あなぶろ〜鍾乳洞紀行出張所〜

今までご入洞いただいた皆様、ありがとうございました! 2019.9.2 00:01 Azurite

書籍

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発売してからそれほど日も経っていないのに、都心で入手できない本があるとは、夢にも思っていませんでした。
「実物を手にとって考えよう」と思っていたのですが、三省堂でも、丸善でも、紀伊國屋でも「在庫なし」…完全に「絶版危惧種(いや、すでに絶版かもしれない)」です。
Amazonで在庫2冊。中を吟味している余裕などありません(そう遠くない日に絶版になりそうですし)。慌てて注文しました。

※補足
2012/7/8現在、確認したところ、Amazonに在庫が1冊ありました。
あれから誰も買っていないのか…(苦笑)
中古では入手できそうですが、おそらくリアル古書店での入手は困難かと…

本ブログで紹介するのですから、当然「鍾乳洞絡み」の本です。
…というより「そういう書籍です」という紹介を信じて(!?)購入した本です。
普段小説を読まない身としては、あまりに「ありえねー」本で、そのうち気が向いた時に書評を書く予定でしたが、急遽「この時期」に、書評をアップする事にしました。
文字数制限に引っかかったので、「前編」「後編」に分けています。
(5,000字って、かなり少ないんですね…)

上記にあります通り、これは「小説」です(Amazon的には「探検小説」だそうで)。
しかし、冒頭からまったく「世界観」を受け付けられませんでした。
ここで読者を引き込まないと、小説としては難しいと思うのですが…

ある日の午後、コーヒーの香りが立ち込める、独り暮らしの男の部屋。僕の名前は網野孝一、三十歳で独身だ。

都内在住なら、三十歳で独身って、ふつーじゃん。それって冒頭で強調する事か?
コーヒーはともかく、ここでドン引き(苦笑)。
(神奈川都民の添削:「三十歳で独身だ」→「三十歳でフリーターだ」)
もっとも、こういう書き出しになるのには、それなりの主人公の背景があるのですが…

僕には郊外に両親が残してくれた小さなビルがあり、賃貸収入だけで十分生活できた。銀行の口座には不動産業者から賃貸料が毎月振り込まれてくる。僕が学生の時、父が亡くなり、病弱だった母も後を追うように他界してしまった。フリーターで得た収入は、ほとんど旅行や趣味に充てていた。友達はうらやましいと言うが、やはり肉親はいた方がいいに決まっている。僕には兄弟もなく、ひとりぼっちだ。本当は早く結婚をして家族と呼べる者が欲しかった。

普通にうらやましいっす。今時の職に就きながらも貧しい若者に、喧嘩売ってるのかよ!
それに、順番的にいうなら、亡くなるのは両親が先だろうに…(学生時代というのは、確かにしんどいだろうが、自分が先に亡くなる方が、よっぽど両親に悪い気がする)
しかも、寂しさから結婚なんて、相手に失礼だし。猫でも飼いなさい!(猫の飼えるマンションに住んでいる設定のようですし)
あと、結婚したからといって、将来ひとりぼっちにならないとは限りませんので、根性たたき直す為にも「おひとりさまの老後」でも購入して、読んだ方がいいでしょう。

網野君の結婚願望はとりあえず置いておくとしても、あまりにも行動が軽率すぎます。
DM(電子メール)にあった「地底探検ミステリーツアー『白亜紀の世界』へ、あなたを誘います」のURLにアクセスして、「先着7名で締切」を見て、速攻で申し込む…
振り込め詐欺なんかには、余裕で引っかかりそうです。
ネズミ講とかも、即騙されるタイプでしょう。やれやれ…

余計な(?)説明が長くなりましたが、この「地底探検ミステリーツアー」に、鍾乳洞が若干絡んできます(その為に、鍾乳洞絡みの書籍扱いになっているのでしょう)。
このツアー先の近くに「白馬洞」という鍾乳洞があり、その地下が竜宮城につながっているのでは…という言い伝えが、このツアーにそれなりの意味を与えています。
「白馬洞」というのは、福井県に実際に存在する鍾乳洞ですが、現在は閉鎖されております。

小説の前半に、網野君の元カノ「涼子」との話が出てきます。
「地底探検ミステリーツアー」の付近に、かつて元カノと旅行に来たからという事らしいです。
いかにも物語の伏線っぽいのですが、実態は「るるぶ福井(大野紹介ページ)」といった感じです(でも「大野市」と聞いて、どこにあるかわかる人が、何割いるか疑問…)。

その後網野君は「地底探検ミステリーツアー」の現地、現在は廃坑…じゃなく、休坑になっている「竜納鉱山」に、のこのこと行っちゃう訳です。
ここでの出来事(地底探検ミステリーツアー)が、この本の大半を占めているのですが、これがなんとも…

●ツアー参加者のネーミングがひどすぎます!
ツアーの案内役の「多田」という人のみ名字が出てきますが、他の参加者6名は「迷彩服」「ホクロ」「ビーバー」「メガネ」「キャプテン」?
(残りの1名は、気の毒な事に、途中まで年配女性だの年増の女性だのおばさんだの、さんざんな呼ばれ方をされています)
なぜか網野君だけは、都合良く「必須アミノ酸」とか呼ばれています。
確かに、小説の主人公は必須…ではありますが…

