|
満月だった。
妙に自分がざわざわと元気だと思った。
うっすら桃色の月が山からのぼるのを見ながら犬と散歩する。
種をまいたところに月明かりで水をまく。
里山に暮らすことで、自然と人間の暮らしの境目に身をおくことで、いろんなものを見たり匂ったり聞いたりしている。
しいの花の青臭い香り。
犬がくわえてきた鹿の角。
イノシシの死骸がだんだんと土に返ってゆく様子。
毎年必ず大量に生るさくらんぼ。
朝日が照らす山の端の光。
田んぼの上をすべるようにとぶ青サギ。
山際の田んぼでぷうんと匂うイノシシの糞のにおい。
暗闇からいっせいに飛び立つ鳥の群れの羽音。
去年と同じようにまた、びわの実はオレンジに色づくし文旦の花は白く咲き香る。
どんな獣も死骸になって土にもどる。
自分も自然の一部だし、死にゆくことも自然の一部と思う。
そして自然をある程度は制していかなければ人は暮らせない。
人が住まなくなった家が放置されていると数年で緑に覆われる。
まるで家が植物に、木に、草に、食べられてるみたいだ。
しばらく使ってなかったうちの離れの床下からも草が伸びて這い出していた。
草刈の音を聞くと、ああ、誰かが草を刈ってるなと思う。
草を刈ることは人の暮らしを続けるためのしごと。
きれいに草刈が行き届いたお庭や田畑を見ると、清清しく、また、そこにかかっている人の手を思う。
|