このテーマについて、すでに筆者は、6月に行われた新経済連盟の「アベノミクス・フォーラム」で、パネルディスカッションの進行役の権限を利用して、パネラーの一人だった竹中平蔵・慶応義塾大学教授に「消費税は、どうすべきか? 」と質問している。
これに対して、竹中氏は、おおむね次のように答えた。「自分(竹中氏)は、今まで消費税率の引き上げに賛成したことはないし、消費税率を引き上げずに財政再建はできる。しかし、今回は、皆さんが『消費税率は引き上げられる』と予想しているから、今からそうしないと決めるのは大変でしょう」。
政治を見る感覚が極めて優れている竹中氏が、自ら「必要ない」という消費税率引き上げに関してこう言うのだから、「予想の問題として」、消費税率の引き上げは避けられないのだろうと筆者は思っていた。
率直にいって財務省の力は強い。どの政治家も財務省を敵に回したくないだろう。思い起こすと、かつて国民から絶大な人気を得ていた小泉純一郎元首相も、在任中、財務省には敵対しなかった。彼は勘のいい人だったから、負ける相手(財務省)とは喧嘩しなかったのだろう。
ところが、この予想に反して、消費税率引き上げは、なかなか決まらない。主に安倍首相と菅義偉官房長官のお二人らしいのだが、官僚が誘導しようとしている消費税率引き上げに対して、警戒心をお持ちのようだ。経済の先行きをよく見て判断するとして、なかなか決めない。
正直なところ、安倍政権がここまで頑張るとは思っていなかった。安倍ブレーンとされる浜田宏一エール大学名誉教授や、その他の方々の影響力が大きいのかも知れないが、現在最大の権力を持っていると目される財務省に敵対しかねず、消費税率引き上げの先送りの可能性を見せ続けていることは意外だ。
では、消費税率はどうすべきなのか、そして、現実問題としてどうなるのか。
■ 「べき論」としては、消費税は上げるべきでない
筆者は、消費税率について、来年度の引き上げ見送りを判断するのがいいと考えている。その根拠は以下の通りだ。最大の理由は、「増税」である消費税率引き上げが、需要の縮小につながる可能性が大きく、少なくとも余計なリスクであり、デフレ脱却のためのアベノミクスの指向するところに逆行するからだ。
国民が、「増税は遅かれ早かれやって来るものなので、早く行われても消費行動を変えない」といった「超合理的判断」をするので、消費税率引き上げが経済にマイナスの影響を与えない可能性は、理屈上はあるが、そこまで(非現実的なまでに)合理的ではないとすると、消費税率の5%から8%への増税は、景気になにがしかマイナスの影響を及ぼすだろう。
消費税率を巡る議論でよく話題になるのは、1997年の消費税率引き上げの影響だ。結果論からいうと、その後税収が落ち込んだのだ。ただし、この年には、三洋証券と北海道拓殖銀行の破綻、山一證券の自主廃業発表、さらに翌年には日本長期信用銀行の破綻と、日本のバブル崩壊による金融システムの緊張が最も大きくなった時期と重なっていて、この時期の景気の落ち込みが、どの程度消費税率の引き上げによるものなのかは判然としない。
しかし、この時の消費税率引き上げによる「増税」に、景気に対してなにがしかのマイナス効果があった可能性は否定できない。予定されている2014年度の消費税率引き上げにも、景気に対して何らかのマイナス効果が生じる可能性は否定できない。 消費税に関する「正しい結論」とは?
