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『流離譚』 安岡章太郎
安岡章太郎の郷里は土佐である。ところが東北に一軒だけ親戚があるといふ。昭和16年頃、或る日突然、安岡正光を名乗る東北弁の初老の人が、東京の作者の家のあらはれた。そのとき、「やすおか」の発言だけが「や」にアクセントを置く土佐訛りにきこえ、作者は「をかしな感動をおぼえた」といふ。
東北弁のなかでその訛りをきくと一瞬、私は寒流のなかに暖流が流れこんできたときのやうに、生温かいもので全身を包まれる気がしたものだ。安岡は会津について次のように書いている。会津藩に象徴される固陋頑強な倫理観を固持して滅びるか、安岡はどちらともいつてゐないが、すくなくても固陋頑強な倫理感を抱いて滅びた人びとの声をかへりみない歴史というものは信じないであらう。と桶谷秀昭は書いている。
周囲を山にかこまれた会津盆地の空は、晴れてゐるときでさへ或る重量が感じられる。まして冷えこみの激しい晩秋の曇り空は、沈鬱そのものである。
かういう文章のひびきがその証拠のやうに思へるのである。ということである。『流離譚』の内容にはふれなかった。会津に関するところを抜粋した。
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