青島満帆

戦争は、勝った側も負けた側もこんな馬鹿馬鹿しいことはない」黄瀛

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武藤直大の「サハラ砂漠への道」(最終回)



<この記事は、

武藤さんから届いたモロッコの旅日記です。

とうとうサハラ砂漠に着いた武藤青年は、

冷たい砂漠の砂の山に座って、何を感じ、何を思ったのでしょうか。

感動の最終回です。>


イメージ 1

  ↑フナ広場の蛇使い。黙って撮っていたら怒られて、
   ご覧の通り5ディラハム払いました。




■  冷たい冷たい砂漠の砂


翌朝、未だ薄暗い午前7時集合。小型バスで出発した。

総勢14名、ほとんどがヨーロッパの学生で、

他に50前後の太ったおばさんとその亭主(後に息子と分かった)らしい男、

我われはダントツの高齢ペアだった。

車は先ず標高3000から4000メートルの山が連らなるアトラス山脈を目指す。

モロッコの西海岸からマラケシュまでの緑のある平野と、

アフリカ中央部の砂漠地帯を分ける山々だ。

大峡谷に入って1時間の見物・昼食があったが、

あとは2、3時間おきのトイレ休憩を除いて走り続ける。

暗くなったが人家の灯りも街灯もない。

バスのヘッドライトだけが頼りで細い山道をかなりのスピードで飛ばす。

運転手は慣れているのだろうが、窓の外を見るのが怖いくらいである。

7時過ぎ、谷間の小さな村に入って止まった。

イメージ 2

  ↑砂漠の途中のオアシスの村で。ベルベル人の子供たちは可愛かった。




降りると、目の前は民家と思ったがホテルの看板があった。

ここがどこなのか、運転手は何も説明しないから分からない。

聞いてみたが、

アラビア語なまりの英語らしき返事が返ってきて理解できなかった。

ワルザザードは明るいうちに通り過ぎたから、

その先まで来ていることは確かである。

食堂の薄暗い電灯の下で食事を取り、暖房のない部屋で寝た。

昼間は日差しが暑すぎると感じた時もあったが、夜はしんしんと冷えてくる。

予備の毛布も掛けたが、一晩中震えていた。


翌朝は5時半起床、6時半出発。

前日と同じように走りに走って、日がだいぶ西に傾いた頃、

タイヤの下に道がないことに気が着いた。

バスは土と石ころの荒野を走っている。

やがて遠くに黄色い小山の連らなりが見えてきた。

説明はなかったが、どうやら砂丘らしい。

本物の砂漠はこうして現れた。


土と砂の境界線に建っているホテルの前でバスが止まった。

“やれやれ今日はここ泊まりか”

と思いながらホテルのロビーに行くと、そのまま裏庭に案内された。

そこにラクダの群れが待機していた。

イメージ 3

  ↑本物の砂漠に着いた! ホテルのロビーを通り過ぎて裏庭に出ると
   ラクダが待っていた。いざ出発!




