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サダ君、タケオ君、ナカムラ君、わたしの4人は、怪我することもなく再び山に入って行きました。
しかし、初めての場所だったので行き当たりばったりだったというのが本当です。
時計ももっておらず、時間はわかりませんでしたが、日はかなり落ちて力なく、夕焼け空になる一歩手前といった感じでした。
山といっても、高い山ではなく遭難するような場所でも無かったのですが
だんだんと道らしき道ではなく
ただ人が歩いたことがあるだろうという痕跡だけがうかがえる所を歩いていました。
歩きながら、さっき斜面からころがり落ちていったタケオ君が
「気分がわるい」と何度も何度も独り言のように喋っていました。
「もう帰ろうや」と先頭を歩くサダ君に向かって言う私に
「道がわからん」とサダ君は小さな声で答えました
「えーっと」言いながらも、来たことがない場所だったので
あたりまえと思いながらそのまま進んでいました。
少し歩くと、目の前には大きな葉っぱが谷全体を覆い尽くしたような場所に出てきました。
よく見ると、熊笹のようでした。
熊笹に覆われたその場所は、道などなく
まるでジャングルの木々をかき分けるようにして進まねばなりませんでした。
すでに周りは夕焼け朱色で彩られ、しばらくすると暗闇に覆われると言うことはわかっていました。
付近には人工的なものは何もなく、聞こえる音と言えば私たちが熊笹の林をかき分ける音と
どこにいるかもわからないカラスの不気味な鳴き声だけでした。
すると後ろを歩いていたナカムラ君が「なんやーあれ!」と大きな声で叫んだのです。
後ろを振り向き、ナカムラ君の顔を見ながら「何?どうした」と聞くと
「あっ、あれ」と進行方向の右手側を指さしました。
私たちは、彼が指さす方を一斉に向きました。その瞬間、私は背筋が凍り付きました。
2,30メートル先の山の斜面に、白っぽい衣服をまとった髪の毛の長い女性らしき姿が見えたのです。
でも、顔は見えず、いやいや見ようなんて気も起こりませんでした。
すると、先頭を歩いていたサダ君が「幽霊じゃー」と叫ぶと同時に走り出したのです。
残った私たち3人も、サダ君の後を追いかけるようにして走り出しました。
もう、無我夢中でした
熊笹の密生するその場所から、1分1秒でも早く離れたかったのです。
どこをどう走ったのか、さっきの場所がどこだったのかもわからないまま
息を切らせながら山を下って行きました。
やっとのことで、道のない山の斜面からアスファルトの道路に出ることが出来ました。
しかし、タケオ君の姿がありません
私は「タケオはどこ?」とサダ君、ナカムラ君に聞きました
私たちは、下ってきた斜面を見ましたが、タケオ君の姿は見えませんでした
3人は「タケオ、タケオ」と何度も何度も叫びました。しかし、タケオ君の返事はありません
周りは、いつの間にか夕闇に覆われ、お互いの顔をハッキリと確認することも出来なくなっていました
「わーっ!」と大きな声がして、私は思わず、たじろいでしまいました
声の主は、なんと、タケオ君でした。私たち3人を驚かそうとしたのです
遅れたタケオ君は途中で小道を見つけ、そこから山を下りてきたそうなんです
「はよ、帰ろう」
私がいうと、「うん」と3人は答えました
4人は、足早に歩いて家路へと向かいました
翌日、学校に行くとタケオ君の首筋には、クサーイ臭いのするサロンパスが貼られていました
しかし、帰ってからも、現在にいたるまで
なぜか熊笹の林でみた女性の姿に関して話すことは、なかったのでした
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