青島満帆

戦争は、勝った側も負けた側もこんな馬鹿馬鹿しいことはない」黄瀛

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究極の勤労動員、遂に陸軍通信兵(二)



学徒班の指揮上官として隊長の見習士官と、二人の下士官の班長が紹介された。

見習士官は大学からのいわゆる出陣学徒で、

名前は忘れたが優しそうな人だった。

班長は薄井伍長と高橋兵長である。

小柄だが精悍そう、おそらく部隊の下士官の中から優秀な者が選ばれたのだろう。

式が終わって、私達は中学の先生から陸軍部隊の班長の指揮下に入った。

そこで、これからの住み家となる内務班に連れて行かれた。

同じ造りの二階建ての長い兵舎が並んでいて、その一棟の二階に上がった。

北側の廊下を通って学校の広めの教室位の部屋に入る。

中央に頑丈な木の長机と椅子。

左右の壁に面して50センチぐらいの高さの床があって、

たたんだ毛布が並んでいる。一人分の幅が1メートル足らずの寝場所である。

南側は広いベランダで長いテーブルがあった。勉強や食事をするところである。

そこに座って軍隊生活の規則を教えられた。

「ここが内務班でお前達が生活する部屋である。

起床午前6時、消灯午後10時、食事は交代で飯上げ当番が運ぶ。

軍隊ではどこでも部屋に出入りする時は、

入り口で皆に分かるように名前と目的を大声で申告する。

飯上げで炊事室に行くときは、学徒班誰だれ、飯上げに行って参ります、

というようにだ」

こうして軍隊生活が始まった。

イメージ 1

  ↑旧ドイツ、イルチス兵営、のち日本陸軍兵営(現在中国海軍施設)




午前中は内務班でモールス信号の勉強である。

モールス信号とは電信で文字を送るときの記号で、

長さの違うトンツーの信号音(書くときは点と線で表す)の

五個以内の組み合わせで五十音字や数字も全部表す。

たとえば「い」はトンツーで、覚えるときは似たような言葉「伊藤」と発声する。

「ろ」はトンツートンツーで「路上歩行」。

「は」はツートントントンで「ハーモニカ」。

これを怒鳴るような大声で「い」からお終いの「ん」まで

何十回も繰り返して覚える。

大変なようだが、実は私はこのモールス信号は以前から完全に覚えていた。

小学校時代、海洋少年団に入っていたので、

海軍の基地で手旗信号と共に習っていたのだ。

テストがあった時には50問中49問正解で成績優秀として表彰され、

銀バッジを貰った。

間違えた一問は今でも覚えているが、受信でツーツートンツーが分からなかった。

それは「ね」(寧猛だろう)だった。

それ位よく覚えていたので、通信隊での暗誦教育は楽だった。

というよりも私には必要なかったのだが、

海洋少年団に入っていた者は入隊者の半分ぐらいだったから、

全員が一から始めたのである。

海洋少年団の経験者だけを選んで入隊させれば手数が省けたと思うのだが、

学校で我われ生徒を陸軍組、海軍組、工場組に分けたときには、

そういう配慮はなかった。効率を無視したいい加減な基準だった。

午後は外に出て、営庭で行進とか匍匐(ほふく)前進等の教練である。

そうして最初の三日間が過ぎた。

三日目の夜、内務班で高橋伍長が改まって恐い顔をしている。

「お前達、軍隊の飯を食って、今日で何日になる。動作がぐずぐずたるんどる。

陸軍軍人は地方人とは違う。これからビシビシやるぞ」

と怒鳴った。

地方とは陸軍内部で一般社会を指す言葉で、

海軍では娑婆(しゃば)と言っていた。

これを三日目にやるというのは、後で分かったのだが、

陸軍で新兵教育をする際の伝統らしかった。

だから私達も子供ではなく新兵扱いされていたわけで、

本気で兵隊にしようと計画していたようだった。

しかし午前中はモールスの暗誦、午後からは外で教練という日課が続いて、

なかなか通信機を組み立てたり運んだり、

相手と発信、受信するような実技には入らない。

こちらはそれでも構わないが、

もうすぐ米軍が上陸してきて実戦で役に立たせるのに間に合うのだろうか、

とも思った。

夕食後には営庭のアカシア林の下で軍歌演習をした。

一節ずつ班長が先に歌い、その後、私達が歌う。

つまり同じところを二回歌って先に進んでいく。

「北支派遣軍の歌」「空の神兵」「ラバウル航空隊」等、声の限り歌う。

ストレス発散になった。士気高揚の狙いもあったのだろう。

兵営での生活にも少しずつ慣れてきた。

昼食後の空いた時間に洗濯をする。

流しで水を出す蛇口も、洗濯物を干す位置も決められていた。

驚いたことにトイレも将校用と兵隊用に分けられていた。

初めは知らなかったので、平気で将校用に入っていた。

怒られなかったのは、誰にも見つからなかったか、

昼間は子供と分かって見逃していたのかもしれない。

ところが夜、薄暗い電灯の中で用を済ませて出てくると、

兵隊からぱっと敬礼された。

内務班に帰って皆に話すと同じ経験者がいて、

将校と間違えられたからだという理由が分かった。
(つづく)

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