかりとしたスタジオがあった。 幼い私に、スタジオの設備の凄さなどはさっぱり分からなかったけれど、 小さな馬場や、白樺の木立などもあり、開放感のある大きな部屋には引き上げ式の大きな窓。 暖炉は薪が燃えていたし、巨大な蜜蝋が心が温かくなるような甘い香りを漂わせていた。 のんびりとリラックスできるスペースがふんだんにあるのに、客室は数部屋のみ。 スタジオだけど、かなりの有名人が来るとのこと。 もしかしたら、普段あまり出歩けない彼らのために、ゆったりとできるスペースを詰め込んだ 小さなリゾート・・箱庭みたいなところだったんだろうなと、今は思う。 ともかく、そこの玄関口に1mほどの樹高のヒバの鉢植えがあった。 オーナーのおじさんに「こんにちは」と言ってすぐ、だったのだと思う。 おじさんは私と兄を手招きして鉢植えの地面から50cm程の所を指差し「覗いてごらん」といった。 そこをそっと覗くと、青いヒバの茂みに小さなトンネルが出来ていて、 その先、ヒバの幹から枝分かれした部分には直径20cm程度の鳥の巣があった。 鶉より一回り大きいくらいの、象牙色に、黒っぽい斑のある卵が、 ふわふわとした灰色の羽が敷き詰められた巣に3つ、ちょんと置かれていた。 巣から目を離すと、知らずに詰めていた息が口からため息になって流れ出す。 「親鳥は、いないの?」 おじさんに聞くと、「ここにいたら、怖くてかえれないからね」とおじさんは言った。 息が白くなりかけの頃のこと、もっと見たい気持ちを抑えて中へ入った。 そこでは1週間ぐらい過ごしたのだったか、 玄関前を通るたび、私と兄はこっそりと巣を覗いた。 一度も鳥が温めている姿は見なかったけれど、 大事にされているんだろう卵が、ふわふわとした羽にくるまれている姿がとても好きだった。 電車のおじさんのふわふわの髪の色。 すこし量が減ってたけれど、あの鳥たちの卵みたいに、きっと大事にされているのだろう。 なんてことを、欠伸しながら考える。
今日も大変良い天気。 |
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「僕が行きます!」知らない、誰かが言った。 「お願いします!」顔も見ずに私は言った。 男性の温かな手が充電器をさっと受け取り、男性が履いていたスニーカーが、 すぐに視界の向こうへ消えていった。 台風の日だった。 朝から電車は混んでいて、嵐の余韻が心に残るのか、駅周辺の人達は、 夜中になってもなんとなくいつもより元気な気がした。 その日、かさばる買い物袋を手に、定期で小さな改札を潜った瞬間、 同じ時に改札を出た女性が、すれ違いざま携帯の充電器を落とした。 カツーンと改札内に落下音が響き、パラパラと構内にいた人たちが振り返る。 「すいません!」条件反射のようにそれを拾い、呼びかけた。 「落としましたよ!」 電池交換式の白い充電器を落とした彼女は、白い大きなヘッドフォンをして改札を抜けていく。 「すいません!」言いながら、それを見ていた駅員さんに問いかける。 「いいですか?」すでに自動改札にパスモは当てた。出てもいいかと、駅員さんに目で問うた。 駅員さんはグンと大きく肯き、手のひらを上にして改札外を示した。 「どうぞ」と目で言われて引き返す。 私もまだ改札から出ていない。 「待って」と言うのと、自動改札の羽(?)が出てくるのは同時だった。 慌てたお腹に羽がぶつかる。 勢いあまって無理やり抜ける。 買い物袋の中のビンが当たってガチャガチャと変な音を立てる。 袋を目線で確かめる。 そこに知らない誰かの声がしたのだ。 あっという間の出来事で、知らない同士、中々の連携だったとつくづく思う。 彼は駆けっていった。 改札を入りなおして振り返ると、渡してくれたのだろう。 彼が手を振っていたので、嬉しくなって振り返す。 ホームへの階段でふと、落とし主は中々の美人さん・・・(ぽかったな)と思う。 これがきっかけで恋が生まれたら面白いのに。。。と、改札外の二人の事を考えた。 友人に語ったところ、さすがにそれはないだろうと彼女は笑った。
知らない誰かの落し物は納まる所へと帰った。 先週なくした私の財布は・・・・今も何処かを旅している。 |
