青島満帆

戦争は、勝った側も負けた側もこんな馬鹿馬鹿しいことはない」黄瀛

過去の投稿日別表示

[ リスト | 詳細 ]

全1ページ

[1]

湖北路の家

筆者、武藤氏の経歴をご紹介します。

【武藤直大氏略歴】

昭和6年 中国厦門市生まれ。
外務省勤務の父とともに満州、中国の都市を転々として昭和14年青島へ。
戦後、郷里熊本に引揚げ。

昭和29年大卒後サンケイ新聞入社。
運動部、週刊サンケイ記者を経て同誌編集長。

後に印刷会社に転職し定年退職。

著書
『サラリーマンのマイホーム作戦』
『もう一つの空コミューター航空』
『その時代の空気 明治・大正・昭和の新聞記事』など




「第2章、湖北路の家」


青島に7年いて、その間に6軒の家に住んだ。

平均して1軒に1年ちょっとしかいなかったことになる。

どうしてそんなに引っ越したのか、

そのときは親に聞かなかったので分からないが、

子供たちにとっては理由なんかどうでもよかった。

新しい家に移る度に玄関から飛び込んで、

どんな部屋があるのか走り回って検分するのが、

胸をワクワクさせる毎度の冒険だった。


湖北路13号は青島に来て4軒目の、

昭和18年(1943年)から19年にかけての我が家だった。

高い塀に囲まれた一画に3階建ての洋館が3棟、道路に沿って並んでいる。

イメージ 1




1棟が2、3軒に分かれていて、

我が家は左端の棟の2軒に分かれている東側である。

イメージ 2

  ↑右側が武藤氏旧宅



道路から階段を5、6段上がって門を入ると百坪ぐらいの前庭。

少し歩いてさらに10段上がって玄関がある。

イメージ 3


イメージ 4




ドアを開けると3畳間ぐらいの空間で、

先にもう一つ玄関と同じくらい頑丈なドアがあった。

二つ年長の兄の解釈では、

ここはお客さんが来た時、オーバーやコートを脱ぐ場所である。

その二つ目のドアを開けると広間のような廊下だった。

突き当たりに大きな鏡の付いた化粧台のようなもの。

左の南側にドアが三つあって、

右側はトイレと、幅が2メートルほどの階段、

その横に裏口とキチンに通じる廊下があった。


玄関に近いほうからドアを開けていく。

応接間でソファー等の来客用三点セット。

壁にはワイングラスなどいろいろなコップが並んでいる棚があった。

次のドアも応接間で、セットは少し簡単というかカジュアルなものになっている。

その二つの部屋からは外のバルコニーに通じるドアがあった。

バルコニーは椅子やテーブルが7、8人分並べられる広さがあったが、

ずっと使われていなかったようで、隅には埃や落ち葉が見えた。

イメージ 5




三つ目のドアは食堂で、長いテーブルが中央に、

壁には食器棚が二つと大きな暖炉がついていた。

部屋は三つとも広くて16畳ぐらい。

2階は和室で、南側に畳の部屋が三つとベランダ。


廊下を挟んで北側には洗面所、トイレ、風呂場がくっついている。

そのほかに二つの部屋があったが、畳は敷いてなくて納戸のようだった。

畳の部屋は12畳以上あったようで、

両親と子供6人の8人家族が寝起きするのに二つの部屋しか使わなかった。



3階は仕切りのない広間。

窓はついていたが屋根裏部屋のようで薄暗く、

使われない家具がほこりをかぶって置いてあった。

子供心に何となく走り回るのはちゅうちょされた。

地下室はもっと暗くて、小さな裸電球がついているだけ、

白壁も汚れて床は湿っており、かくれんぼする気にもなれない雰囲気だった。


裏庭も百坪ぐらい。

ここは後に兄が中心になってトマトやナスなどの家庭菜園になったが、

やがて真ん中に防空壕が造られた。

イメージ 6

  ↑現在空地はなく、ビルがびっしり。




ドイツの占領時代に建てられたものだが、

それほど金持ちの家でもなさそうだった。

大金持ちだったら海岸からちょっと上がった、

緑に包まれた景色のいい山の斜面に住んでいる。

それでも一階の三つの部屋と廊下を使えば、

食事とダンスするぐらいのちょっとしたパーティーは出来そうだった。

ドイツ総督府などの役人か、高級将校の住宅だったのかもしれない。

同じ棟の隣には同級生の石川君がいた。

父親は司法関係の仕事していた。

他の棟の住民も警察や税関などの役人だったようで、

広さとしては我が家がいちばん広かった。

父は青島総領事館に勤めていて、この頃は領事だったと思う。

イメージ 7

  ↑旧日本総領事館跡



