古い話だが、米国の中国問題専門官僚のロバート・サター氏を初めて知ったのは1982年3月、レーガン政権当時だった。下院外交委員会が日米関係についての公聴会形式の討論会を開き、エール大学のヒュー・パトリック教授、日本外務省の岡崎久彦氏ら証人の末端として私も招かれて、発言した。その際の調整役が議会調査局のアジア担当官のサター氏だったのだ。
サター氏はそれ以降、国務省、中央情報局(CIA)、国家情報会議と所属の政府機関を移りながらも、一貫して中国と取り組み、とくに中国の対外政策を追って、対中政策の形成にかかわってきた。私はサター氏の見解を数えきれないほど尋ねてきたが、彼のスタンスは常に反中でも親中でもなく、中庸を得て、客観的に思えた。
サター氏本人は個人の政治信条では民主党寄り、中国研究では自らを「穏健派」と特徴づけてきた。だが、その同氏がこれまでの自分の中国認識には誤りがあったと認め、トランプ政権の中国への対決基調の新政策を支持するようになった。
「私は長年、中国の動向に対してあえて危険視はしない穏健な認識をとってきたが、中国の高度技術の略奪的な取得にみられるような米国の国益を犠牲にする攻撃的行動を過小評価していたことを理解するにいたった」
いまはジョージワシントン大学の教授としてなお中国研究の第一線にあり、中国とロシアの接近についての官民合同調査の中核にもあるサター氏は自分の錯誤を率直に認めるのだ。一種の転向宣言ともいえるだろう。
「米国側は関与政策の名の下に中国も米国も受け入れられるアジアでの国際秩序の構築に努めてきた。だが中国はそれに応じず、逆に米国側の現状保持の政策基盤を切り崩す戦略をあらわにしてきた。中国側からの関与を期待した私たち穏健派中国専門家は一様に失望し、考えを変えることを余儀なくされてきた」
サター氏は最近の一連の論文や証言でこんな趣旨を述べる。そしてペンス副大統領の演説に集約されるトランプ政権の対中対決政策は民主党リベラル派の支持をも得ていることを強調し、これから長く険しい米中対立が続くという見通しを明言するのだった。
この民主党リベラル派の対中観としてはワシントン・ポストの外交問題コラムニストのジョシュ・ロギン記者による11月中旬のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)報道が参考になる。
パプアニューギニアでの同首脳会議を取材した同記者は中国代表団員たちが首脳宣言の採択を阻むために主催国の同国外相に強引に面会を求め、断られると力ずくでドアを開けて押し入り、警察を呼ばれるにいたるという経緯を詳しく報じていた。
リベラル派のロギン記者は同宣言草案には中国以外のすべての参加国が同意していたとも報道し、中国政府代表たちのその阻止活動は叫び、ののしり、「獣のようだった」とまで書いていた。だから「いまの中国政府は強引で被害妄想で無法」だとも断じる。
米国側の対中観は超党派でここまで厳しくなったのである。古森義久(ワシントン駐在客員特派員)
パンダハガーが総崩れである。米国側は関与政策の名の下に中国も米国も受け入れられるアジアでの国際秩序の構築に努めてきた。だが中国は大軍拡と覇権主義で世界秩序を破壊している。米中冷戦だ。
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