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土曜日、朝から雨が降っていた。 外へ出ると昨日までとは少し違った寒さにどきりとさせられ、 息を強く吐くと空気に白い筋が出来た。 空気が白くなるのはこの冬初だ。 アスファルトが濡れて黒々としている。 近所の庭先の柿の木が華やかな赤と緑の斑に染まった葉の間から たわわに実った真っ赤な実を覗かせ、 しとしとと降る雨の中で何羽もの烏が柿の実を楽しんでいた。 烏達の食べ方は荒っぽく、柿の木のご主人にとっては迷惑なことに、 柿の根元に広がる駐車スペースには幾つもの柿の実が落ちて潰れ、 濃い灰色に濡れたコンクリートの上に艶々としたオレンジの色を咲かせていた。 雨の日の色調の落ちたような世界の中で咲いたその色に思わず見惚れた。 去年の柿の季節、私は一度もカラス達が柿の実を食べているのを見ることが無かった。 家々の庭になる柿は、烏にも人にも食べられることが無く ただ道を行く人の目をその色で楽しませているだけだった。 だから、 柿のご主人には申し訳ないことに柿の木に群がる烏達の姿は何故だか無性にホッとさせられた。 昨年、柿の実が食べられていなかったのは、 農薬か何かで、食べられないような柿になってしまっているのではと不安に思っていたから。 今年は、その杞憂が晴れた。 友人宛の手紙を出した帰り、 どこかで見たような小学生と擦れ違った。 赤いTシャツに青いチェックのシャツを羽織った男の子。 ちらりと見て、何かがなんとなく引っかかって 小学生の時の同級生に似ているのかな?と思って通り過ぎようとしたら、 「こんにちは」と言われた。 知らない小学生に「こんにちは」と言われて ちょっと焦りつつ嬉しくなって「こんにちは」と返した。 近頃の小学生は変な犯罪も増えて挨拶しない子が増えたというのに、珍しいな。 と、擦れ違ってニコニコしながら傘をクルリと回す。 そして、軽く笑って「こんにちは」と言った少年の顔を思い返し、 慌てて振り返ると、少年の後姿はもう2m程先へ進んでいた。 見たことがあるのも当然。 彼は私が先日電車で怒ったあの大柄な少年だった。 土曜日だと言うのに授業があったのか。 そもそも我が家の側の小学校に通っているのか、それとも近所に住んでいるのか? そんなことを思いながらも彼の自然な笑顔を思い出して胸が熱くなった。 あんな風に叱ったのに、こちらは気づいていなかったし、 普通に擦れ違ったって全く大丈夫だったというのに、 彼が自然に挨拶をしてくれたことが、偶然の擦れ違いをしたことが、 まったく想像もしていなかった嬉しい喜びだった。 私は彼の後姿を少し見送ると、
誰もいない道で少しだけ子供に帰ったような気分でクルクルと傘を回して家路についた。 弾むような気持ちのまま歩く道が、 いつもより少しだけ長ければ良いのにと思いながら・・・。 |
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今も正しかったのか良くわからない。 先日、電車の中で騒いでいる子供たちがいた。 雨が降った日、 小学3年生くらいの4人組が黄色い傘を 扉の近くの吊り輪に掛けてサンドバックに見立てて順番で軽く叩いていた。 傘は小さな彼らの拳に撃たれてゆらゆらと水滴を飛ばし、 近くに座っていた人が軽く身を引いた。 4人の内1人はそれに気づいているのだけれど・・・ グループの中では発言力がないようでなにも言わずにそっと頭を下げていたが 彼は一番最初に電車を降りて行った。 しばらくきゃいきゃいとはしゃいでいた彼らだが、 だんだんとはしゃぎ方がおかしくなってくる。 一番小柄な少年の髪を一番大きな少年が冗談交じりに引っ張り始める。 どうも小柄な少年の言った何かが気に食わなかったよう。 小柄な少年が「やめろよ」と言いながら「引っ張られても平気だ」と、 笑ってやせ我慢をしながら大きな少年を睨む。 大柄な少年は抗議を意に介さずそのまま髪を引き続ける。 しばらくすると周りの目に気づいたようで、 口では「ごめん」と言いながら、他の乗客に見えないように小柄な少年の髪を引っ張る。 これでは小柄な少年も腹の虫が納まるわけが無い。 もう一人の少年は困ったように二人を見つめる。 