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武藤直大氏の旅のエッセイ第二弾をお送りします。 残念ながら写真がありませんので、 ドイツ占領時代の青島の写真(アメリカ在住原山さん提供)を載せますので、 百年前のタイムトラベルを同時にお楽しみください。 ――武藤直大の旅のエッセイ―― 「旅遊指南」観光バスの旅は道連れ(二) ■ドライなドバイ 昨年、中東のドバイで乗った観光バスのシステムは、全く違っていた。ガイドブックの『地球の歩き方』を読んで、「乗り降り自由で観光地を観て回れる」便利な観光バスがあると知っていた。ところがホテルのカウンターでは「そんなバスは知らない」と言って、自分のホテルから出ている観光バスを勧める。市内には何箇所も観光案内所があるが、いつ行っても人はいなかった。ドバイは金持ち客が多いから、ガイドぐらい個人で雇える。案内所に聞きに来るような観光客はいないのかもしれない。 仕方なく地図を見ながら歩き回ることにした。民族博物館に行った時、相棒の元幼稚園長の友人がそこの守衛のジイさんに聞いている。“ムダなことをする”と思って見ていたら、それが当たりだった。 「私の知っているハッサンという男がそのバスの出る所に連れて行く。ホテルからこの携帯に電話しなさい。車の料金は要らないよ。だけど必ず私の名前を言うんだよ。アブドーラだ」 何となく怪しげだが、悪者には見えない。おとなしそうなジイさんだ。昼間から誘拐されることもないだろうと、翌日言われた通りに電話した。ホテルのロビーで待っているとハッサンはすぐやってきた。タクシーではない。白タクのようだった。 「よかった、ホテルでは教えてくれなかったのに、あの博物館の守衛は親切だね」 「いやぁ、コンミッションだよ。お客さんを紹介したら、会社からお金が出ることになっているからね。皆やってるよ」 砂漠だけにすべてがドライ。それぞれが合理的にこつこつと稼いでいるのだ。白タクはその観光バスの発着場に着いて、ハッサンは係員と何か話している。私はバスの乗車口でその係員に金を払った。1人3千円位だった。ハッサンはその中からコンミッションを貰い、その1部をアブドーラに渡すのだろう。 バスは30分おきぐらいに発車している。英語と仏語の録音テープを流すだけでガイドは乗っていない。目指す観光地に着くと、観たい客は降りてバスはすぐ発車する。客はそこで観たいだけ観て停留所に戻り、次のバスを待てばいいのである。停車する観光地は10ヶ所ぐらい、その中に運河を通って紅海にちょっと出る遊覧船も含まれている。 地上800メートルの世界最高のタワービルとか、高層ビルの周りを冷房でスキーコースにした施設とか、住宅も公園も金にあかせて造ったものばかりである。私の趣味には合わない。スーパーの「カルフール」のある場所が分かって、そこで砂漠の国の果物を買った。ブドウ、リンゴ、ナシもあるが輸入だろう。真っ赤なトマトがあった。これは砂漠の太陽で熟れたものだ。300円で10個ぐらい。宿に帰って食べると何よりも美味かった。 ↑ドイツ占領時代の青島。 ドイツ兵も自給自足のため(?)畑仕事か。 ■キャットフィッシュ
昔と比べて気が楽になったことがある。人種差別をほとんど意識しないで済むようになった。50代近くでニューヨークに出張した時だった。仕事の休日に市内観光バスに乗った。全席が埋まったところで出発。ところが私の席の隣が空いている。見ると若い白人の男が前のほうに立っていた。 運転手が座れと言う。車内の客も「座れ、座れ」と騒ぎ出した。 「いや、俺は立っていたいんだ」 若者は頑としてきかない。運転手は諦めて走り出した。騒いでいる時に当事者の私も何か発言すべきだったかもしれない。「カラード(有色人種)とは一緒に座れないのか」とか、、、しかしそんな言葉も思いつかず、勇気もなかった。何がなんだか分からない振りをして過ごしてしまった。 ロサンゼルスからテキサスを経てワシントンに飛んだ時には、隣の席の上品そうなおばあさんからやたらに話しかけられた。私が『週刊新潮』を読んでいると、 「その広告のコーヒーは美味しいの?アメリカでは全く見ないけど」 「貴方たち日本人はどんな家に住んでいるの?私の家はテキサスの牧場のレインにある」 「貴方はキャットフィッシュは食べる?」 好奇心の塊りのようでで、何の脈絡もない質問が次々に出てくる。コーヒーの広告はネスカフェだった。大都市のサラリーマンはたいていアパートメントに住んでいると説明した。レインの意味がなかなか分からない。何分か経ってはっと思い出した。「ホーム オン ザ レイン」大昔のビング・クロスビーの歌「峠の我が家」である。このばあさんは牧場主で、小高い山の上の大邸宅に住んでいるのかもしれない。 キャットフィッシュは最後まで分からなかった。ところがワシントンについて全く偶然の機会に答えが出た。取材でペンタゴン(国防省)行くとポトマック河が近くを流れている。そこで黒人が釣りをしていた。魚篭を除くとナマズがいる。日本のと違って色が白く細身でスマートだが、鬚が生えている。間違いなくナマズだ。名前を聞くと、 「キャットフィッシュ」 そうだ、ネコのように鬚がある。ナマズのことだったのだ。この話はまだ続く。 “どうしてあのばあさんは、日本人の僕にナマズを食べるか、と聞いたんだろう?” 私の考えでは、ナマズは下等な魚である。川で釣れてもたいてい捨ててしまう。それを食べるかと聞かれたのは、何となく釈然としなかった。 国防省での取材が終わって雑談となった。相手は広報の海軍中佐だった。これまでのことを話すと、 「それは貴方の誤解ですよ。ナマズは南部では白人も食べています。きっと、そのおばあさんも好きだったんじゃないでしょうか」 と笑った。こういう話は何十年経っても覚えている。
(おわり)
↑ドイツ占領時代の青島。 ウサギ狩り後の記念撮影か。 前に獲物が並んでいる。大猟だ。 |
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バスの中でのおばあさんとの話は面白かったですね。「キャットフイッシュ」日本語に訳すると「猫魚」それを食べるか?と聞かれると・・・・・・・?となるでしょう。訳すると日本でもよく食べる「なまず」の事なんですよね。髭があり猫の顔に似ていることからつけられた名前とおもいます。肉は白身でステーキやフライにして白人、有色人の区別なくよく食べられていますよ。特にアマゾンで獲れる大型の巨大なまずは有名です。昔大洋漁業ではなまずの加工母船を派遣、色々加工して販売する計画を立ていたようですが、実現しなかった事がありました。なまずのステーキ食べてみると大変美味しいですよ。直大さん色々な国に足を運び面白い経験豊富ですね。別な意味で大変羨ましい人生を送っておられますねぇー。
2010/7/6(火) 午前 9:27 [ ターチャン ]
とても面白い!
だから異邦人と会い喋ると楽しいんですね。
2010/7/6(火) 午前 9:36 [ 相子 ]
ナマズの加工母船などを考えた先輩がいるんですか!実現させてほしかったなぁ、残念。いつか、そのステーキを食べようと思っています。でも、一人で食べても味気ないし、「旅は道連れ」とはよく言ったものですねぇ。
2010/7/6(火) 午前 10:39 [ 直大 ]
今日アメリカからのお客さんを案内しました。魚の話になりますとやはりナマズの話になりました。ナマズというのはごく一般的な魚なのですね。ナマズのステーキを一緒に食べたいです。
2010/7/6(火) 午後 10:46