私は小学6年から中学1年にかけてこの家にいた。

住み始めて2、3日たって、

窓の下を犬の集団が行ったり来たりしているのに気がついた。

野良犬らしきのが5、6匹、

そのうちの2匹がリーダーのようで、まあ姿もいい。

口笛を吹くと窓の下に寄って来て見上げる。愛想もいい。気が合いそうだ。

すぐ庭に出て犬にさわりにいった。

姿がいいのは全身真っ黒で長い毛の中型犬。

もう一匹は胴体が長くて大きな耳が垂れているダックスフントの雑種のようだった。

このダックスが私と目が合うと、すっと好意が通じたようだ。

すぐ転がって白い腹を見せ、くんくんと鼻を鳴らした。


「よし、これからお前は俺の子分だ」


と、腹と首をさすってやった。

後で分かったのだが、黒い方は石川君のうちの犬だった。

といっても犬小屋があるわけでもないし特に食事もやっていないようだった。

私と同じように、野良犬を勝手に自分のものにしていたようだった。

誰にも文句は言われないし、子供にも犬にとっても嬉しいことである。

石川君の犬の名前はクロだった。私のはチビと付けた。

野良犬部隊はその後も依然として家の付近を縄張りにして巡回していたが、

窓から口笛を吹くと、どこからか走ってきて見上げる。

やがてチビは我が家の窓の下に坐っている時間が多くなった。


南側の2階のベランダからは遠くに海が見えた。

家は海岸から1キロ位緩やかに登ってきた坂道の頂上近くにあって、

イメージ 8




家の後ろの坂の頂上には、

当時市内で最も高い建物(60メートル)で、

青島の象徴にもなっていたカトリックの天主堂があった。

前述の海軍巡邏隊・服部一等兵曹が撃たれたのは、その前の道路上である。

イメージ 9





その教会が見える北側のベランダで私はよくラッパを吹いた。

中学校でラッパ部に入ったからである。

新入生を集めて部員募集があった時、私は最初は柔道部に入るつもりだった。

しかし部長をはじめ上級生が皆んな不良じみた服装で、

恐そうに肩をいからせている。

それに毎日放課後、遅くまで練習すると聞いて止めにした。

自由に遊ぶ時間がなくなるのがいやだった。

そこへラッパ部の勧誘があったので、吹いたことはないが嫌いではなかったし、

練習時間も少ないので衝動的に入ってしまった。


家の北側の塀に接して消防署があった。

敷地内の広場で2、30人の中国人の署員がよく訓練をしていた。

消火訓練以外に体操や行進、駆け足などもしている。

それと私のラッパの練習が偶然かち合った。

行進ラッパを吹いていると、署員の歩調にピッタリ合うのだ。

それで駆け足をするとこちらも駆け足ラッパを吹いた。

向こうが気づいてちらちらと見ている。

私は知らんふりで続ける。

こちらが訓練のサービスをしているようでもあるが、

からかっていると取られても仕方がない。

中学1年生、13歳の子供である。

大人の彼等は心中では苦笑いで済ますか、

バカにしていると怒っているかも知れない。

日中間の微妙な感情の流れを意識しながら、私はラッパを吹き続けた。

イメージ 10

  ↑現在の消防署



昭和19年(1944年)に入って、

ある夜、帰ってきた父が兄と私を呼んだ。

厳粛な顔をして手には愛用の猟銃を持っている。

私たちには絶対に触らせなかったものだ。


「近頃、日本人の家によく泥棒が入ってくる。

もし家に来たら、これで構えて対抗しなさい。

今から射ち方を教える」


と安全装置のはずし方、引き金の引き方を教えてくれた。

手に持った猟銃はずしりと重かった。

「生兵法は大怪我のもと」という事は父も百も承知していたはずだ。

それでもこうする必要があったほど、治安が危険な時期があったようだ。


昭和19年夏にはサイパン島が陥落、

東條内閣が総辞職して敗色が濃くなっている。

幸い我が家ではこの銃を使う実戦の機会はなかった。


この湖北路の家は戦後55年ぶりに行ってみると、

「青島星光行」という看板がかかったアパートになっていた。

イメージ 11

  ↑現在は美容室

全1ページ

[1]


.
bad**uan1*3
bad**uan1*3
男性 / A型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29

最新の画像つき記事一覧

Yahoo!からのお知らせ

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事