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たわいもない祈り 大沼紀子 小説新潮 2012・12
太陽は海の少し上にあった。広がった雲はその光を存分に含んで、その緑を発光させるようにして輝いている。揺れる波もやはりオレンジ色だ。それはキラキラと一面に散らばって、空にもおとらないほどの眩しさだった。
「・・・・・これも、見せたかったんだ」佑末子の後ろで、西村は小さくそんなことを口にしたが、中略・・・佑末子が西村を振り返ると、彼はオレンジ色を顔に映しながら、苦笑いを浮かべていた。そのオレンジ色の顔を見詰めながら、佑末子も小さく笑い返した。そしてひそかに、心で祈ったのだった。どうかこれが恋でありますようにと。「たわいもない祈り」というより心からの祈りではないのか。大沼紀子さんの自然描写と女心が美しく感動的に書かれている。自然と女心がにらめっこである。この短編の最後は、「フェリーは夕日に向うように、風を切って進んでいく。まだ空はオレンジ色のままだ。カモメはフェリーを追い越して、向こうの空に飛んでいく。佑末子はその景色を、ひとりではなく見詰めている。
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本の感想・・
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