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『それだけ本を読むなら、書いてみれば?』
以前から何回か言われていたコトだったのに、なぜか私は驚いてしまっていた。
そして言った本人はそれを待っているかのような口ぶりだった。
小説など読む人じゃないのに。
分かってる。彼は『読んでいる時間を有効活用してほしい』と言いたいのだ。
【有効活用】彼が好んで使う言葉だ。
何年か前にはきっと私も好んでいた言葉。
それが私を躊躇わせる。
ちょうど一年まえに彼とは出会った。
新しい職場の同僚として。そして第一印象は
『眼鏡の人が二人もいる・・・。見分けがつくかしら?』だった。
私は顔を覚えるのが苦手なのだ。しかも背格好が似ている人がいたら・・・。
なんとか区別する方法を探し出した。
一週間もしたら間違えなくなった。
あくまで職場の同僚。なので深く付き合うこともないと思っていた。
彼はお酒も飲まないようだし、私生活の話を聞くと私の生活とはかけ離れているように思えた。
休日は草野球やバスケットボールなどを楽しみ、また時間があれば走っているという。
運動嫌いな私には想像もつかない生活をしている人=宇宙人。
それが彼の印象だった。
その職場はなぜか終業時間後もうだうだと帰らない人の多い職場だった。
うだうだするのが嫌いな私は、とっとと帰りたかった。
そんな中、いつもすっぱりと帰る彼はなかなか潔い人に思えた。
そしてそれに便乗して一緒に帰るようになったのだった。
無口な彼との沈黙が嫌で、くだらないことを話しかけて駅までの道のりを過ごしていた。
あるとき、彼はこんなことを言った。
私が『今週末は飲み会なんだ』と話したときだった。
『友達なんすか?今週末はダメなんですけど今度飲み会連れてってください』
『うん、いいよ。女ばっかりだから喰われないようにしてね』
その時私が考えたのは
【たまには男性がいたら、いつもの飲み会も変わるかも】。
その飲み会はいつも女だけでの「女子会」(よく言えば)だったから。
その日のうちに女子会メンバーに『職場の男子連れってていい?』とラインを入れた。
即答『yes!』
日程を設定するのは私の役目。で、彼の連絡先を知らないことに気が付いた。
次の日に彼に連絡先教えてほしいと頼むとすぐに教えてくれた。
その日の帰りにまた一緒になった。
そして私は都内のケーキ屋さんにケーキを買いに行くと決めていたのだ。
いつも彼とは電車が反対なのだが、一緒のホームに立った。
珍しく後ろに同僚も二人いた。
『今日はどこいくんすか?』
なぜか彼はいつも私が終業後必ず予定が入っていると思っている。
『ん?今日はケーキ買って帰るの。ご褒美だよ。』
この職場で正直きついことが続いて私の精神状態は安定してはいなかった。
甘いものが好きだという彼はどんなケーキか聞いてきた。
エキナカにあるケーキ屋だったので
『時間があるなら一緒に来る?買ってあげよっか?』
冗談で尋ねた。
意外にも一緒に行くとの答だった。
そして駅で降りよとしたら後ろから同僚に
『なに?デートでもすんの?』
と声をかけられた。その同僚は彼と利用駅が同じなのだ。
『違いますよ。たまたまです。お疲れさまでした』
と返事をして電車を降りた。
ケーキを買って彼と別れようと
『じゃ、お疲れさま。また月曜日ね』
すると
『うーん、めんどくさくなってきたから実家に帰ります』
彼の実家は私と同じ市内だ。よって帰りは同じ路線になった。
車内で「恋人はほしいか」という話題になった。
私は少し考えた。
なぜなら不倫だったが恋人がいたから。でも同僚に話すことではないな、と思い
『そりゃほしい。でもね、恋愛の仕方がわかんなくなってんだよね』
彼は真剣な顔で自分の恋愛観について話し始めた。
『少しでも気になったら食事とかに行って相手のことを知ることから始めるんです』
そんな手順を踏んだことがなかった私には新鮮だった。
さらに彼は言った。
『気になる人、いないんですか?』
その時彼は私の眼を覗き込んだのだ。正直驚いた。
今まで眼を合わせて会話したことがなかったから。
そして不覚にもドギマギしてしまった。
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