消費税率引き上げを一年先送りすることに関するリスクは小さく、一方で、消費税率引き上げに伴う景気へのマイナス効果がデフレ脱却を困難にするリスクは大きい。シンプルで正しい政策は消費税率引き上げの当面一年先送りだろう。
「1%ずつ段階的に引き上げる」といった、新たな法案の通過を要し民間の対応が面倒な「細かすぎる! 」選択肢を気にしないで、政治判断で「1年先送りして様子を見る」と決めるのがシンプルでいい。
経済政策として「消費税率引き上げの先送り」の初年度の効果を考えると、「増税が予定通りに行われた状態」と比較するなら、国民に対して約8兆円(消費税率1%=2.7兆円)の減税効果となる。消費性向を0.5程度と見込んでも、「増税が予定通り行われた場合」と比較すると、GDPを0.8%程度引き上げる景気対策だ。
一方、報道によると、消費税率を引き上げる場合の景気対策として、公共投資その他の財政出動(補正予算だろうか)や、法人税の減税、あるいは設備投資減税などが検討されているらしい。新聞などで、観測記事的報道が散見される。しかし、当面賃金の上昇は遅れざるを得ない状況下で、インフレへの転換を目指しているのだから、勤労者をはじめとする国民に広くキャッシュを返す効果を持つ消費税の減税は適切な政策だと考えられる。
つまり、消費税率を引き上げないのが最も良いということだ。
消費税率の引き上げを決めて、その悪影響を相殺するために補正予算を組んで公共事業に支出するといった、急ごしらえの財政支出拡大をやるべきではない。
そもそも、消費税の引き上げとセットで景気対策の話が出てくること自体、財務省も、財政再建を緊急の課題だと見ていないということだろう。彼らが求めているのは、彼らの権限の源である将来の予算の支出の裏付けを拡大することなのではないか。黒田日銀総裁は、先般行われた金融政策決定会合後の記者会見で、消費税率を引き上げても経済が成長することと、財政規律の堅持が金融政策の有効性確保に対して必要なことを強調した。端的にいって、消費税率は引き上げても大丈夫だし、引き上げるべきだ、というメッセージを発した。
これをどう取るかに関しては、複数の解釈が可能だが、財務省出身で同省の実力を知る黒田氏は、現実的に消費税率の引き上げが行われる公算が大きいと考えて、「消費税率が上がっても大丈夫だ」というメッセージを発したのではないだろうか。
一方で、参院選で大勝して政治的な力を増したはずの安倍首相が「政治家らしく」消費税率引き上げ先送りを決めてくれるといいと思いつつも、純粋な予想の問題としては、現実問題として財務省は強いので、消費税率の引き上げが決まるだろうと「予想」する。現実を想定するに、財務省の要職にある官僚さんの気持ちとしては、消費税率の引き上げは、将来出来ればいいというのではなく、自分がその地位にいる「今でしょ! 」ということなのだろう(気持ちは分からなくもないが、迷惑だなあ…)。
消費税率の引き上げが決まる場合、財政の側からも、投資減税や法人税率引き下げといったダメージ・コントロールが行われるだろう。また、国民から見て、そもそも増税は遅いか早いかの問題なので、消費税率引き上げの景気へのマイナス効果は案外小さいかも知れない。また、そもそも現時点では、消費税率は予定通り上がるとの見方が多数派であり、市場にもそう織り込まれているだろう。
マーケットに対する大きな見方として、デフレ解消を目指す金融緩和によって株価を含む資産価格は上昇傾向を辿るだろうという見方を変える必要はないと考えるが、消費税率引き上げが行われた場合の景気へのマイナス効果が意外に大きくなるリスクについては考慮に入れておきたい。これを相殺する金融政策・財政政策もある程度は可能なので、現時点で絶望する必要はないが、注意は必要だ。
山崎元氏が消費税について、来年度の引き上げ見送りを判断するのがいいと考えているとしている。その根拠は以下の通りだ。最大の理由は、「増税」である消費税率引き上げが、需要の縮小につながる可能性が大きく、少なくとも余計なリスクであり、デフレ脱却のためのアベノミクスの指向するところに逆行するからだということだ。
消費税率の5%から8%への増税は、景気になにがしかマイナスの影響を及ぼすだろうとも。1997年の消費税率引き上げの影響でも。結果論からいうと、その後税収が落ち込んだ。
経済政策として「消費税率引き上げの先送り」の初年度の効果を考えると、「増税が予定通りに行われた状態」と比較するなら、国民に対して約8兆円(消費税率1%=2.7兆円)の減税効果となる。消費性向を0.5程度と見込んでも、「増税が予定通り行われた場合」と比較すると、GDPを0.8%程度引き上げる景気対策だということになるとも。
マーケットに対する大きな見方として、デフレ解消を目指す金融緩和によって株価を含む資産価格は上昇傾向を辿るだろうという見方を変える必要はないと考えるが、消費税率引き上げが行われた場合の景気へのマイナス効果が意外に大きくなるリスクになるとも。
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