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日本語科の大学2〜3年になると、教科書に、
〜ところへ〜
の説明が載っています。
私も、この「ところへ」を使った例文を、よく学生に作らせました。
すると、必ず何人かの学生がちょっと変な例文を作ります。
例えば次のような例文です。
1)役者が演技をしているところへ転んだ。
2)レストランでご飯を食べているところへ、財布を忘れたことに気がついた。
3)Aさんと話をしているところへ先生に叱られた。
このような例文がなぜ誤りなのか考えてみました。
日本の国語辞典を調べて見ます。
まず、大辞林の説明には、
形式名詞「ところ」に格助詞「へ」のついたもの。
〜たところへ、〜ているところへ、などの形で接続助詞的に用いて、
一つの事態が起こったとき、あるいは起こっているちょうどそのとき、
他の事態がさらに生じることを表すときに用いる。
(例)家を出たところへ雨が降ってきた。
(例)寝ようとしているところへ電話がかかってきた。
と書いてあります。
基礎日本語辞典(森田良行)の説明には、
Aという状態のとき、Bという状態が重なって起きる。
と書いてあります。
他の国語辞書も大体同じような説明です。
ではこの説明を、先の誤用例に当てはめてみましょう。
例文1)、
役者が演技をしている(ところへ) → Aという状態。
転んだ。 → Bという状態。
ということになります。
つまり、Aの状態(役者が演技をしている)ところへ、
Bという状態(転んだ)が重なって起きたのです。
ですから、この例文は正しいということになります。
おかしいですね。
結局、大辞林、基礎日本語辞典、ともに説明が不十分だということがわかります。
例文1)2)3)は、
Aという事態(状態)と、
Bという事態(状態)の主体が同一であることに問題があります。
例1)の例文を、次のように直してみましょう。
<役者が演技しているところへ、黒子が転んだ。>
Aの事態(状態)と、Bの事態(状態)の主体が別になりました。
それでもまだ変ですね。
どうやら、「へ」という方向性も考えなければならないことがわかります。
Aという事態(状態)の「方向に向かって」、
別の事態(状態)Bが、重なって起こるのです。
<役者が演技をしているところへ、黒子が転がり込んできた。>
という文章にすれば、もう完璧です。
日本の国語辞典には、最低でも、
「Aという事態と、Bという事態の主体は同一ではない」
ということを説明に加えなければ不十分だということになります。
これからの辞書作りは、
外国人学習者を念頭に置いて作って欲しいものです。
※この記事は、以前、「天津日本語教師会HP」に載せたものを再構成したものです。
※写真は、旧ドイツ領事館跡。写真と本文とは関係ありません。
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