●会話には、参加者(=著者)の蘊蓄披露が満載です!
フィクションで「これ」をやりまくるのは、著者が物語を作るのに手を抜いているか、「こんな事も知ってるんだぞ−」と自慢したいか…まあ、どちらにしても見苦しい、いや、読み苦しいだけなのですが。
しかも、その内容に間違いがあっても「これフィクションですから」で済む訳です。
ちなみに、小説の舞台となる福井県についての情報(PR?)も、しっかりされています。

●案内役「多田」の仕事っぷりが適当すぎます!
参加者を呼び寄せる時は、なぜか「ピー」と、ホイッスルを吹く設定になっています。
朝のラッシュ時のホームか、サッカーの試合か…もう意味不明です。
(せめて、熊よけ鈴程度にして欲しいところ)
しかも途中で道を間違えて、参加者を酸欠で殺しかけます。
更に途中で、参加者を1名、行方不明にします(婉曲的に行方不明者の死亡フラグが…)。
そして、期待を裏切らず、今度こそ本当に、地底で迷子になります。

迷子になった挙げ句、網野君は崖から落ちるのですが、落ちた先が、地底湖に人魚らしき生き物が泳ぐ不思議な世界…「地底のヘネラリーフェ」と表現されていましたが、普通の人は「ヘネラリーフェって何だ?」と思うはずです。
わざわざ小説内で、

ヘネラリーフェとは、花々と清らかな水が満ち溢れた離宮のことだ。

との、丁寧な解説が付いています。
うちのATOKは「へ寝ラリーフェ」と変換しましたし…一般常識用語ではありませんよね。
実は、記事のタイトルには「添乗員のタダ」とありますが、これは私が勝手に、この本につけたタイトルです。
(もちろん某ドラマは意識しましたが、某携帯会社のCMより先にこのタイトルを考えていた事だけは、付け加えておきます。時期が時期なら、このタイトルだけで、うっかり買う人もいたかもしれません。なお、多田本人は小説内で「案内役」となっているので、本来は「添乗員」ではありませんが、旅行の雰囲気を伝える為、敢えて「添乗員」としました)
多田さんのお仕事は、あまりに酷すぎます。まさに「タダ」いるだけ。
いや「タダ」より邪魔な奴はいない、とも言いたくなります。
しかし作者は、本のタイトルでも、自身の博識っぷりを披露したかったのでしょう。
この本の本当のタイトルは「地底のヘネラリーフェ」なのです。

イメージ 1
(なんと、表紙&裏表紙の人魚の絵も、著者が描いています)

でも、主人公の「必須アミノ酸」が、ここで死んでは困る訳です。
で…まさかのというか、禁断のというか、お約束の「夢オチ?&浦島太郎」展開が待っています(そういえば、行っていたのは「竜宮城」だったっけ)。
あー、これやっちゃダメでしょ。
「竜納鉱山」での出来事は、伏線回収なしですか。そうですか。
いや、それなりに伏線は回収しています。網野君の妄想モードで。
網野君は勝手に自己解決しちゃっていますが(もともと、深い考えもなく、変なツアーに申し込むような奴なんだし)、読者は置き去りです。少なくとも自分は置いて行かれました。

そして最後の最後に、元カノ「涼子」ネタの伏線を回収…しているようです。
この展開(だけ)は、それなりに秀逸かな…とも思います。
しかしその後、網野君による、物語の解説もどきモード(そもそも、優れた小説なら、こんな説明部分は不要かと…)が炸裂します。ここまで事細かに書かなくていいです。もう追いかけませんので、竜宮城でも白亜紀でも、どこでも行っちゃってください。

極めつけに、うまく終わらせたかに見えた元カノ話を、最後の最後の最後で蒸し返します。
せっかく、唯一褒めた箇所だったのに…(苦笑)
たとえるなら、白身魚フライに、いい具合にタルタルソースをかけたのに、その後、普通のソースの樽にぼちゃ、といった感じでしょうか。これはくどすぎ。やりすぎ。残念。
ただ、「家族が欲しくてしょうがない」網野君という設定を象徴している結末とも言えなくもありません(最後の一文で、主人公の名前が「孝一」でなければならなかった理由もわかります(笑))。

ツアーのお土産に、以前ブログで紹介した「洞窟真珠」をゲットしていたり、トルコ旅行中にパムッカレに行っていたり、鍾乳洞を彷彿とさせる描写は何度となく出てきますが…うまく、鍾乳洞のエッセンスを入れ込んでいる「だけ」です。
決して、鍾乳洞が悪いイメージで語られている訳ではないのですが、肝心の物語に、引きつけられるものがなければ、どうしようもありません。
知識のパッチワーク的作品としては、それなりに上手にできているのかもしれませんが、小説としては…以下略。

書評から察しが付いたかもしれませんが、著者「網野アミ」さんは、福井県在住です。
小説中でも、福井県を持ち上げるネタが何度か出てきます。
網野君ネタをシリーズ化する雰囲気もありませんでしたし、まだ小説は書きたいようでしたので、どうしてこのような(たぶん)ペンネームにしたのかは…この小説、最大の謎です!
いっその事、ペンネームは「福井 愛」にした方が、少なくとも紀伊國屋福井店では、注目されたかもしれません。

(後編へ続く)

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