大柄な少年と小柄な少年はお互いの腕をつねりながら、 もう一人の少年は彼らがお互いを叩いたり声を出す毎に 周りの大人たちがビクリとそちらを見つめるのを見て恥ずかしそうにうつむき たまに「やめろよ」と、二人に声を掛ける。 扉の辺りが混んで来たからと3人は場所を移し、座席に座るものの、 大柄な子は隙を見つけると小柄な子の髪を引く。 小柄な子が怒って相手の手を離そうと相手を殴ると、 大柄な子は殴られたことに一層腹を立てて相手の髪を場所を変え、何度も引っ張る。 二人が喧嘩をするごとに二人の体は右に左に揺れ動き、 左右の大人は彼らを見ながらどうしてよいかわからず身を縮める。 基本的に私は子供の喧嘩は大人が首を突っ込むものではないと思っている。 子供たちの間に大人が首を突っ込んでは仲直りも上手くいかず関係がこじれることも多いと思う。 第一、子供は力の加減というものがなく、喧嘩の仲裁はひどく怖いのだし、 子供の喧嘩は突然始まり突然終わるものも多い。 彼らがお互いを殴りあうたび、 私はびくびくと怯えた。 と、その時、小柄な少年と穏やかな少年が二人、 隣の扉側の座席に移動した。 大柄な少年はその後ろに自然に付いて行き、 喧嘩もしていたけれど何となく仲直りかと思ったその時。 大柄な少年は小柄な少年の上に座った。 膝の上なんてものではなく、小柄な少年に全身を預け体重を押し付けるようにして座った。 小柄な少年は「ふざけんなよ」「くるしいだろ」「どけよ」と叫びながら 目の前にある大柄な少年の髪を引っ張った。 車両中の目が彼らの所へ注がれる。 大柄な少年は「ふざけるな」「痛いだろ」「髪を引っ張るな」と叫ぶ。 小柄な少年は「お前が俺の上からどくのが先だろ」「早くどけよ」と叫び、 空いた手で大柄な少年の背中をどんどんと叩く。 大柄な少年と小柄な少年は相手がやっている行為をやめるのが先だと叫びあう。 小柄な子は興奮しすぎてもう泣いている。 我慢の限界だった。 子供たちの喧嘩に入るのは嫌だったけれど、堪らなかった。 おさまるかと思っていた喧嘩は、電車に乗ってすくなくとも10分は続きっぱなしだった。 喧嘩もやっていいレベルとそうでないレベルがある。 「いいかげんにしなさい!」 「あなたさっきから彼の髪の毛引っ張ってばっかりでひどいじゃないの」 気づいたら彼らのところに行って怒っていた。 「誰だって乗られたら苦しいし、 こんな風にあなたたちが喧嘩しているの見るのあんまり悲しいじゃないの」 「兄弟だか(片方の子がかなり小柄だったので)、 お友達だか知らないけれど、なんでこんなことばっかりするのよ」 注意をするのは怖かった。 バクバクと胸は打つし、声は裏返る。 でも、そのまま見ているのも、もう辛すぎた。 大柄な子は私を見るとむっとして私を睨むと「関係ないじゃん」と言って立ち、 小柄な子を殴ろうとする。 私は彼の細い腕を掴んで殴れないように止めた。 「離してよ」と、彼は私を睨む。 「離したいわよ」と、私も言いながら振り払おうとする彼の手首をしっかりと掴む。 穏やかだった子は俺駅着いたからと席を立って電車の外へ出て行った。 「だって・・・この人が悪いんだもん」大柄な子は私に腕を掴まれて諦めたのか ふてくされたように小柄な子を指差していった。 「この人が・・この人が・・・」 「そんなこと言って、あなたさっきから髪引っ張ったり手を出してばっかりじゃない。 なんでそんなことするの?大体喧嘩するならせめて相手を名前で呼びなさい」 私の口から出る声は、いつもよりも高く震えて聞こえた。 「だって○○(小柄な少年の名前)が悪いんだもん」 大柄な少年はそう言いなおし、足元で小柄な少年の足を踏んづけようとする。 小柄な少年もそれに応戦しようとする。 大柄な少年の瞳に涙が浮かんだ。 小柄な少年も既に泣いている。 なんとかかんとかお互いの靴を踏むのを終えさせると、 大柄な少年は小柄な少年の脇の席に座った。 小柄な少年は「なんで俺が悪いんだよ」と大柄な少年を睨む。 「だって・・」と言いながら大柄な少年は小柄な少年の髪を掴んで 「お前からやってきたんじゃないか」と真っ赤な顔で言う。 小柄な少年の髪を掴んだ手を「やめなさい」と外していると、小柄な少年が大柄な少年を殴る。 「あなたもやめなさい」と二人の間に手を渡す。 「ハンカチいる?