真正保守を訴える

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 【自作再訪】ダンテ「神曲」の翻訳などで知られ、比較文化史家として幅広く活躍する東京大学名誉教授の平川●(=示へんに右)弘さん(87)は、昭和46年刊の『和魂洋才の系譜』で論壇デビューした。明治最大の知識人、森鴎外が西洋の衝撃にどのように応答したかを描き、平川さん自身が国際派の学者として歩むアイデンティティーを確立した作品だ。(聞き手・永井優子)

昭和29年、フランス政府給費留学生として渡仏しました。まだ西欧に対する劣等感が強かったころです。戦後日本では、明治以来の日本をすべて否定する風潮が大勢でした。しかし、フランスに行って読んだフランス海軍士官クロード・ファレールの小説『日本海海戦』には、日露戦争前夜、フランス人社会に見事に溶け込んでいる日本の海軍士官の姿が描かれていた。

わが身を省みて、こんなだらしないことではいけない。明治日本の先輩の西洋文化の摂取の努力は、たいしたものだったと思いました。〈鴎外は「新しい日本は東洋の文化と西洋の文化とが落ち合って渦を巻いている国である。(中略)時代は別に二本足の学者を要求する。東西両洋の文化を、一本ずつの足で踏まえて立っている学者を」と述べている〉

鴎外は和漢洋に通じた知識人のロールモデルです。私はフランスにいて、フランス文明は偉大だと思った。しかし、ヨーロッパ文化の中心であるフランスも、16世紀にはイタリア文化に対して猛烈な劣等感を覚えていた。そうすると、逆にフランス魂などと言い出し、自己表現である詩はフランス語で書かなければいけないという。まさに「仏魂伊才」です。外来文明を摂取するときの心理が分かって、それを応用したのが『和魂洋才の系譜』です。
フランスからさらにドイツに留学し、後進のドイツが他国文化を追いかけた心理を追体験できたことも、この本を書けた理由です。
森鴎外の「石見人森林太郎トシテ死セント欲ス」という遺言の解釈をめぐっては、作家の中野重治氏と論争になりました。中野氏がいうように、森鴎外が死ぬときになって、栄典を拒んでじたばたしたなどとは、私には読み取れなかった。福井県坂井市の中野重治記念文庫には、3色のペンでびっしりと書き込まれた『和魂洋才の系譜』が残されています。私にとって、これはある種の勲章でしょう。
〈鴎外の「二本足の学者」を敷衍(ふえん)した、文化の「三点測量」が、その後の平川さんの研究スタイルとなった〉グローバル化が進行するにつれ、日本と外国、現在と過去にまたがり、バランスの取れた文化の「三点測量」をする能力がますます必要となります。
かつて大学の授業で、中国の白楽天の詩を、英訳、漢詩の訓読、訓読の日本語訳、英文の近代詩ふうの訳と、順々に読み解いて喜ばれたことがありました。非西洋(東洋)も西洋も知っているという意味では、日本人の方が、世界大の(視野をもった)人間が出てきやすいのではないか。そう考えると、鴎外は19世紀から20世紀の世界で、最大の知識人だと思っています。「産経新聞」

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