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作家の原田ハマがアンリ・ジュリアン・フェリックス・ルソーという画家について、2012年7月号の小説新潮にエッセイを書いている。彼女はこの「へったくそ」な画家に出会ったのはこの二十歳ころ。そのおよそ二十年後、職場を去って身一つになった私は、彼に会うための旅に出た・・・。原田ハマのアンリ・ルソーについての思いはこの文章に著されている。「人生で、いちばんしたかったことを、すればいい。書けばいいんじゃないのか。いつも心の片隅で、こっそりとあたためていたことを。ずっと忘れずに、書きたかった。わが友アンリ・ルソーのことを。
アンリ・ルソーを原田は書いている。アカデミズムとは無縁だが、素朴な味わいをもった画家。遠近法も知らないが、独自の構成力をもつ画家。パリ市税関に勤めながら創作していた、日曜画家。同時代の芸術家たちが、揶揄してつけたニックネームは「税関吏ルソー」。後年に獲得した呼び名が。「素朴派の巨匠」。
原田はアンリ・ルソーの墓前を見つけた。その墓前には、口ひげをたくわえたルソーの横顔のメダイヨンがはめこまれて、墓石にはルソーの友人で詩人のギョーム・アポリネールの詩が刻まれていた。
「やさしいルソーよ、きこえますか僕たちは君に挨拶をおくるドローネ夫妻とクヴェルさんと僕だ僕たちの荷物を、無税で天国の門を通してくれたまえ筆と絵の具とカンヴァスをとどける君が僕の肖像画を描いたように聖なる余暇に、まことの光の中で、星たちの顔が描けるようにと」
原田はこのエッセイの結びに、やさしいルソーよ、きこえますか。たとえ、このさき、誰もがあなたを忘れても、世界があなたを忘れても。遠い日本から、こうして、あなたを忘れずにやってきた人間がひとり、ここにいます。と書いている。原田ハマは不器用な芸術家の生き方に、人間にとって多くの人に愛されることがアカデミズムを超えたものがあることを書いているように思えた。
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