ティッシュいる?」と ぼたぼたと涙を流してしゃくりあげる大柄な少年に聞くと 「持ってるから」と首を横に振りかばんを探す。 自分は悪くないと呟く彼に仲裁している後ろめたさから「じゃあ私が悪いのかしら?」と言うと ブンブンと首を横に振って否定する。 「私も強く言い過ぎちゃったから、そこはごめんね」と言って頭を撫でるとまた首を横に振る。 子供たちの喧嘩に首を突っ込んでいることに。 泣かせてしまっている罪悪感で胸が痛む。 「だって・・・・ お前が学校の給食の時にばい菌っていったから」と大柄な少年が真っ赤な目をして しゃくりあげながら言うと、 「言ってないよ」と小柄な少年が目を潤ませて「そっちが急に殴ってきたんじゃんか」と続ける。 しゃくりあげる声の合間から相手へ投げる言葉が出てくる。 殴り合いが減り、話し合いに近くなってきたからもう安心かと見ていると 突然、 「あなたたち、まだ喧嘩するなら電車を出なさい!」と女の人の声がした。 「あなたたちね、公共の場はね、電車の中は喧嘩をしちゃいけないの! まだ喧嘩するって言うなら車掌さん呼んでくるわよ! 電車の中の大人がさっきからみんなあなた達を心配して見ているのがわからないの? 言ってくれたお姉さんに感謝して、言ってくれる大人がいることに感謝して、 さっさと仲直りしなさい」 「ごめんなさいは?」脇を見るとキャリアウーマン風の女性が腕を組んでいた。 話し合いをしだしているのだし、 言わなくても良いかもと思って彼女に声を掛けかけると 彼女は「さっきから見てたけれど、よく言ったわね。 でもね、こういう子達にはもっとびしっと言わなきゃだめなのよ。私子供いるんだから任せて。」と、 不敵に笑うと「ごめんなさいは?」と、座る少年たちに続けて訊ねた。 少年達は突然の伏兵に驚きながらも、 「お前のせいだ」と軽くお互いを叩き合いまた殴りあいを始める。 彼女はそれを見て「電車の中で騒ぐなんてことはするもんじゃないのよ、いい加減にしなさい」 としかり、二人がまたぼろぼろと泣きながらうつむいたのを見ると、 「じゃあ、私次で降りるから。頑張ったわね」と、降りていった。 電車はもはやラッシュと言える混みようだったが、 二人の泣いている少年の前に人は来ず、私だけが彼らをポツンと見下ろしていた。 そして、終点が近づくと 早くに泣き止んでいた小柄な少年が荷物を持ってさっと扉の方へ駆け出して行き、 次の駅で大柄な少年も何も言わずに人波の中、前方へと去っていった。 ラッシュの中、子供たちが泣いていた座席には 子供たちが泣いていた雰囲気が残り、私の前の2座席にすわる人は現れず、 私は緊張の解けた虚脱と、子供たちをいじめたような罪悪感とがしこりのように残った。 出来ればお互いが何故相手に攻撃を仕掛けていたのか 話し合いで解決できないかと思ったのだけど。。 せめて彼らがあれから仲直りをしていてくれたなら嬉しい。 ぐったりとして電車を降りた時、 結局彼らは彼女が言う様に言った「ごめんなさい」は言わなかったなと思う。 子供達の喧嘩に割り込んだのはこちらだから、 私宛の「ごめんなさい」はいらないけれど お互いへの謝る言葉はあってほしいとそう思う。 そして、私が間に入ってしまったことで仲直りが拗れてしまってないことを祈る。 できるだけ争いごとは見たくない。 公共の場で騒いだことを叱ったことへの後悔はしていないけれど、 あれ以上、いじめじみた喧嘩が続かなかったことは安堵しているけれど、 彼らの自然な仲直りを阻害してしまったのではないかと、それが心配だし、 きちんと叱れたのか、あれで良かったのか・・・ 自分が彼らのこれからの成長のために正しいことが出来たのかがわからない。 喧嘩はある程度は子供時代には必要なことだとは思う。 喧嘩の仲裁自体怖いことではあるのだけれど、 この日、 喧嘩という一種のコミュニケーションの中で喧嘩相手の名を呼ばず 「この人」と呼ぶ態度が一番怖ろしかった。 間に「お前」や「こいつ」という表現も出てきたけれど、 喧嘩をしているにも拘らず「この人」では相手との距離が遠すぎる。 喧嘩相手の名を呼ばないと言うことは、相手の人格を認めないことでもある。
名の無い相手への攻撃はエスカレートしていくのではないかとそんなことを思う。 |





