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梅雨と言うには、まだまだ早すぎる時期。 だがしかし、その日は夜明けからただひたすらに雨だった。 天気予報は大外れ、せっかくの休日がだいなしである。 大平(たいへい)も、その被害を盛大に受けていた。 まだ陽が明け切らない時間帯から町の湖で釣りを楽しんでいたものの、夜が明ける頃から少しずつ雨が降り始め、現在は大雨である。さすがの彼も、こう土砂降りでは引き上げる他なかった。 「ついてねぇなぁ〜……」 釣果はゼロ。空のバケツと活躍の無かった釣り道具を持って、濡れ鼠の身体をひきずりながら大平は帰路を急ぐ。 山道では、すれ違う人もほとんどない。雨のカーテンで、三メートル先もろくに見えない。 だがしかし、そのカーテン越しに、大平は彼女と目があった。 半袖の白いワンピースの彼女は手ぶら、大平は大荷物。互いに雨具は持っていない。 知り合いではないはずだが、大平は彼女から目が離せなかった。 彼女は、自分とは違う。何かが違う。そんな感情がふつふつと心のうちにわく。 雨が、音をとどろかせて強くなる。雨のカーテンの中に、少女の姿が消えていく。 呼び止めようにも、大平は声を出すことができなかった。 その年の梅雨、彼の住む天満(てんまん)町はかつてない日照りにさらされることとなる。 |
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