一人ひとりに分厚い毛布が手渡される。

それを持ってラクダに前に立つ。

折りたたんで背中に掛け、それにまたがる。

立ち上がる時、後ろがぐんと上がって危うく前に落ちそうになり、

鞍をしっかりと掴む。

ここで太ったおばさんの組がホテルに留まった。

これから先は無理と判断したのだろう。

イメージ 4

  ↑砂浜の麓につくられたテントホテル。
   残念ながらこういう若者の脚力には付いていけなかった。




暗くなりかけた頃、12頭のキャラバンが出発した。

先頭のラクダを黒い肌を白衣で包んだベルベル人が引き、

あとのラクダは前から順に繋がれている。

ガイドは先頭の一人だけである。

落馬というか落ラクダしても面倒を見てくれる者はいない。

これから先は完全な自己責任だ。

平地を歩く時は揺れないが、

砂丘の登り降りではラクダの首が極端に上下して

重心が移動するので緊張した。

キャラバンは砂丘のなだらかな稜線を選んで曲がりながら進む。

夜になったが周囲は明るい。

満月だった。

砂面にラクダに乗った自分の黒い影を見ていると自然に思い出す。


  ♪月の砂漠を はるばると 

  ♪旅のラクダが 行きました 


童謡とそっくりのロマンチックなシーンである。

イメージ 5

  ↑帰り道、朝日を浴びてゆっくり進む、わがキャラバン。

イメージ 6

  ↑♪二つ並んで ♪行きました




1時間ほど歩いて、

砂丘の麓に今までの景色になかった黒っぽい影が見えてきた。

近づくとテントだった。

月明かりでみると、砂に突き立てた角々の柱を毛布でつないである。

天井も毛布だった。

中をのぞくと暗闇の中に絨毯が敷いてあるのが分かった。

イメージ 7

  ↑ここに寝ました。テントホテルのベッドルーム。
   掛け布団は各自がラクダの背に敷いた毛布。




そんなテントがくつわ状に5張あった。ここに寝るらしい。

ラクダを降りる時、各自がまたがってきた背中の毛布を持たされた。

それをかぶって寝ろ、ということだった。

なんだかサバイバル・ツアーのような感じになってきた。

それはすぐ現実になった。

食事前に砂漠を歩くことになった。

一向はガイドを先頭にして、

テントの後背地に月光に照らされ薄白く聳え立つ砂丘を登り始めた。

高さは5、60メートルだろう。角度は45度から50度ぐらい。

“大丈夫登れる”

と思っているうちに、だんだんそうでなくなってきた。

登っているうちに、踏ん張る足が急速に沈み込む。

砂が靴の中に入ってくる。それはまるで氷水だ。

冷たく直接肌にさわる。

砂の粒子は驚くほど細かくて、どんな小さな隙間にも侵入してくる。

しかし乾燥したさらさら砂は不思議な快感があった。

靴の中に快感はあっても、体が一向に前に、

いや上に進まないのに気がついた。

ずるずると足が沈み込むのが速くて、踏んでも踏んでもほとんど進まない。

両手を突いて登ろうとしたが効果はなかった。

一行とはどんどん引き離された。

「待ってくれ」とは叫びたくない。

登るには歩調を速めて、片足が沈み込む前に、

もう一方を踏み込まなくてはいけないようだ。

若者たちは登り切って視界から消えた。

追いつこうとピッチを上げる。

汗がどっと噴出した。

1分、2分・・・、心臓の動機が激しくなった。

苦しい。

これ以上頑張ったら命が危ない!

という兆候を感じた。

それでも頂上への距離は、ほとんどちじまっていない。


「この辺で止めとこうか」

「そうね、若者たちと同じことしなくてもいいわ。

上まで登っても、後はこの砂漠を歩くだけでしょう」


二人で砂丘の中腹に腰を落ち着けて、空と砂漠をゆっくりと眺めた。

そのためにここまで来たのだ。


「砂漠の民には哲学者が多い、という話を聞いたけど、

夜は星と砂しか見るものがないから、考えるのにはいいかもしれないね」

「それで何か考えた?」

「未だ何も・・・、

確かにここの月は明るいけど、最近は我が家の屋上で見る東京の月も明るいよ。

“東京砂漠”なんて歌も昔あったな。

僕たちは東京でも孤独なんだよなぁ。

いや、折角ここまで来たんだから、もっとましなこと考えなくちゃね」


そうは言ったが、気分は悪くなかった。

ここまで頭と体力を使い切って、

自分の限界を感じたことは何十年振りだろうか。

仕事を止めてからは一度もなかった。

若者たちにはついていけなかったが、

砂漠に来て何か成し遂げたような爽快感に満たされて、ずっと座っていた。

イメージ 8

  ↑ラクダに乗れたし、その景色! 余は満足じゃ。




30分ほどで一行が帰り、食事になった。

モロッコでは定番のタジン。

羊肉とジャガイモ、ニンジン、タマネギなどを煮込んだ家庭料理だ。

それとパン。

イメージ 9

 ↑ホテル自慢のディナー。砂漠の真ん中でこれだけ食べられたのだから
  良しとするか。水は各自持参です。




食後はベルベル人が三人来て、太鼓と鐘で民俗音楽をにぎやかに演奏し、

リズムに合わせて我われも踊った。

イメージ 10

  ↑テントの中で歌って踊って大パーティー。

イメージ 11

  ↑タイコの演奏も習いました。




歌も歌って10時前にお開き。

外は満月だが、風流に夜もすがら歩くのには寒すぎた。

暗いテントに入ると、後は寝るしかない。

砂と絨毯一枚のクッションは意外にソフトで心地よかった。

ラクダの背にまたがせた毛布も、心配したほど臭くはない。

未だ眠くはなかったが、睡眠薬で苦労せずに朝まで眠れた。            


イメージ 12

  ↑マラケシュに戻ってモロッコ人になりました。
   スークで僕は300ディラハムを
   100ディラハム(1200円)にマケさせたけど・・・、

イメージ 13

  ↑彼女はいくらマケさせたかな。



(完)


「サハラ砂漠への道」ご愛読ありがとうございました。

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