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■吉田文彦の地球360度(長崎大学核兵器廃絶研究センター長、元朝日新聞論説副主幹)
被爆74年を迎えるこの夏、核軍拡から核軍縮への転換点を歴史に刻んだ重要な条約が失効した。史上初めて核兵器の削減を義務付け、冷戦終結への導線ともなった米ロ(米ソ)間の中距離核戦力(INF)全廃条約だ。1987年に当時のレーガン米大統領と条約の署名式にのぞんだゴルバチョフ元ソ連大統領は8月1日、次のような声明を発表した。
「この条約の抹消は国際社会に何の利益ももたらさない。欧州だけでなく、世界全体の安全保障を危うくする」「(条約破棄を選んだ)米国の行動は、国際政治における不確実性を高め、混沌(こんとん)をもたらすだろう」
ロシアに条約違反の疑いがあったとは言え、条約破棄に突き進んだトランプ政権の選択はまさに「世紀の愚行」だ。
しかし、そう嘆くばかりでは先へ進めない。混沌の中にあっても、あるいは混沌にのみ込まれそうな今だからこそ、核戦争を防ぐための「次の一手」をうっていくことが不可欠だ。
さまざまな英知を結集して考える必要があるが、ひとつの方法は、核保有国が核先制不使用を決めることだろう。核先制不使用とは、相手が核攻撃してこない限りこちら(核保有国とその同盟国)は核を使用しない、核保有はあくまで相手の核使用を抑止することのみを目的とする、との考え方である。
INFはもともと「使える核」として登場した。しかし、INFで角を突き合わせれば核戦争の危険が高まるばかりだった。そこで、いっそのことゼロにした方がいいと米ソ双方が判断した結果、INF全廃条約が誕生した。それは冷戦末期に核先制使用のリスクを一気に低める英断でもあった。
こうした経緯を考えると、INF全廃条約を失った今こそ、核戦争リスクを低減させるために、核先制不使用を真剣に検討すべき時ではないか。この考え方はここ何十年も繰り返し議論されてきたもので、決して目新しくはない。だが、この条約なき世界において、核戦争を防ぐ重要な政策ツールとして優先順位を高めるべきではないだろうか。
そんなふうに思いをめぐらせていたら、米国の知人たちも同じようなことを考えているのを知った。かつて核ミサイル基地で勤務し、今はプリンストン大学で研究生活をおくるブルース・ブレア氏と、オバマ政権で大統領特別補佐官を務めたジョン・ウォルフスタール氏がワシントンポスト紙に、先制不使用宣言のすすめを連名で寄稿していたのだ。朝日新聞
INF全廃条約の原因のひとつは中国が、今や世界でも有数のINF保有国になったことである。米国だけでなく、露西亜も中国に脅威を持っている。核先制不使用宣言は何の効果もない。それよりも核軍縮だ。 |
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